来日する外国人に指紋の採取と顔写真の撮影を義務づける制度がきょうから始まった。
テロリストの入国阻止が目的だ。指紋や写真は、テロリストや犯罪者などのブラックリストと瞬時に照合し、問題がある人や拒否した人は入国できない。
水際でテロを防ぐ趣旨はわかる。しかし、来日外国人の大半にあたる年間七百万人を対象とし、犯罪の被疑者のように指紋を採取するのは、プライバシーなどの人権上、疑問が残る。
当局の恣意(しい)的、政治的な判断があってはならない。
改正入管難民法に基づく制度だ。三つの点で慎重な運用を求めたい。
まず、指紋や顔写真資料の保存期間の定めが法律にないことである。入管は「何年と定めると、それを超えてから入国することになる」と説明する。
入国時の指紋採取は米国に次いで二カ国目だが、米国では七十五年間保存される。その人の一生ということだ。
警察が捜査に必要な時、いつでも使うようになりかねない。個人情報が漏れる恐れも高まる。本来は照合後、すぐに消すべきだ。
第二に、改正法が法相に与えた「テロの実行を容易にする行為を行う恐れがある」人への強制退去権の使い方である。テロ行為の結果ではなく、政府の予測だけで判断される。
改正法に関する講演で鳩山邦夫法相が「友人の友人がアルカイダ」と発言した。根拠は、法相の友人が、インドネシアのバリ島クタ地区で爆弾テロが起きた二カ月前に、ある人から、何か起きるのでクタ地区には近づかないよう注意されたというだけだ。
友人の話を基に、このある人を「アルカイダ」と決めつけたのは軽率すぎる。もし、この程度で法相が強制退去権を乱用するなら、話にならない。
第三に、ブラックリストの正確性を保つことだ。米国では国民の五百人に一人が、テロ容疑者のリストに登録されている。あのノーベル平和賞のネルソン・マンデラ氏も、リストに載っていて、入国できなかったという。
新制度では在日韓国朝鮮人ら特別永住者などを除き、日本に出入国する十六歳以上の外国人すべてが対象になった。道内在住の外国人の七割も対象だ。テロとは無関係の市民を誤ってリストに掲載することは許されない。
一方、外国人労働者を雇用した時や離職時に氏名、在留資格などの届け出を企業に義務づけた改正雇用対策法も先月施行された。外国人の個人情報を入国から就労まで国が管理し、外国とも情報交換できる法体系が整った。
不法入国者を減らす狙いがあるようだが、管理のあまりの強化は、外国人に日本への嫌悪感を呼び起こしかねない。人権を侵さない入国審査方法をさらに工夫するべきだ。
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