2008-11-10

韓国の司法改革に学べ(08/11/10)

:::引用:::
ウォン安が止まるところを知らないとして韓国経済危機が声高に叫ばれている。この2、3年、閑古鳥が鳴いていた赤坂の韓国クラブ街が今年の春頃から 息を吹き返した。円安の日本を去ってウォン高の韓国に戻っていた韓国人ホステスやホストが、ウォン安の韓国から日本に戻って来たためだという。彼らは商品 のグローバルな移動ばかりか、一人一人の国民が海外で働くことが有利だと見れば、国外への出稼ぎに何のためらいも見せない。私の世界120ヵ国に及ぶ旅行 体験からしても、インドやベトナム、中近東では、そこここで働く多くの韓国人を見かけるのに、こうした国々で働く日本人には滅多に会わない。世界との距離 感が全く異なっているのである。日本人はグローバルという視点を韓国から学ぶべきである。

不安症候群に染まる日本

  日本中にストレスや貧困からうつ状態に追い込まれたり、食品をはじめとして安全・安心の崩壊に直面して不安症候群となった人々が急増している。株価の下落 を目の前にしても、1500兆円と言われる自国民の資金は一向に動く気配がない。日本人が日本株を買わないで、外国人買いに期待するだけでは株価が上昇す るはずもない。

 リスクを計算して取れるリスクは取り、取れないリスクはヘッジするか回避するのがまともな大人の生き方であろう。「前に出る」姿勢のない国は縮む一方である。

 こうした日本人の不安症候群により、司法制度改革の目玉とされたロースクール志望者は激減し、裁判員制度も頓挫しそうな気配が見える。

韓国における果敢な挑戦

(1)国民参与裁判制度

  韓国では市民が初めて裁判に参加する「国民参与裁判制度」が今年から施行され、初めての裁判が2月12日に韓国南東部の大邱地裁で開かれた。来年5月に予 定される日本の裁判員制度の施行より1年以上早い。この制度は市民が評議して有罪・無罪を決める「米国型の陪審制」と、裁判官と市民が協働する「大陸型の 参審制」を組み合わせたもので、2年間試行した後、再検討した上で最終的な形を決める。

 国民参与裁判は「裁判の民主化」を唱えた盧武鉉 (ノ・ムヒョン)政権の意向で、昨年4月末の立法からわずか1年足らずで実施に至った。殺人や強盗などの重大犯罪を巡る刑事裁判の一審が対象となり、裁判 に参加する人が国民から無作為で選ばれるのは日本の裁判員制度と似ている。一方、評議は参与員だけで全員一致により無罪か有罪かを決めるが、裁判官はその 評決と違う判決を言い渡すことができる。全員一致にならなかったら裁判官が加わって評決する。さらに被告人が、国民参与裁判か、裁判官だけによる裁判かを 選択できるのも日本の裁判員制度とは異なっている。

 韓国最高裁によると、対象になる裁判件数は年間4000~5000件に上るという。既に、参与員の判断が最高裁で認められたケースも出始めている。

 韓国民には国民参加型の裁判を行った経験が全くない。それでも韓国は国際水準とされ、先進諸国で一般化している国民の司法参加に踏み切ったし、いったん決定したら全力で試行を開始している。

  先月ソウル地方弁護士会との交流のためソウルを訪れた第二東京弁護士会の理事者によれば、この制度の導入により参与員のために法廷で双方が書面に頼らず口 頭で弁論をし、証拠も提出するという直接主義が中心となったため、民事裁判においても書面のやりとりよりも、口頭で主張を展開することが重視され始めたと のことである。また、裁判所は国民に親しまれることを意識して、事件の当事者を「お客様」と表現するようになり、裁判のあり方が大きく変化するきっかけと なっているともいう。

 もともと、わが国では、普通選挙の導入と平仄(ひょうそく)を合わせて、司法への民意の導入として、昭和3年から戦 時に至る17年まで15年間、陪審制が実施された実績がある。その上さらに5年もの準備期間を置いたのにまだ、実施延期や手直し要求に混迷している。これ では国民主権の裁判制度も韓国に置いて行かれてしまう。

(2)ロースクール

 韓国では2006年末で法曹1人当たりの人口 5758人(日本は現在約5000人)を、2020年ごろまでに経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均である1482人に引き下げることを目標にして いる。日本の目標2500人よりもさらにハードルは高い。達成されれば、弁護士数は3万人を超え、日本に置き換えると8万人の弁護士となる。

  この目標達成のために、韓国でもいよいよ法科大学院制度が来年3月からスタートする。総定員2000名は人口比で言えば日本では5000人に相当する定員 である。日本の司法研修所に相当する研修院は廃止されるので、その収容定員はボトルネックとはならず、純粋の資格試験となる。韓国では3年制のみで日本の 既修者短縮型は認められない。全国97の法学部を持つ大学のうち40校が開設を希望していたものの、認可は地域圏ごとに割り当てて合計でも25校に抑えら れた。また、「法学士課程」の廃止が当該ロースクール設置認可の要件とされた。韓国は日本の法科大学院制度の欠点を見抜き、司法研修院は廃止し、既修者課 程の存在や法学部の併置などは認めなかった。世界最強の司法国家を支える米国型のロースクールへ一足飛びに近づこうと三段跳びをする覚悟なのである。

  ソウル圏は15校で、その他の地域圏で10校。定員はソウル大学が150人と最大だがそれでも日本の東大や中大など巨大校の半数に抑えている。(中央日報 2008.1.30)既に ロースクール入学に向けた法学適性試験(LEET)は今年8月下旬に行なわれた。合否は学部・LEETの成績と論述・口述・面接を総合的に評価し、選抜す る。最終合格者の発表は今年12月5日に行われる。(中央日報  2008.04.08 ) 翻ってわが国では、ロースクール制度の不具合が既に判明しているのに、修正しようとしていない。東アジアの行政官僚国家であっても、法曹人口増のため にはロースクール導入が必要であることを示した日本が、今度は韓国の教えを受けて、修正する番である。

司法改革はわが国が生き残るための競争

  司法改革とは日本の司法を日本人の便宜のために変えるだけではない。世界のグローバルかつボーダーレスな経済競争の中で、日本が生き残るためである。日本 人の思考方法をより自立的で自己主張する性格へ変化させ、知的財産権保護や契約実務の上で日本企業の法的競争力を増強させなければ中国・インドにのみ込ま れる。司法改革は東アジアの改革競争なのである。

 韓国はアジア通貨危機以来国際通貨基金(IMF)の指導により、徹底してグローバル化を 目指し、サムスンやヒュンダイの再生に成功した。この韓国産業界の選択は、世界的商品である携帯電話で国内市場のみを標的とした内向きのガラパゴス化を進 めた日本より健全である。世界を指向する韓国流は司法改革においてもぶれていない。わが国の司法改革は今、韓国の改革スピードと世界を視野に入れた外向き の姿勢を学ぶべきである。

(日比谷パーク法律事務所代表弁護士・大宮法科大学院大学教授 久保利英明 氏寄稿)


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