日本とインドネシアとの経済連携協定(EPA)に基づき今年8月、インドネシア人の看護師・介護福祉士候補205人が来日し全国6カ所で約半年間の 日本語研修を受けている。一方、日本語研修を免除され8月末に来日した3人のうち2人は横浜市内の特別養護老人ホームで働き始めた。看護・介護分野で初め ての外国人労働者の本格的な受け入れ。奮闘する候補者たちを訪ねた。【有田浩子】
◇「外国人職員1人」施設も--環境、言葉…不安
横浜市金沢区の海外技術者研修協会横浜研修センター。介護福祉士候補45人が日本語の習熟度別に5クラスに分かれて研修している。
授業中は日本語しか使ってはいけない。「パーティーに来られますか?」。講師の堀野弘子さんが日本語で問いかけると、「ちょっとすみません。友達 と用事がありますので……」「来られません」と明るい声が返ってくる。誤りを正そうと、堀野さんがころ合いを見計らって「行けません」と言うと、「行けま せん」と全員が復唱した。
介護福祉士候補は来年1月末まで、看護師候補は2月初めまで研修が続き、858時間のうち約8割の675時間が日本語習得にあてられる。授業は月 曜から土曜日までで、ほぼ連日テストがある。日常会話を学んだ後は介護現場で使われる「褥瘡(じょくそう)(床ずれ)」といった専門用語も学ぶ。ひらがな やカタカナも習っているが、こちらは会話以上に個人差が大きい。
とはいえ候補者たちの心配はもっぱら研修後の生活だ。現在はセンター内の宿泊施設で共同生活をしているが、介護現場に行けばインドネシア人の仲間は1人が大半で、外国人は自分1人という介護施設も13ある。
現在、センターにはインドネシア語を話せるスタッフが週1回訪れて相談を受けているが、「(自分が働く)田舎ってどういうところ?」「スーパーは あるのか?」と聞かれる。働く環境や仕事をうまくやっていけるかなど、「研修後の生活が想像できないことへの不安が多く表れている」(米田裕之館長)とい う。
愛知県の老人保健施設で働く予定のモハマド・シャフィウディンさん(23)は「一番心配なのは言葉。だから一生懸命勉強しています。施設での仕事内容は聞いてはいますが、心配もあります」と話す。
一方、アナ・グストリアニさん(28)は台湾で約2年10カ月働いた経験もあり、施設で働くことへの不安は少ない。「インドネシアでは湯船に入る習慣はないが、新しい経験として入浴介助をぜひやりたい」と語る。
夫と1歳の子どもがいる。看護師資格を持つ夫は来年、EPAで来日する予定だ。「できれば一緒に働きたい」と話す。
日本への出発前研修で調査した安里和晃・京都大大学院准教授によると、看護師候補の場合、既婚割合は約2割。マッチングの際、既婚かどうかは尋ねていないが、日本で就労後、各施設では家族をめぐる対応が課題となる可能性もある。
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日本語研修を免除されたウェルヤナ・オクタフィア(フィフィ)さん(27)とティアス・パルピさん(27)の2人は、横浜市の社会福祉法人緑成会(遠藤一典理事長)が運営する特別養護老人ホーム「緑の郷(さと)」で9月から介護職員として働き始めた。
母国で看護師資格を持つ2人は2度の来日歴があり日本のヘルパー2級を取得ずみ。留学中には介護施設でアルバイトもしていた。法人特別参与、野原 すみれさん(71)宅に寄宿し、毎日自分たちで弁当を作ってバス通勤している。夜勤には入らず週1回、日本語研修を受けている。
担当の3階にいる高齢者36人の名前と顔と部屋の番号は最初の2日で覚えた。高齢者のほうも、2人が日本での介護経験があり笑顔を絶やさないためか、驚くほどすんなりなじんだという。
だが、介護記録の作成についてフィフィさんは「まだわからないことが多い」と話す。日本人職員からマンツーマンで指導を受けているが、パソコンで 入力する際「排泄(はいせつ)介助」といった漢字変換はできても「吐き気がある」といった高齢者の細かな状態について適切な言葉が出てこないことがあると いう。
マンツーマンで職員がつくのは今月まで。「早く独り立ちできるようレベルアップしたい」と口をそろえる。2人にとって最も大きなハードルは3年後の介護福祉士の国家試験だ。
◇働きやすい制度整備必要
インドネシア人の看護師・介護福祉士候補者を受け入れる施設・病院は100。日本側のあっせん機関である国際厚生事業団は各病院・施設に実務経験 を積んだ研修責任者を置くことを求めている。また、候補者の来日直後にインドネシア人の価値観などを知ってもらうため「人材マネジメント手引き」を配布。 就労後は週1回程度の電話相談を開設するほか年2回程度、施設や病院を訪問する予定だ。
しかし、安里氏は「施設任せにせず、事業団など公的機関が音頭をとり、候補者が働きやすいような制度整備やマネジメント体制の構築に力を注ぐべき だ」と話す。特に最初の1年は候補者のストレスも大きいためカウンセラーや通訳の派遣などサポート体制を充実させるべきだと指摘する。ある受け入れ施設で は「介護の勉強のための翻訳本が必要」と話す。
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