2008-08-11

インドの実力を中国と比べてみた

:::引用:::

「インドは中国より遅れているのか?」これは昨年インドを訪問した際に感じた疑問の1つだ。もちろん、もともとの国の成り立ちが違うので、中国と単 純に比較するのは難しい。世界銀行によると、中国のGDPは世界第4位、インドは世界第12位(2007年時点)であり、中国が経済規模ではリードしてい る。インドは道路・電力・物流などのインフラ整備の面では、中国より遅れていると言われる。

インフラ整備というと、インド南東部・チェンナイのある事務所を訪問した際のエピソードを思い出す。まず、訪問したオフィスの入口に窓ガラスが入っ ていない。事務所の人に聞くと、半年もこういう状態が続き、これでは冷房も効かないし、虫が入ってくるため1階部分はほとんど使えないとこぼしていた。ま た、大都市のニューデリーやムンバイなどでも舗装されていないでこぼこの道路があり、ホテルのレストランで食事をしている時でさえ停電したこともあった。 しかし、インド政府もインフラ整備の必要性は認識しており、今後は改善が見込まれる。

IT技術者以外にも、マネジメント人材も豊富だ。経営トップにも世界的なコンサルティング会社のマッキンゼー元社長のラジャト・グプタ氏、世界最大 の鉄鋼メーカーのミッタル・スチールを率いるラクシュミ・ミッタル会長などグローバル企業で活躍するインド人の姿は良く見られる。英語力に加えて、欧米で の高等教育を受けている人材が多いこともその要因で、知識経済化が進む世界では、こうしたインドの人材はますます強みを増すだろう。

しかし、サービス業だけでは十分な雇用は創出できないため、今後は製造業の競争力を向上させる必要がある。中国に比べて外資誘致の取り組みも遅れて いるため、州政府など各地域による投資誘致など対外PRも必要だ。その点では、インド南東部のタミルナドゥ州はノキアやモトローラなど外資系メーカーを積 極的に誘致することで携帯電話を始めとする製造業の産業が集積しつつあり、今後も注目に値する。

民主主義でビジネスがしやすい?

2つ目の疑問は、「インドは民主主義だからビジネスがしやすいのか」である。これについては、中国大陸にいたこともあり現在インドに駐在している台湾人がインド流民主主義は難しいという話をしていたのが印象的だ。

つまり、中国は共産主義の一党独裁体制であるが、大きな意味での政策の変更は少ないし、仮にあったとしてもある程度の予測が可能だ。中央政府または地方政府がこの土地を開発して工場を建設すると決めたらすぐにでも住民に通達を出して工事を始めることができる。

一方、インドは民主主義の国であり、農民など弱者保護対策があるため、逆に農地転用による工業団地の開発がなかなか進まなかったり、政策が変わるリ スクがあるということだ。例えば、インドは2大政党体制で5年ごとに選挙があるため、政権が代わると政策が大きく変わる可能性が高い。有権者数は6.7億 人と全人口の約6割を占め、その中には農民も数多く含まれる。インドでは天候が悪く農作物の収穫が良くない年に選挙を迎えると、農民の不満により政権交代 につながりやすいと言われるほど農民の持つ影響力は大きい。特別経済区(SEZ)を開発する際には、07年に西ベンガル州で政府の低価格での土地収用に反 対する農民が中心となり暴動が発生したように、農民の抵抗はリスクの1つである。

ソフト」のインドと「ハード」の中国

一方、「ソフト」と「ハード」という点で見ると違った側面が見えてくる。よくインドはサービス業の国、中国は製造業の国と言われる。実際、2007年度にはインドのGDPの62.9%をサービス業、中国のGDPの43%を製造業が占めている。

インドと言えばITのイメージが強く、ソフトウェアのオフショア開発では中国よりも高度な内容を依頼する企業が多い。私が日本から持っていったパソ コンの調子が悪くなり、ネットワーク接続もできなくなった時に、ホテルのインド人技術者が私の日本語OSのパソコンをいとも簡単に設定してくれたスピード には驚いた。もちろん彼は日本語が読めないのだが、設定に必要な情報の位置など頭に全て入っているのだろう。要は、ITといっても設備などハード面ではな く、やはり人の頭脳や技術というソフト面が強みなのだ。

インドは潜在市場を狙い、頭脳を生かすのがカギ

最後に、中国とインドを見る際に、“世界の「工場」「市場」「頭脳」”という視点を挙げたい。中国は人件費が上昇してきたとは言え、各地に成熟した 産業集積が形成されており、かつ市場としての魅力も高い。その意味では、工場と市場の両面を兼ね添えており、それが強みになっている。対して、インドは潜 在的市場と先に書いたグローバルな頭脳が魅力である。市場という点では、インドの携帯電話市場は登録件数が2億7288件(2007年12月)と中国の5 億9200万人(2008年5月末時点)に次いで世界第2位であり、今後も拡大が見込まれる。

メリルリンチとキャップジェミニが発表したワールドウェルスレポートによると、2007年に100万ドルを超える純資産を保有する人口がインドは 12万3000人であったのに対し、中国は41万5000人だったという。インドの富裕層人口は中国の3割程度だが、伸び率ではインドが前年比22.7% 増と世界一であった。インド国立応用経済研究所によれば、インドの中間層(年収20〜100万ルピ=約60〜300万円)も2005年時点で約9000万 人となっている。

こうした富裕層や中間層を対象にしたマーケティングでは、地域・州の間の格差が大きいことにも注意する必要がある。インドは面積が広大で28州と7 つのテリトリー(政府直轄地)に分かれており、州政府にかなりの権限が委譲されていて州を跨ぐと別の国のようだともいう。各地域で好みのブランドも異なる ため、外資系のPCメーカーでは、インドを4地域に分類して各地域に代理店をおいて育成している企業もある。

また、連邦公用語であるヒンディー語と準公用語の英語の他に憲法で公認されている州の言語が21あり、書き言葉の文字自体が異なっている。紙幣には 17の言語で金額が書いてある。中国も各地で方言があるが、漢字表記という点では基本的に統一されている。そのため、インドでは顧客や提携先とのコミュニ ケーションも悩ましい問題だ。例えば、製品使用時のインターフェイスや説明書などを各地域仕様にするなどマーケティングにはかなりの費用が必要である。


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