2008-03-22

日本に次々と橋頭堡 中国と“包囲網”構想も インドIT企業が東へ進むワケ(1)

:::引用:::
インドのIT企業が今、日本市場を熱いまなざしで注視している。「現在2000人の日本ビジネス専従エンジニアを、早急に6500人に増やす。日本市場で 着実にビジネスを拡大したい」。インドIT最大手、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)のスブラマニアン・ラマドライCEOは1月下旬、来日会 見でそう語った。

 「インド国内の大学と提携し、学生に日本語を教える“日本道場プログラム”を立ち上げた」「自動車などの顧客向けに、組み込みソフトの開発拠点を横浜に新設した」――。ラマドライCEOは矢継ぎ早に、日本市場へのアピール策を披露した。

 

インドのIT輸出  中国と並び急成長を続けるインド経済。その牽引役の代表がIT産業だが、こと日本においてはインドIT企業の存在感は希薄だ。TCSや業界2位のインフォ シス テクノロジーズといったインド大手の日本向け売上高はここ数年、各社の年商の2~5%にとどまる。「日本が米国に次ぐ世界2位のIT市場であること を考慮すると、日本でのわれわれのビジネス規模はあまりに小さい」(インフォシス幹部)。

 インドが得意とするのは、ソフトウエア開発や業務処理などを海外から受託し、成果のデータを通信網を通して“輸出”する「オフショアリング」と呼ばれるビジネスだ。 このモデルで、インドのITサービス輸出額は年々拡大(右グラフ)。

インドのソフトウェア輸出先国
その輸出先国の実に6割が米国向け(右グラフ)だ。一方、日本にとっての最大のオフショアリング相手国は、日本語人材が豊富な中国だ。


サブプライム余波が直撃 脱・米国依存の道模索

 しかし、サブプライム問題に端を発し、米景気の失速感が濃厚になる中、インドにとっては米国依存からの脱却と新市場の開拓が喫緊の成長課題だ。実はインドのIT業にとっては、米国の異変の“あおり”を受けた経験は過去にもある。

 前回の米大統領選挙を控えた2003~04年。雇用問題が焦点となり、「インドへのアウトソーシングが米国労働者の仕事を奪っている」という世論が高まって、インドのIT産業は一時的ながら減速した。“米国がくしゃみをすれば風邪を引く”インドIT産業。現在すでに、一部の顧客がインド企業に対して開発・サービス料の値下げを求めているといい、TCS など主要企業の業績にも成長鈍化が見られる。07年10月には対ドルで9年半ぶりに最高値を更新するなど、厳しいルピー高も企業業績にとってはマイナス だ。

 こうした中、巨大ながら攻めあぐねていた日本市場に向けて改めて戦略を練り直すのは自然ともいえる。

 インフォシ スは2月、日本国内大手の日本ユニシスと業務提携した。日印IT大手の提携は初めて。インフォシスは、ユニシスが受注した国内案件に自社のエンジニアや開 発技術を提供する。これまで日本向け売上高が全社の2%程度にとどまっていた同社は、間接的ながらも日本企業に食い込む機会を得た。

 一 方、業界4位のサティヤム・コンピュータ・サービスは今春、日本進出のインドIT業としては初めて九州に開発拠点を開設する。現地のITエンジニアは、首 都圏に比べればやや低賃金。エンジニアにインドの開発技術を教え、東京の開発需要を獲得しようという策で、いわば仮想の“インドオフショアリング”だ。

  さらに機運が高まるのが、中国のIT産業とパートナーシップを組み、日米のIT需要を“丸呑(の)み”しようという「シノ‐インディアモデル」だ。インド ソフトウエア・サービス協会(NASSCOM)が昨夏まとめた調査報告は、中印両国は先進国のオフショアリング相手国である点は共通しているが、強みとす る市場国や開発分野は完全にすみ分けができているとしたうえで、「インドは中国IT産業を(日本市場における)ライバルと見なすより、協業の道を模索する のが賢明だ。中期的には中国国内需要も期待できる」と指摘している。

 “中印モデル模索”は、すでに始まっている。「出資している中国のソフト開発企業を買い取りたいと、インドの大手IT企業から打診された。日本市場への足場にしたいようだ」(日本のIT大手幹部)。

 インド同業が日本開拓を進めれば、国内同業は市場を侵食される公算が大きいが、業界の危機感はまだ希薄。だが、TCSのラマドライCEOは冒頭の会見でこうも語っている。「機会があるのならば、日本のIT企業のM&Aも考えている」。

 日本のIT業界は足元、ITバブル以来という開発好況に沸いている。需要の柱は、メガバンクの統合や郵政民営化に伴う国内需要。だが08年後半には不況再来が予想される。その節目に、インドの日本攻略は大きく進むのかもしれない。


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