ベトナム、ブラジル、フィリピン・・・。これまでは、国内企業のオフショア拠点として中国とインドが圧倒的に強かったが、ここにきてアジアや南米のIT ベンダーが急浮上してきた。ベトナムでは日本語が分かるITエリートの育成大学が誕生。国内ベンダーも有望と見て、現地法人を設立したり、現地ベンダーへ の発注を拡大している。一方、南米からはブラジルのSI大手ポリテックが、2007年に入って日本市場の開拓に本腰を入れ始めた。さらに、フィリピンのソ フト開発企業も日系企業向けの営業活動を強化している。オフショア開発の最前線を追った。日本語が分かる1万人のソフト開発技術者がベトナムから日本に押し寄せる――。5年後、これが現実になるかもしれない。2007年1月、日本語とITを教える4年制大学がベトナムに誕生した。技術者不足に悩む国内ITベンダーが早くも熱い視線を送っている。
2007年1月13日の土曜日。野村総合研究所(NRI)、TIS、日立ソフトウェアエンジニアリング、新日鉄ソリューションズ、住商情報システムな ど、国内大手 ITベンダーの役員10人近くが、ベトナムの首都ハノイに顔をそろえた。日本市場に向けたエリート技術者を育成する「FPT大学」の創立記念式典に出席す るためだ。
FPT大学は、ベトナム最大手のシステム・インテグレータ、FPTソフトウェアの親会社FPTコーポレーションがハノイに設立した。同 大学理事長に就いたFPTコーポレーションのチュオン・ザー・ビン社長兼CEO(最高経営責任者)は、「ベトナムでは日本語ができるソフト技術者が圧倒的 に不足している。加えて、大学のソフト工学系学部が施している教育内容と実ビジネスで必要なITスキルに差がある。これらの問題を一挙に解決したい」と意 気込む。生徒数は 2~3年後に、4学年合計で1万人になる計画だ。
日本向けの即戦力人材を育成するため、FPT大学では日本でのシステム開発経験がある技術者を日系企業から講師として招へい。日本のシ ステム開発手法を教え込む。教育カリキュラムも、経済産業省のITスキル標準(ITSS)を参考に策定。FPTや日本のITベンダーで実際のシステム開発 プロジェクトを体験する実習の場も設ける。日本語に関しては、各種講義を日本語で進めるなど“日本語漬け”の環境にする。
ベトナムのIT産業の歴史は浅く、ソフト開発力で比べればインドの、日本語や日本の業務の理解度では中国の後ろを走る。にもかかわらず、国内ベンダーがFPT大学に注目するのはなぜか。
式典に出たTISの岡本晋社長はその理由の一つを、「ベトナム人は勤勉でチームワークを重視する。会社への帰属意識も高いため」と説明す る。業務やシステム開発のノウハウが企業に蓄積しやすく、長期的な関係を築きやすいわけだ。プログラマの人月単価が15万~25万円と中国やインドより安 価なことや、1月にベトナムがWTO(世界貿易機関)に加盟したことも追い風だ。
FPT大学については、企業が大学を設立することが珍しいのもあり、当初は「優秀な学生が応募してくるのか」と懸念さ れていた。設立認可を得るのに時間がかかり試験日程が他大学からずれたりもした。だが、いざ募集を始めると、全国から1871人の入学希望者が殺到。最難 関校であるハノイ工科大学を蹴ってまで受験する生徒もいた。最終的に、初年度は299人が入学した。
ベトナムでは、ソフト技術者は3本の指に入る人気職種。優秀な人材が集まりやすい。基礎力がある学生に4年間みっちり日本語とソフト開発の実践力を教え込めば、日本での人材不足を補えるのではないか。国内ベンダー幹部らには、そんな皮算用がある。
増える現地法人設立や現地ベンダーへの発注拡大
ベトナムの急進を目の当たりにし、優秀な人材の確保に苦労する日本の大手ベンダーが、ベトナムに触手を伸ばし始めた(表1)。昨年は、日本ユニシスと NECが、ハノイにソフト開発子会社の現地法人を設立した。日本人の幹部が直接現地に出向いてベトナム人技術者の採用や教育に乗り出すなど、ベトナムへの発注を強化する動きを見せる。
将来の技術者を囲い込む
日本ユニシス・ソリューションズ(USOL)の現地法人「USOLベトナム」の横溝幸一社長は、ベトナム進出の理由を、「安価な技術力を使った目先のコスト削減でなく、3年後、5年後といった中長期的な戦略に基づき技術者を育成するため」と説明する。
横溝社長のベトナム人技術者評は、「シビアにみれば、現時点では戦力外」と厳しい。真面目でチームワークを重視する文化は日本と似ているものの、日本語 はまだたどたどしく、「やる気はあっても、仕事への責任感などで、日本人と全く同じレベルは期待できない」(同)からだ。
だが一方で、素材の優秀さは半端ではないという。USOLベトナムの社員で、日本ユニシスの東京本社で半年間の研修を受けたグエン・ スァン・バッチ氏(23歳)は、入学試験免除で、最難関のハノイ工科大学に入った超エリートだ。ベトナムに64ある各県の成績優秀者8人だけが受験できる 全国統一試験で3等賞を取った逸材だ。残念ながら、日本でこれだけ優秀な学生をIT業界が引き入れるのは難しい。
将来の戦力として教育を支援するという姿勢は、FPTソフトに開発を発注している日立ソフトやTISにも共通だ。日立ソフトでは小川健 夫相談役がFPT 大学のシニア・コンサルタントに就任するなど技術者教育に積極的にかかわり始めた。TISも、FPTのベトナム人技術者を日本に招き1年間研修を受けさせ たり、日本に留学中のベトナム人学生に奨学金を出すなど技術者教育を後押しする。
東京から3500キロ以上離れたベトナムで、ITと日本語の猛勉強を続ける20代の若者たち。一方で日本企業は少子高齢化の影響からは 逃れられない。彼らの能力に頼るのか、あるいは別の道を探るのか。ユーザー企業としても、ベトナムのIT事情に目を向けておく必要があるだろう。
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