■日本人も「試される」
外国人労働者を移民として積極的に受け入れようとする議論が進んでいる。背景には、少子高齢化がさらに進行し、労働力が不足する懸念がある。ただ、言語や 文化、習慣の違いから、外国人との生活にはさまざまな軋轢(あつれき)が予想される。今夏に来日した看護師、介護福祉士の候補者に対する研修や、外国人が 多く暮らす集合団地の取り組みなどから、共生をめぐる行方を探った。(森本昌彦)
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≪2年で最大1800人≫
「ジュンビハ、デキマシタカ?」
「イマ、ヤッテイルトコロデス」
東京・北千住の海外技術者研修協会(AOTS)東京研修センターに、たどたどしい日本語が響いた。声の主は、日本とインドネシアの経済連携協定(EPA) に基づき、今年8月にインドネシアから来日した看護師の候補者同士。上司役と部下役を演じながら、日本語の微妙な言い回しを習得していた。研修所では、男 女23人が日本語や日本の生活習慣などを学んでいる。
8月に来日したインドネシア人はこの23人を含め、看護師、介護福祉士の候補者計 208人。来年初めまで全国の施設で学び、受け入れ先の病院などに派遣される。青森県の病院で働くヌルル・ヘユダさん(25)は「日本の風習や生活を理解 して、親切な看護師になりたい」と夢を語る。
今年12月にはフィリピンとの間にもEPAが発効される予定で、今後2年間で両国から最大1800人弱が来日する可能性がある。
≪生産年齢人口が減少≫
厚生労働省によると、平成22年の看護職員の需要見通しが140万6400人であるのに対し、供給見通しは139万500人で1万人以上足りない。介護関連職種も19年度の有効求人倍率は2・1倍と全職種の0・97倍を大きく上回る。外国人の受け入れについて、厚労省は労働力不足解消が目的ではないとするが、介護現場では期待の声が大きい。全国約5000の特別養護老人ホームが加盟す る全国老人福祉施設協議会は「介護現場の人材不足は深刻。日本語や宗教の違いなど不安はあるが、こうした動きはもっと広がるべきだ」とする。
労働力不足は看護や介護の分野に限った問題ではない。国立社会保障・人口問題研究所は、働くことが可能な生産年齢人口(15~64歳)が7年の8716万5000人をピークに、今から10年後には7473万2000人に減ると推計する。
こうした事情を受け、自民党のプロジェクトチームは今年6月、1000万人の移民受け入れを目指す政策提言をまとめた。日本経団連も10月、一定の技能を持つ外国人労働者の定住を認めるよう政府に求める提言を発表した。
≪要介護者は「不安」≫
懸念の声もある。日本看護協会は「まず日本人看護師の離職防止対策を取るべきだ」と慎重な立場を取る。「せっかく来てくれた以上、しっかりとした支援が必要だが、どれだけ日本の文化、習慣に適応してくれるか心配だ」とも。NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」が、要介護者とその家族を対象に実施した18年のアンケートでは、要介護者の57・8%、家族の47・6%が「ことばや文化の違いがあるので、原則的に日本人がよい」と回答。介護を受ける側の不安も浮き彫りになった。
将来訪れるかもしれない「移民国家」の試金石となる看護師候補者ら。課題について、AOTS日本語研修センター長の春原憲一郎さん(54)は「日本語もそうだし、介護や看護の専門技術、地域社会で生きていく能力が求められる」と指摘し、こう問題提起した。
「日本人側もどう変われるか。日本人も異文化への適応能力を身につけないと、移民受け入れは成功しないだろう」
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