2008-11-25

「就職氷河期」の再来か? 選別強める企業の新卒採用(1)

:::引用:::
10月下旬、首都圏の理工系大学に通う4年生の男子学生は、東証1部上場の電気機器メーカーから連絡を受けた。「業績が悪化しているので内定を辞退してく れませんか」。学生は泣く泣く企業の申し入れを受け入れた。4月には就職活動を終えていたが、冷たい秋風が吹く中、再び企業回りに奔走している。

 この企業は大学の就職部に対し、内定辞退を促した事実を伏せて「学生が自主的に内定を辞退した」と電話で説明した。大学側は「許せない行為」と怒りをあらわにする。

 企業業績の回復や、団塊世代の大量退職、少子化による人手不足を背景に、ここ数年の新卒採用は「売り手市場」が続いていた。ところが、世界的な金融不安による景気悪化懸念で状況が一変。その影響は、売り手市場だったはずの4年生にさえ表れ始めている。

  経営破綻が相次ぐ不動産業界では、倒産による内定取り消しが発生。外資系金融機関や輸出比率が高いメーカーに内定している学生も、気が気でない毎日を送っ ている。「マスコミ報道や内定を取り消された友人を見て不安になり、内定をもらっていながら就職活動を再開する学生も出ている」と、就職情報サイト・リク ナビの岡崎仁美編集長は語る。

 さらに気掛かりなのが、現在の大学3年生だ。いざ就職活動を始めようという矢先の経済混乱に、学生は不安を募らせている。大学が実施する就職ガイダンスの参加者数は昨年に比べて多く、就職情報サイトへの登録者数も出足が早いという。

 日本福祉大学はキャリア形成に関する科目を1年生から選択できるなど、就職支援に力を入れている大学の一つ。浦田雄司・キャリア開発部次長は「今年は自己分析や履歴書の書き方、面接などの講座がすぐに埋まってしまい、増設が必要になりそうだ」と、就職活動の現状を話す。

コア人材の採用意欲は不況期でも変わらない

 小誌が10月に実施したアンケートによると、現在の大学3年生が就職する2010年の新卒採用については、約6割の企業が前年並みと回答している。だが、採用を増やす企業はほとんどなく、減少に転じる企業が増えている(下グラフ参照)。

 企業には「就職氷河期」に対する反省もある。過去のバブル崩壊やITバブル崩壊時に新卒採用を極端に絞ってしまったことで、企業経営の中核を担う人材の不足に苦しんでいるのだ。今後は不況期であっても、コア人材については安定的に採用したいと考える企業は少なくない。

 たとえば、技術系の総合職については人手不足が相変わらず深刻なため、大学院修了・学部卒とも理系学生へのニーズは引き続き強い。リクナビが11月初めに実施した理系学生向けのイベントでも、企業側の参加意欲は極めて高かったという。

 とはいえ、10年新卒採用については全体として採用数が絞られ、買い手市場に移行する可能性が高いことも事実だ。大量採用を続けてきたメガバンクや証券、生保・損保など金融機関の一般職などには調整が入るとみられる。

不透明感増す2010年の新卒採用 採用担当者の人数やイベント参加回数を減らそうとする企業も現れ始めた。「昨年はすぐに参加枠が埋まった2月以降の合同説明会に、今年はまだまだ空きがある状況だ」(ある就職支援会社)。

  文化放送キャリアパートナーズ・就職情報研究所の夏目孝吉所長は「買い手市場が復活することで、企業の優秀な人材へのこだわりがいっそう強くなるのでは」 と予測する。ここ数年、企業の新卒に対する採用意欲は強く、09年採用では1980年代のバブル期以降で最高の求人数となった。だが、そうした状況の中で も、内定を複数獲得する学生となかなか内定を得られない学生との、いわゆる二極化が起こっている。今後、募集枠が減る中で、学生の選別がよりシビアになる ことが予想される。

一般職志望の女子学生には逆風

 企業が新卒採用を絞る際、その被害をもろに受けてきた のが女子学生だった。日本女子大学の中野春美・学生生活部キャリア支援課課長は期待を込めて語る。「女子の総合職の内定は年々増えている。メーカーや流通 をはじめ、鉄道など男性社員が多かった業種への就職も目立つ。景気が悪くなっても、女子学生の就職チャンスがなくなるわけではない」。経営戦略として女性 の感性を重視する企業もある。コア人材となりうる優秀な学生であれば、男女を問わず採用しようとする企業が増えていることも確かだ。

 そ の一方で、厳しい指摘もある。「全体的に女性歓迎ムードはトーンダウンするだろう。男性の不足分を女性で補充するという方針の企業や、単なる“流行”とし て女性採用をしていた企業が女子学生の採用を減らすことは十分考えられる」(岡崎氏)。金融機関などが一般職の募集を絞れば、結果として女子学生の就職に 影響を及ぼすことは間違いない。

 ところで、これまでの不況期では、中小・中堅企業が新卒の受け皿になってきた。好況期には大企業に取られてしまう優秀な人材を獲得する絶好のチャンスだからだ。

  実際、「中堅の流通・サービス関連では、大量採用に意欲を見せる企業もある」(岡崎氏)。その一方で、不動産関連では10年の新卒採用を見送る企業もすで に出ている。特に、下請け企業の経営は難しい状況にある。中小企業では、採用する体力のある優良企業とそうでないところとの二極化がさらに加速しそうだ。

 新卒採用の環境悪化が懸念される中、大学側も危機感を募らせている。最近の大学は就職ガイダンスから業界研究、面接指導まで、至れり尽くせりの就職支援体制を整えている。卒業生の就職実績が、高校生やその保護者が大学を選ぶ際の大きな要因になっているからだ。

 就職活動について大学の就職担当者が強調するのは、学生の「職業観の形成」の重要さ。青山学院大学の上倉功・進路・就職センター事務部長は「社会との接点を多く持ち、自己分析ができている学生ほど内定が出る」と強調する。

 いよいよ本格化する10年に向けた就職活動。学生には企業の厳しい選別が待ち受けている。

学生も不安でいっぱいの2010年就活

(週刊東洋経済)

●●コメント●●

0 件のコメント: