■組み立て型製造業には4つの業種がある
製造業は、素材型、組み立て型、上記2つ以外を指す生活産業型(例:食品飲料)の3つに大分類できます。
このうち、組み立て型には、一般機械、電気通信機器、精密機器、輸送機械(乗用車、トラック、バス、そのほかの自動車)の4業種が含まれます。
年間出荷額は、輸送機械が約59兆8000億円、電気通信機器が約51兆円、一般機械が約33兆3000億円、精密機器が約4兆円で、合計約148兆円で す。全製造業出荷額が約315兆円なので、組み立て型だけで実に47%程度を占める、すそ野の広い業界です。また、成長率は、業種や年により差はあります が、10%前後あります(経済産業省「平成18年工業統計表(1.産業別統計表)」)。
■ピラミッド構造の崩壊
最近の製造業では、大企業を頂点としたピラミッド構造が崩れてきており、業界構造に変化が見られます。これまでは、大企業を頂点に、企業間の垂直取引関係 が存在していました。その中で情報が濃密に共有され、ヒト・モノ・カネなどの資源も柔軟に融通されていました。それが競争力の源泉となってきたといわれて います。ピラミッドの頂点の自動車組み立てメーカーや総合電気メーカーは、配下の企業や下請け部品メーカーを束ねた企業グループを構成し、長期的な視点に 立った安定的経営を行ってきました。
ところがバブル崩壊以降、ピラミッド構造の維持コストが相対的に高くなってきたことや、情報技術の進化により情報交換コストが低下したことなどによっ て、長期安定的な関係に対する選別やオープン化が進んできました。日産自動車のカルロス・ゴーン氏が「ゴーン改革」で行ったサプライヤの選別や、松下電器 産業(現パナソニック)における系列店の選別がその典型例です。
大企業においては、複雑な事業構造のため多大な調整に追われ、俊敏性が不足し、大胆な意思決定を行えないといった問題があるといわれてきました。このため近年、事業の選択と集中を進め、事業単位での切り離しや、逆に買収を行う企業が多くなってきたのです。
■水平分業型ビジネスモデルの席巻
日本などの先進工業国では、バリューチェーンの川上の商品開発・部品製造、川下の販売・サービスと比較して、中間に位置する組み立て型製造はもうからない (「スマイルカーブ」)といわれます。実際、パソコンやデジタル家電のように、標準化が進んだ製品では、製造・組み立てはコストが低いところに任せ、自社 はR&D(Research and Development)やブランド・サービスに集中する手法が見られます。このような業態を、垂直統合型に対して水平分業型モデルといいます。 ODM(Original Design Manufacturer:相手先ブランドによる設計・製造)やEMS(Electronics Manufacturing Service:電子機器の受託生産を行うサービス)といった水平分業型モデルを支える中国や台湾の企業が増加してきています。しかし、自動車産業のよう に、“擦り合わせ”の重要性が高い業種では、組み立て型製造業であってもこのようなモデルを採ることは難しいといわれています。
■日米欧中心のグローバル化はおしまい。多極化する世界への対応が必要
組み立て型製造業は加工貿易産業ともいわれ、グローバル化がかなり進んでいます。従来、ハイテク製品業界は、競合企業間で、過多といわれるほどの熾烈な国 内競争をすることがグローバル競争優位の源泉となると考えられてきました。しかし近年、日本の市場は独自に進化をしている一方で、世界の多数を占める日本 以外の市場と切り離されており、日本市場で切磋琢磨(せっさたくま)することが必ずしもグローバル競争における優位につながりません。いままでの、市場は 日米欧中心、生産はLow Cost Countryといったグローバル化ではなく、BRICs諸国などの台頭で、多極化する世界への対応が求められていることが背景にあります。
■組み立て型製造業のシステム
組み立て型製造業のシステムは、企画、開発から量産まで、すべての過程を包括的に管理するPLM(Product Life Cycle Management)、調達から販売までのプロセスを支援するSCM(Supply Chain Management)、マーケティングからリサイクルまで顧客との関係を支援するCRM(Customer Relationship Management)、そして、財務・会計やHRなどの管理系の4つに大別できます。ここでは、管理系を除いた3つの流域について簡単に説明します。
ちなみにこの分類は便宜的な大くくりと考えるべきです。実際には各業務が複雑に関連しており、各分野の業務連携が弱いケースはしばしば課題となります。例 えば、営業と生産の連携が悪ければ、売れない在庫を生み出す結果になるだろうし、設計と生産の連携が悪ければ、量産立ち上げがうまくいかないかもしれませ ん。専門的な効率性を高めるための機能と、全体最適を高めるための機能間の連携でどうバランスを保つかが、システム設計においても重要な考慮点となりま す。
■グローバル化で、高度な擦り合わせをサポートするPLM
日本の製造業の強みの1つとして、擦り合わせ型の製品開発が挙げられます。これは、自社の組織内のみならず取引先とも固定的な責任範囲を定め、完全分業と しないところに特徴があります。協力し合い、お互い責任範囲やプロセスを重ね合わせながら、シームレスに継続改善を進めていくのです。例えば、「購買部門 が音頭を取り、製品エンジニアと生産エンジニアが協力して金型の原価低減を推進する」「サプライヤの生産エンジニアが試作初期段階で設計についてテストし 問題を組み立て、OEM側にフィードバックする」などです。
これらは、日本人同士の閉じた世界では非常に効率的に行われますが、 暗黙知やコンテキストへの依存度が高いため、ひとたび外国人がコミュニケーションに加わると透明性が低いなどの不満が生じることが多くなります。今後、生 産や販売のみならず、設計開発機能についてもグローバル化を進めていくためには、PLMによって、海外拠点も含めた情報共有を促進していくことが必要とな るでしょう。
■グローバル・サプライチェーンマネジメント
SCMは組み立て型製造業の特徴ともいえる領域です。企業によって差はありますが、比較的完成度が高いといえます。ただし、システム刷新はあまり進んでい るとはいえません(これも企業によって差はありますが)。詳細なビジネス要件を長年にわたって反映させてきた結果、使い勝手のよいシステムとなった代わり に、メンテナンスが困難で、減価償却が完了しているにもかかわらず運用コストはさほど低下していないといった事態が多いのもこの業界の特徴です。
そのため、システムの刷新を狙ってERPを導入する際、現場ユーザーから大きな反発の声が上がり、膨大な追加開発を必要として行き詰まることがあります。
SCMの今後のチャレンジとして、グローバル相互供給ネットワークの推進が挙げられます。従来、自動車に代表される組み立て型製造業は、構成品の重量や体 積から輸出入は船便とならざるを得ず、地域を超えた部品やコンポーネントの相互供給が活発には行われてきませんでした。これに対して、多極化する世界の環 境下では、地域をまたいで各工場、各サプライヤ、各販売拠点を直結させ需給調整を行う、グローバル供給ネットワークの必要性が、いままで以上に高まってい くと考えられます。
■トレーサビリティをベースとしたCRM
組み立て型製造 業は大きく、消費財と生産財に分けることができます。前者は、一般消費者が顧客であるのに対し、後者は、特定のビジネスユーザーが顧客です。上記のいずれ かによって、CRM領域に求められる機能や業務は大きく異なりますが、製造業にとって大切なことは、顧客が購入した製品のライフサイクルを通じて最適な サービスを提供することです。日々設計変更が反映され改良されていく製品について、どのような部品やソフトウェアが顧客の使用製品に組み込まれているのか 正確に履歴管理し、顧客から問い合わせがあった際に、容易にトラッキングできるようにしておく必要があります。日本の製造業は品質に自信を持っているた め、サービスを軽視しがちであるといったら、いい過ぎでしょうか。今後、組み立て型製造業の有望なシステム開発分野は、サービスにあると私は考えていま す。
■進む機械のインテリジェント化への対応
続いて、組み込みソフトについてふれたいと思います。マザーマシンといわれる産業機械のインテリジェント化(高度な情報機器の導入)はかなり前から進んで きました。実際に工程管理システムを導入する際は、工程の生産指示データとライン上の工作機械のインターフェイスとの統合テストが必要になります。
近年は、それが一部の消費財で爆発的で行われています。電子部品産業の今後の主要ターゲットは自動車であるといわれています。携帯電話やハイクラス自動車のてんこ盛り機能や、個々の機能の複雑化によって、プログラムの規模が爆発的に増大しています。
これから、組み込みソフトの利用が増大するにつれ、大きな課題が生じる可能性があります。1つは、組み込みソフト自体の開発をどう進めるのかという課題。 もう1つは、部品と同じように組み込まれるソフトウェアのバージョン管理・メンテナンスをどう行うかという課題です。まさにITエンジニアがプロジェクト マネジメント知識を生かして活躍することが期待されているのです。
■最後に
組み立て型製造業は伝統的な企業が多く、改善を積み重ねてきた効率的な生産物流を支えるため、システムに対する要求レベルが非常に高いといえます。このた め、ERP導入を行うなどの際には、十分考慮が必要です。「トップダウンで確認したはずだ」ではなく、現場のマネージャと、とことん話し合い納得してもら う必要があります。そのためには、技術的な面だけでなく、業務をしっかりと理解し、論理的にコミュニケーションできる必要があります。
また、グローバルにビジネスを展開している企業は多いですが、システムのグローバル統合が実現できている企業は多くありません。多くの企業では、ビジネス の拡大に伴って継ぎ足しでシステムが導入されてきています。そのため、海外の情報が十分把握できていなかったり、運用コストが高留まりしているケースが多 く見られます。これらの課題を解決すべく、ぜひグローバルをまたにかけたITエンジニアとして活躍していただきたいと思います。
次回は「プロセス型製造業」について説明する予定です。
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