[東京 26日 ロイター] 財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は26日、米欧を中心とした金融危機の広がりが世界の実体経済に影響を及ぼして いる状況を踏まえ、財政運営は景気への配慮も必要としながら、厳しい財政事情に鑑み、景気対策に伴う大規模な財政支出は「緊急避難的措置」と位置づけた 2009年度予算編成に関する建議をとりまとめ、中川昭一財務相に提出した。
これまで「堅持」としていた2011年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標は「達成に向けた取り組みを怠ってはならない」と 事実上の努力目標に後退。09年度予算編成に際しては「概算要求基準を堅持すべき」とし、与党などから強まる歳出拡大圧力をけん制した。
<日本経済は下降局面が長期化・深刻化のおそれ、財政は景気への配慮も必要>
建議では、日本の財政事情について「主要先進国の中で経済規模に比し最も巨額の債務残高を抱えている上、少子高齢化に伴う社会保障費の増大などの課題に直面している」引き続き厳しい状況にあると指摘。
一方で、日本経済を取り巻く環境は「現下の国際金融情勢は『100年に1度』とも言われる大混乱に陥っている」との認識の下、「日本経済は今後、世界的な景気後退を受けて景気の下降局面が長期化・深刻化するおそれが高まっている」と先行き警戒感を示した。
こうした状況を踏まえた財政運営は「社会保障の信頼性・持続可能性を高め、財政健全化を進める」ことの必要性を強調しながら、「経済動向にきめ細かく配慮した財政運営を行っていくことが求められている」と景気対策の重要性も指摘した。
<財投特会準備金の対策財源への活用、債務残高を実質的に増大させる>
政府は、厳しい経済情勢に対応するため、8月に国費1.8兆円規模の総合経済対策、10月に同5兆円規模の追加経済対策を相次いで打ち出したが、 建議では「財政事情が非常に厳しい中で、このように大規模な財政支出を行うことは、国際的な経済・金融の大混乱時における緊急避難的な措置と認識すべき」 と緊急避難対応を強調。
追加経済対策の財源となる財政投融資特別会計の金利変動準備金の活用についても、同準備金の余剰金は本来、国債の償還に充当することになってお り、「国の債務残高を実質的に増大させる」と指摘。同準備金の活用は「あくまで臨時的・特例的な措置であるとの認識を持つべき」と安易な特会などの準備金 や積立金の流用に警鐘を鳴らした。
<プライマリーバランス黒字化、目標「堅持」から努力へ>
景気対策で財政支出が増加する一方、歳入の税収は大幅減が避けられない状況のなか、政府が掲げる財政健全化目標である2011年度のプライマリー バランス黒字化の達成にも暗雲が立ち込めている。建議では、「プライマリー・バランスの黒字化などの目標達成に向けた取り組みを怠ってはならない」と訴え たが、6月の建議に明記された「(目標の)堅持」は消え、事実上、努力目標に後退した格好となった。
<社会保障の安定財源、既存不足額の解消を>
今回の建議では、2009年度に基礎年金の国庫負担割合を現行の3分の1から2分の1に引き上げることなどをにらみ、「社会保障の安定財源の確保」について項目を設けた。
具体的には、社会保障の安定財源として消費税を「中核を担うにふさわしい」と位置づけた2007年の政府税制調査会答申に言及し、「政府においては、答申の考え方に沿って可及的速やかに対応すべき」と消費税の活用に理解を示した。
社会保障国民会議が11月4日にとりまとめた最終報告では、年金、医療・介護、少子化対策について機能強化を図った場合、追加的に必要となる公費負担は基礎年金の社会保険方式で消費税率換算3─4%、税方式で6─11%と試算している。
これに対して建議は、現行の基礎年金、老人医療、介護にかかる費用13.3兆円のうち消費税では7.5兆円(2008年度予算)しかカバーできて いないとし、国民会議試算の前提となった社会保障の機能強化だけでは「既存の不足額は解消されない」と指摘。「安定財源確保にあたっては、既存の不足額を 十分踏まえた上で、必要な規模を検討すべき」と不足額への対応が重要としている。
政府が年末までにとりまとめる「中期プログラム」については、「2010年代半ばを視野に、社会保障の安定財源の確保への道筋と、そのための具体的な税制改革のあり方を盛り込むべき」と提言。
基礎年金の国庫負担割合引き上げに関しては、「安定財源のあり方も含め、年末までの結論を得なければならない」とした。
<歳出拡大圧力をけん制、道路財源一般化は国の財政健全化に資するべき>
景気対策の名目の下、与党からは公共事業など歳出拡大圧力が日増しに強まっているが、建議は2009年度予算編成について「厳しい経済情勢下に あっても、日本の財政事情の現状、今後一層の高齢化の進展が見込まれることに鑑みれば、財政健全化と経済成長の両立を図っていくべき」と強調。公共事業の 対前年度比3%削減の継続などを明記した2009年度概算要求基準を「堅持すべき」と歳出圧力をけん制した。
2009年度からの道路特定財源の一般財源化に際し、麻生太郎首相は地方活性化策として1兆円を地方に配分する方針を示しているが、建議では「一般財源化に当たっては、現下の危機的な国の財政状況を踏まえ、国の財政健全化に資する改革とすべきである」と指摘した。
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