2008-03-10

現地に溶け込むための方法

:::引用:::

 「ローマに入りてはローマに従え(When in Rome,do as the Romans do)」という有名な言葉があります。これまでに海外との仕事をうまく進めるため,現地の人々の考え方や行動パターンを学び,現地になじむことを心がけてきました。

 現地の習慣や態度を学ぶことは比較的容易で大きな効果があります。今回は各地でのそういった体験をご紹介したいと思います。

人間関係が重視されるベトナム

 ベトナムでは人間同士の関係が重要視されます。会社や組織の方針は大事ですが,担当する責任者や担当者の気持ちが仕事の対応や成果に大きく響きます。そ れはそれで問題ではあるのですが,筆者は,プロジェクトを成功させるためインフォーマルなコミュニケーションを増やし,下地となる人間関係をつくるよう努 力してきました。

 日本からベトナムへのオフショア開発をコーディネートさせていただいたときのお話です。

 現地では会話や文書の英語に訛りやくせがあります。例えば,時制が少し変だったり,三人称単数のsが抜けたり,単数/複数が混在していたり。そう いったパターンを理解することでコミュニケーションがとりやすくなります。そのうちにそれが普通に感じられるようになり,欧米のネイティブの英語を聞いて はっと我に返るといったこともよくありました。

 最初は現地の人々の顔が同じように見えます。しかし,仕事中よく観察しているうちに,個人毎の違いがわかってきます。そうなると,個人の行動パターンを理解して想定できるようになり,仕事も少し楽にこなせるようになりました。

 ベトナムに深くかかわっているかどうかは,なぜか現地の人にすぐにわかってしまうようです。ホーチミンの統一会堂を訪れたときのことでした。ガイ ドの女性が私の顔や姿なりを見て,「数多くベトナムに来ているでしょう。長く住んであちこちにいっていらっしゃるでしょう。」と話しかけてきました。筆者 にベトナムの何かが付着していたのでしょう。日本企業の方からも,ベトナム人に間違えられたこともあります。

 こういった努力が効を奏してか,そのオフショア開発は当初計画が途中で変化したにもかかわらず,関係者の努力とチームワークにより最終的によい結果を出すことができました。

 以前韓国の仕事をしていたとき,韓国人に間違えられたこともあります。大阪空港で何かよい土産物はないかといろいろな店を覗いていた時のことです。店員が話しかけてきました。少し話すと,「日本語がとてもお上手ですね」と褒められました。

 また大阪空港の荷物検査場では係員に「ニホンゴハナセマスカ?」と聞かれました。

 金浦空港の喫茶店で中年の韓国人男性が,韓国語で「韓国人ですか?」話しかけられたこともあります。筆者はつたない韓国語で「いえ,違います。私 は日本人です。」と答えました。しばらくの会話の後,その男性は「わかりました。在日ですね。日本人がそのように韓国語を話すことはありませんので」と, 一人納得してその場を去ってゆきました。

 不思議なのは,韓国の仕事から離れてしばらくすると,韓国で付着していたものが落ちたせいか,間違われなくなったことです。

 また中国関連の仕事をしていたときは,西ドイツのハンブルク,HauptBahnhoff駅近くのホテルで,中国人男性に中国語で話かけられました。「我不是中国人。是日本人」と答えると,その人は「対不起(すみません)」といって立ち去りました。

 余談ですが,ホーチミンの町中で,タクシーをうまく拾えず困ったことがあります。バス,車,バイク,自転車でごったがえし,暗く見えにくい夜,ビ ルの前で一人で30分以上立ってタクシーを待っていたこともありました。それらしいタクシーは通過するのですが,うまく止まってくれませんでした。その交 通状況は日本のものと様相がまったく異なりまさにカオスです。簡単なタクシー拾いもガイジンにとっては時には容易なことではありません。

 しかしあるとき,親切な人が多いと思ったので,思い切って近くにいる人を誰かれかまわずつかまえて頼んでみました。すると,すぐにタクシーをうま くつかまえてくれるではありませんか。これには助かりました。不思議なことに,反対車線を走っているタクシーがUターンしてこちらに来てくれることも多く ありました。これにより,現地には現地のやり方がある,ガイジンのやり方だけでは,物事は成功しないな,と感じました。

 グローバルアウトソーシングのメリットを生かすためには,一つの文化にまとまるのではなく,各地域の人材,労働,コストなどの特徴や強みを生かさ なければなりません。そのためには,現地になじみ,それぞれの国や地域の文化や人の行動パターンを知ることは大きな武器になるのです。ちょっと自慢話めいてしまったかもしれませんが,お伝えしたかったのは,以前の記事でも書きましたが,海外アウトソーシングでうまくコミュニケーションをとるためには,言語(バーバル)だけでなく非言語(ノンバーバル)な要素にも注意を払うことが効果的だということです。

 筆者が現地に溶け込むために心がけてきたのは,以下のことです。

1.できる限り一人で行動する。

 無謀に行動することではありません。事前にできる限り状況を把握した上で,ある程度のリスクを覚悟して行動することです。実は怖い思いもしました。イン ドの空港,シカゴのタクシー,マニラでの車の故障。特に夜や,知らない人が声をかけてきたり,人相が悪い場合,危険が潜んでいました。

2.事実を知る。

 夢と現実は違います。希望しても努力してもだめなことがあります。日本流に何とかなるさと頑張っていても,結果的にそうならないことも多くありま した。憶測や過度な期待はやめ,事実を直視することが大事です。これまでの経験で筆者は「Two strikes,Out」の原則で,2回やってだめなら止めるか別のやり方を考えるようにしています。

3.高級なところだけでなく庶民的なところへも行く(ホテル,公園,車,食事...)。

 インド出張時,上司や同僚の多くは高級ホテルに泊まっていました。筆者は本当の姿を知る必要があると考え,インド人しか泊まらないビジネスホテル に泊まりました。価格もリーズナブルで慣れると居心地のよさがあり,紅茶がとても美味しかったのを覚えています。しかし,社内には岡崎の泊まるホテルだけ は泊まりたくないという風評が流れてしまいました。
 

4.できる限り現地の人に近い生活をする。

 会社の車でホテルに迎えに来てもらうと,顔馴染みの運転手,いつもの車,同じ道順で変化がありません。そこで,地下鉄やタクシーに自分一人で乗って移動 しました。すると,いつも驚くようなことに出会いました。また現地人しか行かないレストランにも一人で行きました。ともて美味しくそして安い食べ物があ り,また食べ方にも大きな違いがあることに驚きました。そして,ビジネス上にも参考にすべきことを多く見つけました。

5.努力してもできないところは,さっさと諦める。

 現地になじもうとする努力は大切です。しかし人間それぞれに生まれ育ちや好き嫌いというものがあります。無理が一定の範囲を超えると,もう嫌だ! と思うようになり拒否症状が表れます。そこで,できる限り頑張った上で,その無理な範囲に入った場合は,さっさと行動を止めて自分の好きな音楽を聴いたり 好きなことをするようにしています。すると,不思議と元気が湧いてきます。そこで再度挑戦することにしています。

6.諦めの境地を持っておく。

 国はいろいろ,文化や言語も様々,習慣や人の考え方にも違いが多くあります。まずこの違いがあることを認識することが重要です。

 海外の人々と付き合ったり取引したりする場合,2つの考え方があります。一つ目は,最後に理解しあい分かち合えるものだと考える。2つ目は理解し あい分かち合うことは難しいことだと考える。一つ目の場合,うまくゆかない場合何故わかってくれないかと怒りがこみ上げたり期待を裏切られたりすることが あるでしょう。しかし,2つ目の考え方だと,少し進んでも意外とうまくできるものだと思えたり,期待が裏切られた場合でも,やはり難しいものだ,さらに別 の手を検討してみよう…と前向きに考えることができるでしょう。

 諦めの境地も持ち,大局的に対応することが最終的に成功につながるように思います。


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