2008-08-11

読む政治:食の安全、感度鈍く 「中国でもギョーザ中毒」、1カ月間公表せず

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中国製冷凍ギョーザ中毒事件の被害が中国内でも発生していた事実について、日本政府は中国政府からの 通報を約1カ月も伏せていた。「消費者重視」を掲げる福田内閣が、関心の高い「食の安全」問題で、国民に重要な新事実を知らせなかった判断に疑問が広がっ ている。高村正彦外相は10日、NHKの報道討論番組で「五輪期間中に楊潔〓(ようけつち)外相に会う。捜査を加速するよう何度でも言う」と、急きょ 16~18日に訪中すると発表。非公表の検討は十分だったか、発覚後も国民の関心に敏感に応えているかどうかを検証した。【鵜塚健、白戸圭一、遠山和彦】

 ◇福田首相への報告、日中首脳会談30分前

 北海道洞爺湖サミット最終日の7月9日午後4時半。議長として最後の記者会見を終えた福田康夫首相は、会場のザ・ウィンザーホテル洞爺で、30分後に控えた中国の胡錦濤国家主席との首脳会談に向け、外務官僚らとの打ち合わせに臨んだ。

 「6月に中国内でもギョーザ中毒事件が起きていたと中国政府が知らせてきた」という情報は、ここで初めて首相の耳に入った。

 7月初めに中国外交部から外務省に「通常の正式な外交ルート」(高村外相)で知らされてから約1週間たっていた。冷凍ギョーザからメタミドホスが検出され、被害者は4人、発生時期や場所まで特定した具体的な内容だったという。

 毒物混入も中国国内で行われたことがほぼ確実となる重要な捜査情報だった。しかし、直後の会談本番で、首相は官僚の振り付け通り「食の安全への日本国民の関心は高い」と述べただけで、新情報を基に要望や質問をすることはなかった。

 中国から通報があった当日、外務官僚は高村外相に「中国が公表しないでほしいと言っている」と報告。外相は「当然だ」と異論をはさむことなく非公表方針が決まった。

 外務省は官邸と警察庁に連絡。警察庁には「外交ルートで来た情報なので表には出せない」と念押しした。官邸では官僚レベルで、政治家の判断を仰ぐ ことなく情報共有を外務省、警察庁に限ることを決めた。「日本国内で新たな被害が出る恐れはないから、公表の有無を議論した覚えはない」(政府高官)。 「捜査中の中国の意向を尊重するのは当然」(外務省幹部)という意識もあった。

 中国が国内の捜査情報を他国に知らせるのは異例だ。混入場所を「日本国内」と主張していたメンツもつぶれる。「通報は指導部トップの判断だったと 聞いた」(外務省幹部)。首相との信頼関係を重視する胡主席が、首脳会談前に知らせておくことを決めた、高度に外交的な配慮だったというのだ。

 だが日本政府内では、厚生労働省や消費者問題担当相など食品安全の担当部署には伝わらず、非公表が問題になる機会は失われた。

 ◇政府内チグハグ、急に「積極姿勢」

 「外務省、まずいんじゃないの。しっかりしてくれなきゃ困ります」。今月7日午後、山本一太副外相は、前日報道で発覚するまで事件を知らされていなかった野田聖子消費者行政担当相から電話で苦言を呈された。

 発覚後も政府の対応は後手に回り、ちぐはぐぶりが目立った。6日午後5時の記者会見で、町村信孝官房長官は「コメントしない」と語ったが、中国政府はすでに異例の早さで日本の報道機関に事実関係を認めていた。

 外務省は慌てて中国側に「問い合わせに答えていいのか」と確認し、町村氏がノーコメントと答えた同じ午後5時の外務報道官会見で公表。同じころ、記者団に囲まれた野田氏は、自分の責任分野で仲間外れにされた不満をぶちまけた。

 思わぬ混乱に、官邸スタッフは同日、情報共有の経路などを検証する「反省会」を開き、態勢の立て直しを図らざるを得なかった。

 検討結果を踏まえて8日、北京五輪を前に臨んだ日中首脳会談で、福田首相は7月の首脳会談とは態度を一変。6月の事件に言及し「日本ではギョーザ 問題がここ数日非常に関心が持たれている。情報公開に強い関心がある」と「食の安全」重視を国内向けにアピールしたが、温家宝首相からは「中国内で発生し た中毒事件については早急に隠さずに日本に通報した」とやんわりと切り返された。

 首相は今、官邸スタッフらに「まず、国内の食の安全は大丈夫だという話を最初にすべきだったな」とこぼしているという。

 「外交はすべてが機密」と決めつけ政権の「国民目線」に鈍感だった官僚たち。「情報隠し」の体質不信に「政府内で消費者行政は蚊帳の外」というマイナスイメージも加わり、内閣改造で支持率が微増した効果も帳消しとなりかねない、とんだてんまつとなった。

 ◇「戦略的互恵」内実問われる

 支持率の低迷が続く福田政権にとって、外交は数少ない得点稼ぎの分野だ。韓国・北朝鮮との関係が冷却しているだけに、中国は東アジアでの頼みの 綱。一方、胡錦濤政権にとって対日外交は、ネット世論など国内の不満爆発の火種になりかねない弱点でもある。それだけに福田外交との信頼関係は貴重だ。5 月以降、今年後半まで日中首脳はほぼ毎月のように首脳会談を行う。小泉時代のように首脳往来が断絶する関係悪化は避けたい点で両国のトップは一致してい る。

 両国は「戦略的互恵関係」をうたう。意見の相違は相違として言うべきことは言い合いながら、互いが利益を図れる部分を追求する関係という意味だ。しかし、内に弱みを抱えるトップ同士の「互恵」は時に、大国間で当然存在する相違や戦略的な緊張までも薄めてしまう。

 東シナ海ガス田問題も「合意」発表は胡主席来日の演出に利用するため延ばされたとされる。四川大地震への自衛隊機派遣問題でも、あいまいな情報伝達で両国とも方針が二転三転した。

 ギョーザ問題をめぐる情報処理の失敗も、中国の配慮に過剰な恩恵を意味づけて、国民の関心を忘れた面が否めない。

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 ■中国製冷凍ギョーザ事件の経緯

1月30日 07年12月~08年1月に千葉、兵庫県の3家族10人の中毒事件が発覚

  31日 中国製造元の「天洋食品」が生産・輸出を一時停止。中国当局が捜査を開始

2月 1日 兵庫県の中毒事件で袋に小さな穴。人為的混入の可能性高まる

   2日 天洋食品が記者会見で工場内での混入否定

  21日 警察庁長官が会見で「日本での混入の可能性は低い」

  28日 中国公安省が会見で「中国での混入の可能性は低い」

3月    4月に予定されていた胡錦濤国家主席訪日が5月に延期

5月 7日 東京での日中首脳会談で捜査協力継続を再確認

7月初旬  中国政府が日本政府に中国内で6月に中毒事件が起きていたことを通報

7月 9日 北海道洞爺湖サミットで日中首脳会談

8月 6日 中国国内での中毒事件が発覚

   7日 高村正彦外相が「非公表は中国側の要請」と説明

   8日 北京での日中首脳会談で早期解決で一致

毎日新聞 2008年8月11日 東京朝刊


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