2008-03-19

外国人研修生

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前回、中国の食料輸出事情を取り上げたところ、日本の農業の自給率を高めるべきだといった意見が多く寄せられた。ほかのメディアでも、日本産農産品や日本製加工食品を食べようといった声がかなり出ている。そうした意見や声はごもっともだし、理解できると私も思っている。

しかし、同時に指摘しておきたいのは、現在の状況のもとで、日本の農業の自給率を高めること、または日本産農産品や日本製加工食品を食べようと呼び かけることは、ある意味、日本ですでに進行中の過酷な労働の現状をさらに深刻化させるということだ。アジアの国々に日本の先進的な技術を教えるという美名 の衣に包まれた外国人研修生問題の現状に目を向けてほしい。

まず、ある外国人研修生の給与明細の内容を見ていただきたい。毎月の基本賃金は11万2000円だが、そこから家賃(5万5000円)や光熱費を引 かれるばかりでなく、さまざまな費用が引かれている。リース代として、布団(6000円)、洗濯機(1500円)、テレビ(1800円)、流し台(500 円)、調理器具(1000円)、ガス器具(1000円)、電気炊飯器(800円)、掃除機(1000円)、ファンヒーター(1000円)、そして浄化槽管 理費(1000円)などの費用が引かれていく。給与明細の下の欄を見ると、1カ月働いた結果、研修生はかえって会社に2万円ほどの借金を作ってしまったこ とになる。

田舎のぼろアパートの一室に4〜5人が一緒に住んでいるのに、一人あたり5万円以上もの家賃を負担しなければならないとは驚きだ。流し台などのリー ス代の借金分は、結局研修生が身を削って残業して返すしかない。月に230時間もの残業をする研修生もいる。それを22日で割れば、毎日10.5時間もの 残業を強いられているということになる。だが、日本に来ている外国人研修生が月に22日しか働かないということはない。ほとんどの研修生が30日間働いて いる。それでも毎日8時間近くの残業になる。では、残業代はいくらかというと、時給はたった300円だ。美しい日本のどこにこんな最低賃金基準があるの か。

農業研修生もほぼ同じ状況に置かれている。研修生は技術研修に来たのであって労働者ではない、という意見もある。実際、日本の大学生のインターン シップや実務訓練などでも、関西の大手電機メーカーに研修に行ったとしても1日にもらえる日当は数百円である。残業をしても残業代は出ない。研修最終日に は、そこから会社の寮に入居した費用やまかないの食費を差し引かれる。最終的には自宅に帰宅する交通費も残らないという例は外国人研修生に限ったことでは ない。

しかし、100歩譲って研修生であるとしても、1年の研修を終え今度は労基法が適用される実習生になったとしても、農業に従事する外国人研修生や実習生の過酷な環境に変わりはない。残業代が増えたとしても時給にせいぜい50円~100円程度増やすだけだ。

栃木県で働く中国人実習生の例を見てみよう。昨年12月、栃木県の「栃園会事業協同組合」を通じて都賀、芳賀、二宮町の7軒のイチゴ農家に配属され た中国人実習生5人は、まるで警察が犯罪者を連行するかのような形で、協同組合の雇った警備会社の警備員に強制帰国のため成田空港まで「連行」された。実 際の取材映像を目の当たりにした私は開いた口が塞がらなかった。まさかそこまで研修生の人権を軽んじているとは思いもしなかった。

なぜ強制帰国させなければならなかったのか。08年1月29日付毎日新聞の記事によれば、協同組合の責任者が「優秀な実習生なら帰す必要はない」 と、勤務態度が不まじめだったことを示唆したという。しかし、実際は実習生が「奴隷のように扱われ、見下されている」と感じ、そのことに抵抗したらしい。 それで協同組合が公権力でも行使できるかのように、実力を行使してまで実習生たちを空港に連行したのである。

もし、日本の電機メーカーがインターンシップで来ている日本人大学生に対して、同じような態度で接したらどのような社会問題となることであろうか。 研修生・実習生に対する農業界の特別な問題であるのかも知れないが、同じ過酷な状況は縫製や機械加工産業など外国人研修生・実習生を受け入れている全産業 分野にも見られるという。正に現代版の「女工哀史」そのものだ。こんな環境のなかで作られたイチゴはおいしく食べられるはずがない。

2000年には1.5%程度だった農業関係研修生・実習生が2006年には6.5%にまで増加した。人数で言えば14倍にまで増えている、と言われ る。9万2000人もいる新規研修生のなかで7万人も引き受けている国際研修協力機構(JITCO)が発行する『JITCO白書』によれば、実習生移行申 請者の80%が中国人研修生だという。

結局、日本で食べられる農産品も食糧も中国人の手によって作られていることが多い。食品製造や漁業関係の研修生・実習生を入れると、外国人、特に中国人の手助けなしでは、いまの日本の農業も食品加工業も漁業も成り立たなくなる恐れが十分にある。

今から10年前、千葉県銚子市の水産加工会社で働く中国人研修生を取材したことがある。そのあまりにもひどい受け入れ先である協同組合の中間搾取に怒った研修生の中には、研修現場を放棄して逃走した者もいた。その逃走研修生はやがて横須賀の農家で働くようになった。

夏は朝6時に出かけ、夜は9時頃にようやくアパートに戻る。過酷な肉体労働に懲りた彼は何度も辞めようと考えた。しかし、仕事を辞めたいと言うたび に、雇い主である60代の日本人に泣きつかれた。働き手のない日本人はどうにかして彼を引き留めようとする。後継者のない農家の悲劇もそこにある。彼は自 分の動揺に対して、次のように語った。

「自分がもしここを出たら、お爺さんはもう農業をやっていけない。いくら捜しても若い働き手が見つからないからだ。そのことを考えるとお爺さんのこ とが不びんに思えて、働き続けることにした。」 この話は日中友好の美談として捉えるよりも、日本の農村実情を映した悲話として受け取るべきだろう。休耕地を再び農産物の生産に利用する話もあるが、肝心 な働き手がいない。未明に起きて、日がすっかり暮れるまで重労働の野良仕事に耐えられるような日本の若者が何人いるのだろうか。

日本の食糧の自給率を高めよう、日本産農産品を食べよう、と簡単に言える状況ではない日本の現状に日本人は気づくべきだ。




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