2008-01-15

若い技術者の顔が見えない

:::引用:::
最近,悩みがあります。組み込みソフトウエア関連の若い技術者と知り合う機会がないことです。

 もちろん,最大の原因は私の取材不足です。積極的に企業に取材に行けば,いくらでも若くて優秀な技術者に出会えるでしょう。ただ,「組み込み業界の若い技術者はあまり社外に出てこないな」という印象を持っています。この点はIT業界とは対照的です。

 私は半年前までプログラミングを扱う雑誌にいました。なので,今でも当時の興味からソフトウエア開発やプログラミングに関する勉強会にちょくちょく参加 しています。驚くのはその数の多さです。10人以下の小規模な読書会もあれば,100人以上が参加するイベントもありますが,東京では土日にはたいてい何 らかの勉強会が開かれています。新しい勉強会も次々に増えています。参加したい勉強会の日程が重なってしまい,一方をあきらめざるを得ないことも珍しくあ りません。平日の夜に開かれている勉強会も多く,中には出社前の早朝に毎週行われているものすらあります。首都圏と同様に関西でも勉強会は盛んです。最近 はそれ以外の地域で開催されるケースも増えてきました。

 これらはすべて有志が自発的に開催しているものです。会社に言われてイヤイヤやっているのではありません。お金儲けでもありません。ほとんどの勉強会は無料です。

 人気のあるイベントだと,告知から半日もしないうちに100人以上の定員が埋まってしまうこともあります。こうした勉強会を企画/開催したり参加 したりしているのは,多くが20歳代から30歳代前半の若いIT系技術者です。そうした若い技術者の象徴ともいえるのが,サイボウズ・ラボの天野仁史氏で す。彼は,2006年夏に書いた「勉強が出来ない奴はプログラマになれ!」 というブログのエントリで一躍有名になりました。若い技術者,中でも20歳代前半の若者に絶大な人気があるように見えます。その天野氏が最近立ち上げたの が「1000人スピーカプロジェクト」。話したいことがある技術者に発表の場を用意し,そうしたカンファレンスを繰り返すことで,1000人の発表者(ス ピーカー)を作ろう,という計画です(参考リンク1参考リンク2)。「1000人のスピーカーがいれば日本のIT業界は変わると思う」と彼は言います。突っ走りすぎのような気はしますが,私もおっちょこちょいなので,こういう熱さは大好きです。

 翻って組み込みソフトウエア開発では,こうした勉強会は少ないように感じます。組み込みに詳しい記者に聞いても,出てくる名前は「ETロボコン」と「組 込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)」くらい。しかも,こうした場所で元気なのはたいていおじさんで,若い人はあまりいません。 昨年末,IT系のあるイベントに参加した際に,有名な組み込み系開発者の方と懇親会で話す機会があったのですが,やはり若い人はあまり外に出たがらないよ うです。IT系はオープン・システムが主流であり,他社との間でも共有できるノウハウが多いのに対し,組み込み系は開発に関する機密事項が多く他社に提供 できる情報が少ない,という事情は考えられます。しかし,それですべてが説明できるとも思えません。

 もちろんIT業界にも,元気のない若者は大勢います。意欲のある若い技術者は,開発者全体からすればほんの一握りでしょう。にしても,無視できる 人数ではありません。何より熱気がすごい。こうしたマグマのような熱気はどこから生まれてくるのだろう,と考えたときに思い当たったのは,現在のIT業界 の現状です。今や「IT業界は『キツい』『帰れない』『給料が安い』の3K」というのは常識になりつつあります。国際競争力のないシステム・インテグレー ター,4次・5次におよぶ多重下請け構造,常態化するデスマーチ。こうしたひどい状況だからこそ,優秀な若い技術者が「このままではダメだ」と危機感を 持って外に飛び出してくるのではないか。これが私の今の仮説です。

 そうした意味では,組み込み業界のコミュニティーに若い人がいないのは,社内で十分に活躍できている証拠であり,憂うべきことではないのかもしれません。私に若者の顔が見えてきたとしたら,実は日本の製造業が危ないときなのかもしれませんね。


●●コメント●●

0 件のコメント: