出会いは唐突だった。中国・湖北省の都市、宜昌から西安に向かう列車の中、4人ずつ個室に仕切られた1等寝台のコンパートメントのドアが勢いよく開けられ、男性が飛び込んできた。●●コメント●●
「いや、最近は厳しいね。ここ空いてる? 座ってもいいだろう」。男性はなまりのある中国語でまくし立てる。
個室は2人分の席が空いていた。ミカンを詰めた段ボールを床に置くと、男性は数個を取り出し、「食え、食え。うまいから」としきりに勧めながら話し続けた。
男性は呉盛大さん(仮名、30)。内陸の都市、武漢で線路工事の仕事をし、久々に湖北省の襄陽という町の自宅に帰る途中だという。三国志で劉備が諸葛亮らと出会ったことで知られる町だ。
ただ、呉さんには武漢からの定期券しかなく、満席なら座れない。勝手に2等寝台に座ろうとして女性車掌に追い払われ、逃げてきたという。
呉さんには2歳の娘がいるが、離婚したため、仕事中は親類に預けるほかない。月収は3000元(4万5000円)。内陸では少ない方ではない。
「西安に行くの? 何もないよ。行くなら上海だよ。上海はいいぞ」。呉さんは以前行った上海を思いだし、うっとりした様子で力説した。
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「ここら辺は1平方メートル、1万8000元(27万円)になる」。空路、西安から上海浦東国際空港に着き、市中心に向かうバスの中、案内役を務めてくれた上海の新聞協会の江興華さん(53)は、林立する高層マンションを示しながら説明を始めた。
市中心と黄浦江を挟んだ反対、浦東地区は、前回上海を訪れた12年前にはテレビ塔が立つだけで、田んぼが広がっていた。それが奇抜なデザインの高層ビルがそびえ、リニアモーターカーが走る未来都市に一変していた。「12年前とは異国だ」。言葉を失った。
江さんによると、上海の人口は1700万人。このほか内陸からの出稼ぎなど流動人口が400万人に上るという。「やる気さえあれば仕事はいくらでもある。足裏マッサージの従業員から身を起こす人がいる一方、夢破れて内陸の故郷に帰る人がそれ以上にいる」
上海の1人当たりのGDPは昨年、5万7000元(約85万円)。湖北省の4倍を超す。上海などの都市と内陸の貧しい農村の実質的な稼ぎとなると、格差が50倍を超すとの推計もある。内陸からの出稼ぎの希望と失望を吸い込んで、上海は膨らみ続けている。
◇
出会いから2時間。列車は襄陽の町に近づいた。「電話番号を知らせておく。困ったらいつでもかけてくれ」。そう言うと呉さんは続けた。「そっちの番号も教えてくれないか。日本に行ったら絶対連絡する」
だが、一瞬顔を曇らせると自嘲(じちょう)気味につぶやいた。「おれらの稼ぎじゃ日本へ行けないのは分かっている。でも初めて日本人と話せてうれしかった」
襄陽の町の灯が見える。都会とは比べようもない、はかない灯。だが呉さんにとっては、娘が待つかけがえのない町の灯だ。「家に寄っていかないか。ごちそうする。おれは金をためて4階建ての住宅を建てたんだ。すごいだろう」。呉さんに先ほどの暗さはみじんもなかった。
2007-12-30
格差50倍の上海 出稼ぎの波…未来は「?」
:::引用:::
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