「オンライン上で利用者とのコミュニケーションをはかるため、企業がコミュニティサイトを立ち上げることがあるが、コミュニティサイトという名の「箱」を作っただけでは人は集まらない」--相模鉄道からコミュニティサイトを 立ち上げたいという依頼を受けた時、イー・エージェンシー 代表取締役社長 甲斐真樹氏の頭に浮かんだのはこの課題だ。甲斐氏はZDNet Japan主催のイベント「ZDNet Japan Social Technology Conference 2008」にて、同社が手がけた相模鉄道のコミュニティサイト「相鉄Style」について語った。
住民をライターに迎えた相鉄Style
調査と試行錯誤の末完成した相鉄Styleは、2004年のオープン以降コンセプトをぶらさず、今ではユニークユーザー数が10万人、ページ ビューは100万を超えるサイトに成長している。相鉄沿線の人口は100万人と言われているため、沿線人口のおよそ10%が相鉄Styleを観覧している ことになる。
相鉄沿線のおすすめ情報を配信するこのサイトは、2004年当時では珍しくシックス・アパートの「Movable Type」を利用したブログベー スのウェブマガジンで、地域住民らがライターとして参加している利用者中心のウェブサイトだ。オープン当時は130の記事しかなかったが、現在はその約 30倍の記事数に増え、ライターの数も180人にまで成長した。地域に限定した情報サイトがここまで大きく成長したのも、甲斐氏をはじめとしたイー・エー ジェンシーが、企業と利用者のニーズと関係を再確認し、ウェブにおけるコミュニケーションの形を今までの形に捕われないで組み立てたからだろう。
甲斐氏がこのコミュニティサイトの構築において重視したのは「企業と住民のベクトルを同じ方向に向けること」だ。いずれかにとって都合の良い場でなく、双方にとっての目的が達成できる場こそコミュニティサイトの重要な視点なのだ。制作前に調査した競合サイトはいずれも特定の路線に特化し過ぎている上、読者のフィードバックもできず、情報が一方通行なウェブマガジンばかりだった。また、更新頻度も低く検索ができない競合サイトも多く見られたという。
甲斐氏が考えたのは、「人の生活がひとつの路線で固定されることは現実にありえない」という点だ。そこで、路線はゆるく残しつつも、生活エリアに注目した利用者と交流できる場が必要になってくる。既に住民が他のコミュニティサイトで活発にコミュニケーションをしているのではあれば、そのサイトを使って交流すれば良いという提案もあったが、相鉄線をキーワードにしたコミュティサイトは当時なかったこともあり、1からの本格的な制作がスタートしたという。
ライターのモチベーションをうまく引き出す
相鉄Styleでは住民がライターとなって記事を執筆しているが、誰でも自由に書き込めるわけではない。ライターとして相鉄Styleデビューす る前に審査が行われているだけでなく、すべてのライターが顔出しで登場しているのも特徴だ。顔を出すことで、生活との関わりの深さと安心感が演出できる。 また、サイトには最初から多機能のCMSを導入せずに、ライターからのフィードバックを基に機能を徐々に追加している。
シンプルなCMSで始めるメリットについて甲斐氏は、「最初からたくさんの機能を盛り込んでも、ライターも読者も利用しない可能性がある。ライ ターのフィードバックを大事にすることで書いてもらうモチベーションが上がるきっかけになるだけでなく、最初から大規模のシステムを必要としないので予算 にもやさしい」と説明する。次々にアトラクションが生まれるテーマパークのような展開が、長くコミュニティサイトを運営していく上で重要な視点だと甲斐氏は語る。
ウェブはプロモーションよりPRに向いている
企業がコミュニティサイトを 立ち上げるのはプロモーションが目的という場合があるが、「ウェブはプロモーションよりパブリックリレーションズ(PR)に向いた媒体だ」と甲斐氏。マス に向けて少しでも多くの人に露出したい場合は、今もテレビや雑誌のような別媒体のほうが向いているが、持続的または長期的に利用者とコミュニケーションを とるのであればウェブが適した媒体といえるだろう。サイト制作前に調査した競合サイトは、いずれもブランドイメージを生かして情報発信をしてはいたが、 ウェブにおいて従来のブランドイメージや知名度だけではうまくいかない場合が多く、プロモーションのように短期的ににぎわそうとしても期待とは逆の結果に なることすらある。
ウェブだからこそできることは何かを理解し、企業側の視点だけでなく利用者の視点も考慮したコンセプトワークは、企業がソーシャルメディアを利用する際の前提としておきたい姿勢で、4年前に相鉄Styleが立ち上がった当時から変わらないことだ。当時は今ほどメジャーではなかったブログでのサイト作りにあえて挑戦したからこそ成功例として語れる部分もあるだろう。
ソーシャルメデァイアだけではないが、常に新しいものが出てくるウェブにおいて、完全に広まってしまうのを待つのでは遅い場合もある。新しいものを導入するリスクは常にあるが、リスクを成功に転換できる可能性も高い。今ではブログも浸透したが、それを利用したPR戦略はまだ始まったばかりで、模索されきれていないアプローチもある。技術を単に利用するのではなく、今後は利用者との関係作りにどのような組み合わせがマッチしているかが考慮されたPRが出てくるのか期待される。
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