2008-08-27

外から見た日本語(9) オノマトペ多彩 表現豊か

:::引用:::

東京女子大学教授 西原 鈴子

 自然現象や生物の営み、人間の行動や心情を直接感性に訴えるかたちで表現する擬音語、擬声語、擬態語は、日本語表現を豊かにし、ことばの美しい響きを作り出している。お隣の国の韓国語も日本語に負けず劣らずこの種のいわゆるオノマトペ語彙(ごい)が豊かである。

 一方英語のような言語は、動物などの鳴き声の擬声語、物音を直接表す擬音語は存在するが種類は少なく、日本語のオノマトペが果たす機能は描写的な副詞や動詞などによって表されることが多い。

 「なく」を例に考えてみよう。日本語は、「ワーワー」「ギャアギャア」「シクシク」 「ワンワン」「ニャーニャー」に動詞「なく」が付くが、英語 のほうは、それぞれ異なった動詞になり、順に「cry」「scream」「weep」「bark」「meow」となる。「笑う」も同じで、「ニコニコ笑 う」は「smile」、「クスクス笑う」は「chuckle」、「ハハハと笑う」は「laugh」にあたる。

 擬態語のほうはより複雑である。たとえば「さらさら」については、「小川がさらさら流れる」のように擬音語である場合、「さらさらと俳句をしたた めた」のようになめらかな様子を表す擬態語、「さらさらした土」のように湿り気がない様子を表す擬態語の場合がある。英語ではそれぞれ「murmur  of a brook」、「compose with a breath」、「dry soil」のように表現される。日本語が感覚的であるのに対し、英 語は描写的なのである。

 文学作品に表れるオノマトペ表現は、翻訳が非常に困難であるという。「春の海 ひねもすのたりのたりかな」の翻訳に挑んだ翻訳家たちが一様に頭をかきむしる「のたりのたり」に類する表現が山ほどあるからである。

 しかし何といっても大変なのは、近頃(ごろ)海外で大人気を博しているマンガ、アニメの翻訳であろう。これらのジャンルのことばは、オノマトペで 成り立っていると言っても過言でないからである。最近では、翻訳者たちはオノマトペの異国情緒を利用して、日本語のオノマトペをそのままアルファベット化 している場合も多いという。

 世界の若者たちにとってマンガ、アニメの魅力は、未知の世界への憧(あこが)れに由来するとも考えられる。そうであれば、描写的表現に直されるよりも、イラストに書き入れてある日本語のオノマトペそのものの雰囲気が伝わるほうが満足感に繋(つな)がるということになる。


●●コメント●●

0 件のコメント: