2008-11-26

貴州で日本語教師:今日も教壇に立つ1人の日本人女性

:::引用:::
青年海外協力隊とは、これは国際協力機構(JICA)が実施するボランティア派遣事業の一つである。これまでに開発途上国に対して3万人以上の青年海外協力隊員が派遣されている。

   中国へは、延べ670人の協力隊員が派遣されている。分野は、日本語教師、幼稚園教諭、看護師など、多岐・多方面に渡っており、現在約60名の協力隊員 が展開中だ。彼らの多くは、北京や上海などの大都市ではなく、内陸部の貧困地域などで、人生の中の「2年」という貴重な時間を過ごしている。

  日本を離れ、見知らぬ土地で情熱を傾ける彼らの活動を知る人は少ない。今回は、そんな彼らの姿と声を届けたいと思う。

-市原明日香さん-

  中国最貧困地域の貴州省は日本の面積の約半分に相当するが、貴州省内に住む日本人はおよそ10名。この地の人々は日本人との接点がほとんどない。市原さんは、1年前からこの貴州省の貴州大学に派遣され、日本語教師をしている。

  日本人の知り合いもいない。中国語(標準語)ですら通じにくい。初めての土地で、初めての学生。そんな彼女を出迎えたのは、慣れない日本語で一生懸命「日本の歌」を歌う学生の姿だった。

忘れないで すぐそばに ぼくがいる いつの日も
君と出会えた幸せ 祈るように…… (「風になる」 作詞作曲:つじあやの)

  不安で一杯だった彼女は、学生たちの暖かい出迎えに涙をこらえた。

-笑顔の絶えない授業-

  今日も彼女の1日が始まる。

  多くの学生にとって、彼女は「初めて会う日本人」である。

  日本語がほとんど話せない学生に、基礎から教える日々。市原さんはいつも笑顔の絶えない教え方を心がけている。そんな彼女が言った。

  「教壇から見える大勢の学生たちの生き生きした笑顔、私を受け入れてくれている大学の同僚たちの暖かい笑顔、生活の中で出会う貴州の人たちのやさしい笑顔。今の私の仕事の目的は、そんな周りの人たちをもっと笑顔にすることです。」

-学生の夢-

   貴州大学には市原さんが来る前にも協力隊員が日本語を教えていた。市原さんは、「第5代目」の日本語教師だ。貴州省内の日本語専攻のある全ての大学で、 歴代の協力隊員の教え子たちが日本語教師となって活躍している。ここ、貴州大学の日本語教師のうち、「5名」が初代協力隊員の教え子だ。協力隊員が教えた 「日本語」は、貴州の地で絶えることなく受け継がれている。

  市原さん、そして、歴代の日本語教師の協力隊員の姿を通し、学生たちは何を思い、何を感じたのだろうか。ある日の放課後、1人の学生が市原さんに言った。

   「私の夢は大学院に進学して、もっと日本語を勉強して、そして日本に行くことです。そして、市原先生が私たちに日本語を学ぶ素晴らしさや、楽しさを教え てくれたように、私も日本で中国語の先生になって、市原先生のように優しく、日本の人たちに、中国語や、中国のことをもっと知ってもらえるようになりたい です」

  中国の内陸部に位置する貴州大学で、日本語を教えるために今日も教壇に立つ1人の女性。

  彼女の姿を通し、今日も学生たちは「夢」という名の日本語を学んでいるのだろう。(執筆者:竹内和夫・国際協力機構(JICA)中国事務所 駐在員)

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