慶応大学の指定校推薦入試に中国の高校が加わった。数学94点、英語94点、物理92点、化学91点、日本語95点。昨春、慶大理工学部(横浜市)に入学した肖琳琳さん(19)が通っていた高校の3年後期の成績だ。
同学部は昨年度入試から、中国東北部・瀋陽の東北育才外国語学校を指定校に組み入れた。大学が高校に推薦枠を与え、高校は成績などから書類選考した生徒を推薦する制度だ。定員は1人。海外の高校を指定したのは初めてだった。
そして、「高校生の時、『文明論之概略』を読んで以来、福沢諭吉を尊敬している」という肖さんが選ばれた。生命科学を学び、将来は大学院へ進んで研究職 に就きたいと考えている。大学では、授業の後も、自習室や図書館に残って深夜まで勉強する日々。「遺伝病の治療法につながる研究をしたい」と滑らかな日本 語で話す。
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指定校推薦では、ほとんどの生徒がそのまま合格する。同学部は全国に先駆けて前身の工学部だった1966年からこの方式を取り入れており、昨春は 全体の約2割にあたる195人が入学した。指定校決定で重視するのは、一般入試などでこれまでに入学した学生の学力や実績。その点では日中の高校で区別は ない。
東北育才外国語学校からは、留学生特別選抜や一般入試で毎年数人が同学部に入学し、成績優秀な学生が多かった。同学部入試事務局長の飯田訓正(のりまさ)教授は「この学校に匹敵する他国の高校はない」と言い切る。
開校は1998年。1学年二百数十人のうち約6割が、併設された中学の3年から第2外国語として日本語を週8コマ学ぶ。
昨春、同校を訪ねた飯田教授に、生徒は「自動車のエンジニアになるにはどうすればいいか」「情報化社会でハードウエア、ソフトウエアのどちらを作 る技術を身につけるべきか」といった質問をぶつけてきた。日本語教育の徹底ぶりに驚くとともに、「日本の高校生と違い、現実的に将来を考えていると感じま した」。
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ネックは学費の高さ。東北育才外国語学校の教員や保護者からは「国立大なら入学させられるが……」という声も強い。日本への留学を希望した肖さんの同級生の9割は国立大を選んだ。
肖さんは慶大の奨学制度で授業料の半分を賄えるが、ほかにも日本の財団から留学生対象の奨学金を受ける。さらに、週1回は中国語の家庭教師、週末の2日はファストフード店でアルバイトをしている。
指定校推薦では、高校の調査書の評定と実際の学力に差が出て、期待通りの学生を獲得できていない私立大もある。それだけに「さらに在学生の実力を 見極め、高校側とも連携を密にする必要がある」と飯田教授。国外の高校にまで目を向けるのは、優秀な人材を集めるための十分なリサーチの結果と言えそう だ。(大垣裕、写真も)
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