2008-11-28

自殺、夜逃げ、 ついに中国でも大型倒産の連鎖

:::引用:::

中国政府は、低付加価値で、かつ、資源を浪費し環境破壊の元凶ともなりがちなアパレルや雑貨などの産業が、人民元の切り上げ、労働コストの増加そし て規制強化によってある程度淘汰され、中国の産業構造が徐々に高付加価値に移転して行く、というシナリオを描いていたかと思います。

 しかし、今回の世界的な金融危機からくる、特に欧米諸国におけるこれほどの急激な需要減退は想定していなかったのでしょう。私の周辺でも、最近、 ある上海の家具メーカーが欧米からの注文が軒並みキャンセルになったという話を聞きました。また、蘇州周辺の香港、台湾系の輸出工場への与信を行なってい る香港系銀行の融資担当者からは、先週訪問した際には正常に稼動していた工場が、翌週に行ってみたところ夜逃げされてスッカラカンになっている、などとい うことが頻発しているという話を聞きました。中国のメディアでも輸出関連企業の大型倒産のニュースが出始めています。

 最近のニュースから2つばかり、中国のメディアでも報道された大型倒産の例を紹介してみましょう。

46歳、負債150億円で破たん、
自殺した広東省の砂糖王

 2008年10月15日午後5時頃、「広東中谷糖業集団公司」総裁のマン貴雄(マン・グイション)は、23階の自宅から飛び降り自殺を図り死亡した(合掌)。このニュースを聞いた債権者たちは会社に殺到し、現地の裁判所は直ちに同社の全資産の仮差し押さえを行なった。

 同社は、マン貴雄(マン・グイション)が1996年に設立。広東省の南端に位置し、中国有数の砂糖キビの産地である湛江市で最大の製糖会社であっ た。創業当初は、広東省砂糖の卸売りからスタートし、製糖業に進出したのは2004年。同市ではこれまで国営会社が製糖業と砂糖の流通を独占してきたが、 1999年からの民営化と自由化の波に乗って急拡大をし、マン貴雄(マン・グイション)は広東省の砂糖王といわれるまでになった。直近のデータでは資本金 5600万元(8億4000万円)、総資産:13.8億元(207億元)、売上げ【2006年】10.8億元(162億円)、白糖年生産量20万トンとい う規模を誇っていた。

 経営破たんの直接のきっかけは、8月に期限を迎えた農業銀行からの借入れ9500万元(約14億円)が延長を拒否され返済を求められたことにあ る。9月には4500万元(約7億円)しか返済できず、その後も相当な返済圧力があったようである。逃亡を防ぐために外出時には常に債権者が派遣した見張 りが張り付くなかで、相当不自由な生活を強いられていたとのことである。

 銀行が返済を迫った背景としては、全国的な総量規制で銀行自体が与信の削減を求められていたほかに、同社の経営自体も砂糖相場の下落でトン当たり 900元の逆ザヤを強いられていた他、砂糖の先物にも手を出して多額の損失を出していたとの噂もある。おそらく銀行としては、もともと債務過多の中で赤字 体質に陥った企業を最初の貸出回収のターゲットとしたのであろう。【情報元:新浪網】

中国最大の染色会社も突然の破たん、
巨額の使途不明金を抱えたまま理事長夫妻が失踪

 紹興酒で有名な紹興市にある中国最大の染色会社「江龍控股」では、2008年10月1日からの連休中も連休返上で操業を続けていた。ところが、 10月6日になると工員たちは、突然操業停止の通知を受け取った。翌7日に事務所に行ってみるとすでにもぬけの殻になっていた。董事長(理事長)の陶寿龍 夫妻は10月4日から行方が分からなくなっており、失踪の情報が伝わると、10月11日には主要な債権者が江龍控股とその保証人を裁判所に提訴した。

 さらに10月8日には、江龍控股の傘下企業である「中国印染」が、シンガポール証券取引所において58日間取引停止を行なうという事態も起きた。 同社は、2003年に陶夫妻が設立した浙江江龍紡績印染有限公司が前身。2006年にはシンガポールの投資会社と日本のソフトバンクが合弁で設立した New Horizon Fundから700万ドルの出資を受け、同年9月にはシンガポールの証券取引所で上場を果たした。この勢いで、数年で総資産22億元(約330億円)、 2007年の売上げ20億元(約300億円)の企業に成長した。傘下には、染色工場からアパレル製造、小売、から貿易まで多くの子会社を有すなど、相当手 広く業務展開をしていた。

 この勢いにかげりが見えたのは、2007年末に紹興のある銀行が1億元の貸出の返済を求め、さらに与信枠の縮小を求めてからである。これを期に同 社は高利貸しに手を出し、今年9月には日本円で数百万円単位の利息の支払いにも事欠く状況に陥っていた。こうした高利貸しの利息は、最初月利3%から始ま り、その後月利8%、そして最後には月利10%まで跳ね上がるという。いったん嵌ったら殆んどの企業は簡単に抜けられないアリ地獄に。同社の場合、最終的 には、銀行借り入れが12億元(約180億円)、高利貸しからの借入れが8億元(約120億円)に膨らんでいたようだ。

 ただし、破たんの理由は銀行の貸し剥がしというよりは、その資金使途にあったようだ。20億の負債のうち資金使途が明確であるのは10億元だけ で、残りの10億円の行き先が依然不明であるとのこと。先に挙げた「中谷糖業」の破たんの背景には本業の赤字と先物の失敗があるようであるが、こちらはど うも黒い影が付きまとっているようである。自殺に追い込まれる生真面目な経営者と見事逃亡を図る確信犯。この世の不条理を改めて感じさせられる上海の晩秋 である。【情報元:金融界JRJ.COM】

連鎖破たんの必然と
街場の景況感

 冷静に考えてみれば、欧米の景気がここまで息切れしないで持続できた背景の1つに、長い間人為的に安いままで据え置かれた人民元と中国の労働コス トから生み出される安い製品供給によるインフレのない持続的な経済成長がありました。そして、それを金融面で支えていたのが冷静な与信判断が欠如したサブ プライムローンの膨張(そしてそこから来る消費の拡大)があったわけです。しかし、そのサブプライムの市場が崩壊したわけですから、そこにつながる連鎖の 1つである中国の輸出産業も危機に見舞われるのも、ある意味当然といえます。市場にひずみがあればいつかは崩壊するのは自然の摂理であり、中国でも大局的 な見方、市場の周期性を常に意識する人であればこうした連鎖の崩壊も想定の範囲内であったのかもしれません。

 一方、上海の町の様子を見てみると、私の会社の事務所が所在する南京東路の周辺のデパートは相変わらず賑わっておりますし、私がよく行くレストラ ン、バーも相変わらず景気は悪くなさそうです。私の家の近所のフカヒレと海鮮料理が有名な高級レストラン(個室が30室以上の大型店)も毎晩高級車で一杯 です。本当にここだけ見ていると、「いったいどこが経済危機か?」と思ってしまいます。

 また、日本人向けにエステサロンを経営している中国人の友人に話を聞いてみましたら、この店は上海の日本人の奥様方を相手にしているので全く景気 減退の影響はなく、毎日ほぼ予約で一杯だということですが、中国人向けにやっているサロンや飲食関係の店では明らかに客足が減ってきているそうです。どち らかというと、株価の低迷による心理的な影響が大きいようだとこのオーナーは見ているようです。

 先日広東省の家具会社に話を聞きましたら、この会社はたまたま日本向けに輸出していて、日本の輸出先の業績が引き続き堅調なため、工場は相変わら ずフル操業で、周辺の欧米向けに輸出していた企業からは羨望の目で見られているとの話がありました。日本経済も厳しさをましているとはいえ、欧米市場との 比較では日本の安定性は中国でも見直されているように感じました。

割を食う中小企業と
借金を嫌う庶民

 もちろん、中国で多発する倒産は深刻な問題ではあるのですが、ちゃっかりした個人オーナーは、海外に隠し口座をもっていて相当資金を溜め込んでいるだろうから、実際にはそれほど多くの悲劇は起こっていないのではないかという気もします。

 ただし、上海市の政府関係者によれば、「民営企業でも上場しているかそれに近い規模の企業であれば別だが、多くの中国の中小企業は、銀行の融資な ど金融的なサポートがあまりないなかで、ぎりぎりで運転資金を回している企業も多いようで、その運転資金の一部を株式市場に回して塩漬けにしてしまい破綻 する例も少なくない」とのこと。金融危機の荒波が、まず、中小企業を襲うのは、日本も中国も変わらないようです。

 また、「一般的な中国人は、借金をすることにはまだ抵抗感が強く、最近でこそ住宅ローンを借りて家を買うということが普通になってきたけれど、借 金で消費をするなんて、アメリカ人のような感覚には到底なりえない、その分まだまだ健全である」とも申しておりました。はたして将来、借金をしたがらない 中国人が世界の金融を救うようになるのでしょうか――。


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