2008-08-11

社説 サブプライムが変えた世界経済の風景(8/11)

:::引用:::
  歴史にはその前後で状況が一変する分岐点がある。昨年8月9日もその1つだ。フランスの大手銀行BNPパリバのファンドが国際的な金融不安の発火点になっ た。米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題は、時間の経過とともにより深く、より広く世界に影響を及ぼしている。この問題はグ ローバル経済の思わぬもろさを浮き彫りにしたといっていい。挑戦への回答を、世界中が試されている。

想定外のリスク拡散

 サブプライム関連の証券化商品を組み込んだファンドの解約停止をパリバが発表したのを機に、個人投資家が銀行窓口に殺到した。そのニュースの映像は、一部の金融関係者だけの心配事だったサブプライム問題を、世界的な関心事に変えた。

 米国の金融の問題が、なぜ欧州で発火したのか。ここに金融のグローバル化の問題が集約されている。

 住宅ローンを元にした高利回りの証券化商品を、米欧の投資家はこぞって購入していた。米国の住宅バブル崩壊で証券化の手法が足元から揺さぶられたのだ。 証券化商品は高い格付けを得ており、投資家は高い格付けの金融商品なら安心と思っていた。商品の中身は格付けというラベルとは大違いだったことがわかり、 金融界は疑心暗鬼に襲われた。

 1年たっても、問題の抜本処理は済んでいない。国際通貨基金(IMF)によれば、米欧を中心に金融機関の損失額は4000億ドル、円換算で約44兆円を 超えた。バブル崩壊後の邦銀の不良債権処理額は約100兆円。米欧勢は損失処理を急いでいるものの、問題はサブプライムからクレジットカード、商業不動産 融資、企業買収案件などに広がっている。

 例えば米シティグループ。住宅ローン担保証券(RMBS)、クレジットカード証券化、資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)など、複雑な証券化商品 の残高は6月末現在で1兆2800億ドルある。残高は昨年末の1兆2500億ドルから、わずかながら増えている。そのほとんどは簿外(オフバランス)だ。

 もうひとつ深刻なのは、米政府支援機関(GSE)と呼ばれる住宅金融公社の経営不安だ。米政府が住宅ローンの受け皿にしようとしていたGSEが揺らぎだしたのは、大きな誤算だろう。それ以上に、GSEの発行する債券を海外投資家が大量に保有しているという事実が重い。

 ポールソン米財務長官によれば、その金額は1兆5000億ドル。万一のことがあれば、米国は経常赤字の穴埋めに支障を来しかねない。

 米景気の冷え込みは、世界景気を下押ししつつある。日本の上場企業の4―6月期決算の連結経常利益は前年同期比で15%以上減った。象徴的なのはトヨタ 自動車だ。四半期決算としては初の減収減益になり、米国での不振が特に目立った。北米の営業利益は金利スワップ(交換)取引を除けば、わずか16億円と赤 字スレスレまで落ち込んだ。2008年度を通しても、日本の上場企業は7年ぶりの減益になりそうだ。

 日本では政府が事実上の景気後退を認めた。ドイツも4―6月期がマイナス成長になったようだ。中国も景気減速を警戒し始めた。サブプライム問題の発火前に7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議が「ここ30年以上で最も好調」とうたった世界経済は、変調を来している。

 昨年夏にサブプライム問題が火を噴いた後、米国は利下げを重ねた。供給されたマネーは証券化商品や住宅市場に向かわず、原油など商品先物市場に流れ込んだ。

焦点は危機連鎖防止

 商品価格の急騰は世界的なインフレと資源国への所得移転を生み、経済の変調を増幅させた。商品価格はこ のところ反落しているが、確かな見通しを失った投資マネーが実体経済を揺さぶる構図は鮮明になった。従来型の金融政策はサブプライム問題の解決につながら ず、意図せぬ副作用を生んだ。

 米国を筆頭に政策当局にとって最大の課題は、金融の連鎖危機を未然に防ぐことだ。米国でGSE支援法が成立したのは評価できる。住宅金融公社への公的資 金注入の道が開けたからだ。米欧の金融機関も自己資本不足が指摘されるだけに、公的資金注入の道筋をつけることが今後の課題となろう。米国の地銀に広がり 始めた経営危機についても、米政府・当局は預金者の不安を招かないように対策を講じるべきだ。

 問題の根っこにある米国の住宅市場については、価格下落と焦げ付きの悪循環を防ぐ公的関与が必要だ。日本の例をみても、不動産価格が下げ止まらなけれ ば、不良債権の増加に歯止めがかからない。米国では大統領選前に抜本的な対策は期待薄ともいわれるが、世界中が1つになった市場の不安と不透明感をぬぐわ ないことには、グローバル経済が迷路から抜け出すのは難しいだろう。


●●コメント●●

0 件のコメント: