2008-08-21

変貌を遂げるチャイナプラスワン~ベトナムとタイの変化

:::引用:::
2004年-2006年 の調査をもとに、私が2007年春、「チャイナプラスワン」という事象を執筆してから1年以上が経過した。その後私は現地から離れ、日本から、北は北海道 から南は九州まで様々な日本企業を訪問し、アジアを中心とした世界中への展開状況や現地での問題点などをヒアリングする機会がある。また香港の同僚達から も様々なシグナルが寄せられる。また1-2カ月に1回はアジアへ出掛け進出支援案件などをサポートしているが、最近いくつかの点で「チャイナプラスワン」 が少し変質してきたと感じている。その変化とは何か。いくつかのポイントをあげよう。

1.ベトナムの変化

(1)「チャイナプラスワン」の受け皿としてベトナムはその最有力候補であった。しかしその後、世界的な原油高・資源高の影響を受けてベトナムではインフレが深刻化。この結果、労働コストの上昇を招いた。

(2)2005年以降、急速にハノイ・ホーチミンに外資が集中し、この集中により局地的に労働力不足が発生。インフレに加えて大幅な労働コスト上昇に拍車をかけた。

(3)予想以上にベトナムの人々の権利意識は高く、ストライキが頻発している。

(4)原油高はサプライチェーンの貧弱なベトナムにおいて進出企業の調達物流コスト上昇にも影響している。

(5)ベトナム経済にも変調が見られ、5-6月には大幅な対米ドル為替レートの下落と金利上昇が見られ、経済面での不安が急浮上した。

2.タイの変化

(1)2006-2007年に見られた急速な対米ドル為替レートの上昇は一服した。

(2)原油高による物流コスト上昇は改めてサプライチェーンの豊かなタイの魅力をクローズアップした。

(3)タイ国民の所得水準の上昇は中国同様、輸出加工にも適し、同時に市場も狙えるという両面での魅力につながり、あたかもミニ中国のように見られている。すなわち「チャイナプラスワン」と「チャイナアフターワン」双方での魅力があることに企業は気付き始めている。

3.中国中西部の変化

(1)中国の第11次5カ年計画で言う東西経済格差において「中西部」という表現は余りにも多くの地域を指し漠然としていたが、四川大地震やベトナム投資ブームにより、いよいよ輸出加工企業にとって中西部でどこに投資すべきかが日系企業にとって明らかになってきた。

(2)中国一極集中リスクは気になるものの、ベトナムの状況などを見て日系企業は改めて中国の安定した投資環境の良さにも気付き始めた。


  以上の観点から日系企業の対応は以下に分類されつつあるように見受けられる。

(1)中国一極集中リスクの分散が極めて重要な経営課題である企業は、ベトナムまたはタイへの投資を進める。

(2)中国一極集中リスクがそれほど重要課題ではなかった企業は、中西部への投資を進め、無理をしてチャイナプラスワンでアジアへ展開する企業に追随しない。

(3)労働集約型で労働コストが重要な原価の要素となる企業は、ベトナムへ、更にはカンボジアやバングラデシュへ分散を進める。

  大まかに見てこんな分類である。「チャイナプラスワン」でアジア展開を進める企業には体力的に余力のある企業が多い。

   最近私のチームが抱える案件では特にタイの案件が増加している。相変わらず半分は中国案件であるが、昨年春の90%以上中国案件という状態からは大きな 変化だ。半年前はベトナム案件が急増していたが今はタイが目立っている。しかし中国案件の数はそれほど減っていない。つまりアジア案件が上乗せされてい る。これはすなわち「チャイナプラスワン」の表れだ。中国を捨ててアジアに行くわけではなく中国を生かしつつもアジアにもプラスワンを求めていく。日系企 業の動向は正に2005-2007年に我々が読んでいた通りに動いている。こうしたアジア案件の増加に伴い、香港やシンガポールを中心とした地域本部化案 件も増加している。

  しかしながら上記のように軌道修正も必要な状況だ。今後ベトナムは大手完成品メーカーを中心にちょっとしたチェー ンは構築されるであろう。しかし完成品メーカーの進出はベトナムとタイに分散するだろう。そしてベトナムの中でもハノイ・ホーチミン以外の地域への展開が 増えていくと思われる。そして中国では広西壮族自治区が見直される可能性が高い。

  次回以降、「チャイナプラスワン」の変貌を各地域別に見ていく。

  写真はハノイ・オペラハウス。(執筆者:加藤修 みずほ銀行国際営業部・国際アドバイザリーチーム次長)

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