2008-03-31

若いSEには段取りを教え,手取り足取り指導せよ

:::引用:::

 SEマネジャが入社2~3年生までの若手SEに何かやらせる時は,段取りを教え,手取り足取りして正しいやり方を教えることが重要だ。単に「あれをやっておけ,これをやっておけ」などと言うたぐいの,指示だけするのは厳禁である。

 すなわち「それをやるには,先輩の○○SEに頼んで○○プロジェクトの資料を見せてもらい,▽▽のマニュアルも参考にして△△をまとめる。それがまと まったら俺に見せろ。OKだったら顧客の□□さんに説明して意見を聞く…」というふうに仕事の手順を教え,そしてそのSEができなければ一緒にやって教え てやることだ。するとそのSEは仕事の道筋がわかるし,困ったら教えてもらえるので安心して仕事ができる。しかも上司やベテランSEから教えられた正しい やり方がしっかりと身につく。

 今回は筆者の現役時代の経験に基づいてそれについて述べる。

放任された新人SEは,ドタバタを正しいやり方と思い込む

 まず,筆者が言う「段取りを教え,手取り足取り指導する」とはどんなやり方か,以下システム開発の例でそれを説明する。

 ある課に,小規模だが初めてシステム開発を行う3年生の松谷SEがいたとする。

 松谷SEの上司は,松谷SEのやるべきことや仕事の状況を考えて,「君はまずこのシステムの提案書を読み,開発要件や開発計画を勉強しろ。次に営 業の△△に顧客の考えていることを聞く。そして開発計画の叩き台として,粗くていいからWBS(作業分解図)を作ってそれを俺に見せろ。その後,顧客の □□さんに説明して顧客の意見を聞く。その一方で▽▽のガイドを読んで,○○の教育に出て,○○の勉強をやってほしい。そして次には…」などという段取り を説明し,松谷SEに仕事をやらせる。

 すると松谷SEは,分らない点は自分で調べながら,教えられた手順に従って仕事を行う。SEマネジャは,松谷SEが指示したことができなければ一緒にやってやったり,レビューしてやるなど手取り足取りして正しいやり方を指導する。こんなやり方である。

 これは決して若いSEを甘やかすのではない。あくまでも指導でありOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)である。SEマネジャが何かの理由でそれができなければ,代わりにベテランSEにやらせることだ。

 もちろん,SEマネジャやベテランSEがこれを実行するのは楽ではない。だが,このようなやり方をしてきちっとシステムを稼働させて,SEに成功 体験を味あわせると,そのSEは「苦労したがうまく行った。よかった。システム開発はこうするんだ」と感じ,そのやり方が身につく。

 すなわち,自ずと計画作り,要件定義,設計,プログラム作り,テスト,移行どなどの正しいやり方が身につく。そして次のプロジェクトも,その次の プロジェクトも,同じやり方を行う。そして足りないのところをSEマネジャやベテランSEが支援すれば,1回目と同様にうまく行く。そんな仕事のやり方を することで,若手SEに段々と本物の正しいやり方が身につく。

 とは言ってもSEマネジャやベテランSEは忙しい。よほど意識しないと若いSEに「プログラム作っておけよ,テストをやっておけよ。任せる」など と指示型になりやすい。「任せる」という言葉は響きは良いが,やったことがない人間や,あまり経験していない人間に「任せる」とか「あれをやっておけよ」 などとはちょっと乱暴過ぎる。

 任された(?)若いSEは,これまで先輩に習ったり勉強した範囲で一生懸命やる。だが悲しいかな,現実のプロジェクトはなかなか教科書や先輩に 習った通りには行ってくれない。要件が予想外だったり,大きなバグにぶつかったり,顧客に叱られたり,予期せぬ事態に遭ったり,いろいろなことが起こる。 結局は,進み具合も,右に行ったり左に行ったりして,行き当たりばったりのやり方になる。すると顧客と揉めたり,途中から先輩SEに応援して貰うなどのド タバタ劇になる。そしてやっと本番稼働までこぎつけ,何とか終わる。往々にしてこんな具合になる。

 するとその若手SEは「色々途中大変だったが,何とか本番を迎えられた。よかった」と思い,そのドタバタ劇のやり方を正しいやり方だと思う。する と次のプロジェクトも,その次のプロジェクトも,一回目と同じ行き当たりばったりのやり方を行う。そして周りのSEを巻き込みながらそのうち大トラブルを 起こす。

 これが指示型SEマネジャの典型的なケースである

本物のやり方」を教えておけば,マネジャは楽になる

 以上,2つのケースを述べたがどちらが良いかは明らかである。だが,やったことがないSEや,あまり経験していないSEは,正しい開発だろうがドタバタ 劇の開発だろうが,何とか本番稼働できれば,そのやり方が正しいやり方だと往々に思うものだ。もちろん“大火事”になったプロジェクトはこの限りではない が,それがソフトの世界,SEの世界の不可思議さだ。

 今回はシステム開発の例で説明したが,これはシステム開発に限ったことではない。若手SEが初めてプログラムを作る時や,テストを行う時,提案書 の作成時,ドキュメント作成時,顧客へのプレゼンの時などなどについても同じである。きちっと教えないと,後で本人も困るし,会社も困る。

 いずれにしてもSEマネジャは若いSEに,SEの若い時に仕事上の諸々の事柄について段取りを教え,手取り足取りして本物のやり方を教えることが重要である。すると仕事もうまく行くし,成長も早い。

 「SEマネジャは若いSEには段取りを教え,手取り足取り指導せよ」。これが今日の一言である。

 SEマネジャやベテランSEが忙しいのはわかる。だが,自分がITの世界に入って,右も左も分らなかった時代の気持を,ぜひ思い出してほしい。忙しかったり若いSEとの年齢差が大きい場合,意識しないでいるとつい指示型になりやすいいから要注意である。

 と言うとSEマネジャの中には「SEに段取りを教えたり,手取り足取り指導した方がよいことはわかる。だが,とてもそんな時間がない」と反論する人もいると思う。

 その気持もわかる。だが,それを一度乗り越えてこのやり方をするとあとの仕事がやりやすくなる。SEマネジャの生産性が上がる。何故だろうか。重要なことなのでそれを次に簡単に説明する。

 段取りを教えられ,正しいやり方を指導されたSEがいたとする。するとそのSEは,前述したようにその後のシステム開発も1回目と同じやり方をする。同じ資料を作り,同じ打ち合わせを行い,同じ手順を踏むなど,同じやり方で仕事を進める。

 するとSEマネジャはやり方が分っているので,ちょっと聞けば状況が分かる。レビューもやりやすいし,指導もしやすい。

 例えば,「今度は,この前の設計とここが違うから,この点は注意しろよ」とか,「今度の顧客は,この前に比べてここが重要だよ」などと指示でき る。また「あのやり方では今回はまずい。もっときめ細かく詰めさせなければ,問題が起こるかも…」などと,危ないところも大方予想がつく。するとSEマネ ジャは同時に数多くのプロジェクトをコントロールできる。生産性も上がる。よりビジネスに貢献できる。もちろん,部下のSEは仕事を任せられてイキイキ元 気良く働く。段取りを教えられ,指導されたSEが多ければ多いほど,その効果は大きい。

 一方そうではなく,SEマネジャが指示型でSEに仕事をやらせたらどうなるか,

 そのSEは,その後のシステム開発も行き当たりのやり方をする。するとSEマネジャは,そのSEがどのような点に注意しながら,どんなやり方をしているかが分らない。往々に進捗が不安になる。

 そして「うまくいっているのか。大丈夫か」などと気になる。だが,いちいち話を聞かないと状況が分らない。そして「あれはどうなったか」などと聞 きたくなる。チェックやレビューをしたくなる。まずい点を見つければその都度指示をするようになる。すると,SEの中には「このSEマネジャはうるさいな あ」と思うSEも出て来る。これではSEマネジャもSEも生産性が下がる。こんな姿はどこのIT企業でも結構見かけるが,これではまずい。

 再度言う。

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