2008-11-12

中国ハイパー技術者

:::引用:::
PART 1 格差広がる日中エンジニアの仕事モチベーションと評価・報酬への意識
 ここでは日中の国柄の違いがよく出てい る代表的な3つのデータをご覧いただきたい。「仕事へのモチベーションの変化」「成果への見返りとして得たいもの」「自分が今の会社で評価されている要 素」である。そこから見えてくるのは、今ひとつ元気のない日本の技術現場だった……。
DATA1 3年前と比べた仕事への熱意・モチベーションの変化
3年前と比べて「モチベーション が上がっている」と答えた日本の技術者は 30 %、対する中国は 37 %。一方、「下がっている」と答えた日本の技術者は 44 %、中国は 28 %だ。この傾向であれば、同じ「変わらない」でも、日本の場合は低位安定、中国の場合は高位安定という違いがあるはずだ。
技術立国、ニッポンの将来に暗雲が感じられる結果である。
DATA2 技術の成果への見返りとして得たいもの
中国人は「職位」「次期開発費」「最先端の仕事環境」「仕事での時間自由度」など、仕事に関連するものをバランスよく求めているのに対して、日本の場合は 「金銭(給与・賞与・報奨金など)」が9割を超え、突出している。成果主義の導入などにより、会社と技術者の関係がビジネスライクになり、結果として、評 価や認知を「金銭」で求めているのではないだろうか。さらに、日本の場合、「長期休暇」の割合が高いのは、DATA1の「モチベーションの低下」を別の面 から物語っているのかもしれない 。
DATA3 3年前と比べた仕事への熱意・モチベーションの変化
これも全般的に中国のほうが項目の割合が高くなっている。特に、「実績・成果」「発揮能力」「取り組み姿勢」「市場価値」「学歴」といった項目で中国が高 い。興味深いのは、日本の場合、「評価の要素が全くわからない」のが 12%もあることだ。これでは自己のどんな能力が足りないのか、認識しようがない。評価要素と能力開発には密接なつながりがあるため、日本企業の大きな課 題といえる。
 こ れから「坂の上の雲」を目指す国と、すでに「坂」を上りきってしまった国と。日中技術者の仕事に対する意識を探っていくと、想定していたような違いが見事 に現れた。浮かび上がってくるのは、疲弊した日本の技術現場の風景である。そこには、黙々と日々の仕事をこなしながら、頭上の嵐が過ぎ去るのをじっと待っ ている多くの技術者がいるのが想像できる。
Part2 どっちが強い? 日中技術者の強み比較
  日本の技術現場には耳の痛い話が続いた。ここでは日本人技術者と中国人技術者のそれぞれの強みを3人の識者に聞く。中国人材の斡旋に従事するコンサルタント、技術評論にこの人ありといわれる重鎮の評論家、単行本にもなった毎日新聞の人気連載「理系白書」担当記者である。
ビジネス志向の強い中国人技術者たち
 中国人技術者のキャリアを考える場 合、2つの点に注意する必要があります。ひとつは中国が理工系重視の国で大卒の7割が理工系ということです。それだけ技術者の数が多くて社会的地位も高い のです。しかも産学連携が非常に進んでおり、多くの学生は企業からの委託研究で在学中から技術者としての訓練を積んでいます。調査項目にあった、技術者と して一人前になるまでの年数が日本と比べて少ない背景にこういう事情があります。

  もうひとつは、現在の中国は契約社員社会で、ほとんどの労働者が有期契約で働いている点です。契約期間は1年とか2年の短期で、転職が当たり前です。労働 者は2年後のキャリアパスをいつも考えながら会社と契約を結んでいるわけです。転職意識の高さは調査結果にも如実に出ています。

新たな可能性を生む中国技術者とのコラボレーション

 中国は現在、 IT 先進国になりつつありますが、多くの IT 技術者は IT ビジネスパーソンになりたいと願っています。技術はあくまで手段であって、技術をもとに儲けたい、起業したいという志向が非常に強いんです。これには独立 心旺盛な中国人気質も関係しているでしょう。

  中国人技術者の台頭が日本人技術者にとって脅威になるという人がいますが、私はそうは思いません。日本人の強みは日本の市場や顧客に密着していることで す。そうした強みを生かして海外拠点や中国人技術者を活用するというスタンスを取れば、中国の台頭は逆に日本人技術者にとって新たなチャンスだと思いま す。
技術と技能が一体化。そこに日本の宝がある
 中国と日本とでは、それぞれ強みを発 揮できる技術分野が異なります。中国はパソコンや DVD など、規格化された標準部品の組み合わせによる比較的単純なモノづくり分野であり、片や日本は自動車や工作機械など、中身を構成する部品サブシステム相互 の「すり合わせ」が不可欠である高度な分野です。ひところ、世界の工場・中国の脅威ばかりがもてはやされましたが、ここにきて、中国企業の強みと弱みを冷 静に分析する見方が出てきました。

 中国がまだ遅れていると感じるのは特に知財分野です。私も経験がありますが、明らかな模倣行為を「学習の結果にすぎない」と強弁するにあたっては閉口してしまいます。


日本の強みを発揮できるのがナノテク分野だ

 私は1960年代からこれまでに40回以上中国を訪れていますが、そこで実感したのは研究開発と工場 の現場のインターフェイスが不足していることです。モノづくりには、設計、材料選定から部品加工、組み立て、検査に至るまで、さまざまな技術の統合化が必 要ですが、それが中国ではうまくいかない。旧ソ連でも同じでしたから、社会主義国の弊害でしょうか。逆に、そこが日本の強みになっていますね。「すり合わ せ」とも関係しますが、日本の優れた現場では技術と技能が渾然一体となっています。

 今、次世代の先端技術としてのナノテク研究に各国がしのぎを削っていますが、数十ナノレベルのシステムLSIひとつとっても、設計と製造が一体となった「すり合わせ」が不可欠です。そういう意味では日本の比較優位は依然続くと思います。
技術と技能が一体化。そこに日本の宝がある
 日本人技 術者のモチベーションが下がっているのが気になります。経営が厳しくなった分、上から命じられたテーマをこなすだけの人が多いのでしょう。技術者の人たち は、自分の好きなことができるからその道を選んだという人が大部分ですから、今の状況はちょっと気の毒ですね。

 ある調査によれば、モノづくりを基盤とした日本人技術者の、ほかのアジア諸国人材と比べた強みは、「高度の熟練技能」「品質管理能力」「開発部門との連 携力」などです(厚生労働省「ものづくりにおける技能の承継と求められる能力に関する調査」、 2004 年)。まとめていえば、熟練・品質管理・チームワークでしょうか。

個々の技術者のモチベーションを向上させながら、これまでの強みも生かす。本来は対立しがちな両者のバランスがこれからの日本企業に必要なのだと思います。
DATA4「転職するなら働いてみたい企業」の条件
日本で一番割合が高い項目は「技術力や仕事を正当に評価する」であり、これは技術力や仕事の評価が「正当に」されていないことの裏返しだろう。一方の中国 は、「最新技術の習得機会が多い」が高く、これは転職・キャリア志向が明確であることを反映していると思われる。さらに日本は「ゆとりある生活」の割合が 非常に高く、ここからも疲れている日本人技術者の姿が浮かび上がる。

  ここまで、日本人と中国人技術者それぞれの仕事観・キャリア意識を探ってきた。歴史や文化的な関係の深い隣国でありながら、想像以上に大きな差異が現れたのはご紹介の通りである。最後にまとめとして、日本人技術者が能力を発揮できる環境について考えてみた。
技術者を傍観者にさせない。“主観”復権のマネジメントに期待

 調査結果を見てちょっと暗い気分になりました(笑)。もっと銭よこせとか、もっと正当に評価してほし いとか、日本の技術者と企業との関係が明らかにドライになっていますね。開発意欲もさぞ低下していることでしょう。どうすればこうした事態を打開できるの か。3つお話しします。

 まず、
企業は技術者本人の思いや夢、あるいは意欲をもっと大事にして、チャンスを与えるべきだ と思います。人間は目の前の現実を主観と客観、ふたつの観点で見ますが、アメリカ式経営の影響もあって、データや分析、数値目標が尊ばれる昨今、どうして も後者が強調されがちです。これではいけない。技術者が傍観者になってしまうからです。自分の夢や思いといった主観があるからこそ、創造の土台となる仮説 が生まれます。この主観と客観のスパイラル(相互作用)をうまく働かせるべきなんです。

日本の強みを発揮できるのがナノテク分野だ

 技術者の思いや夢こそが「未来」をつくります。その未来から逆に現在や過去を見ることで、今まで蓄積 された知識や技術が再構成され、別の新たな意味をもつようになる。夢や思いがなければ技術者のモチベーションは下がるばかりですよ。かつての日本的経営は 技術者の夢や未来を大切にしてきました。反面、現在の評価が甘くなる欠点もありましたがね。最近は年功序列主義を見直す議論も出ているように、短期的な業績ばかりを追わない骨太な未来志向を復権させる必要があります。
 最後は「場」の大切さです。優秀な技術者ほど、非常に感じやすい、ある意味傷つきやすい人間であることが多い。そういう人たちに、信頼や安心感を与え、腰を落ち着けて研究に取り組める環境の整備が大変重要なのです。転職先として重視する条件という項目で、日本人技術者が「いい人がいる」という項目の得点が高いのはそれを象徴しているのでしょう。技術者に限った話ではありませんが、人はパンのみにて働くにあらず、なのです。
 崩れかけているとはいえ長期雇用中心の日本と、短期の有期雇用が主流の中国。新たなイノベーションが求められる日本と、まだまだキャッチアップ型の技術開発が中心の中国。雇用環境も技術環境も対照的な2国の技術者についてデータを基に考察してきた。

 私たちは中国人にはなれない。自分たちの強みと弱みを認識したうえで、再び足を踏み出さなければならない。そのためにこそ、組織より個、明確なキャリア 意識、長期の技術開発より今お金になるビジネス重視など、あらゆる面で日本と対照的な中国を、わが身を映す鏡として活用する意義があるのではないだろう か。

 中国ハイパー技術者に日本技術者が負ける日。そんな日が現実とならないようにするためには、日本技術者の強みが発揮できる土俵で勝負することが大切だ。 日本の強みである熟練やチームワークからは、よい「場」から生まれる。そして、「未来」へ向かって「技術者の夢」が伸びていく。そこからは前に足を踏み出 すだけである。
日本調査概要 中国調査概要
 有効回答数 3117 件 300 件
 調査期間 2003/12/13~12/15 2004/4/16~4/22
 調査対象 日本国内在住者 中国国内(北京、上海、大連、広州)在住者
 対象年齢
 (※両国共通)
25~45歳
 対象職種
 (※両国共通)
ソフトウェア系職種(コンサルタント、SE、ネットワーク関連)
ハードウェア系職種(電気・電子関連、機械・メカトロニクス関連)
化学・素材系職種
 調査方法
 (※両国共通)
インターネット調査会社のパネル会員に向けたインターネット調査

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