2008-11-17

アメリカは日本よりも金融危機に楽観的だ

:::引用:::
何という立場の逆転であろうか。1997年に日本が金融危機に陥ったとき、ハーバード大学法科大学院の専門家グループが日米の金融政策の担当者をマサ チューセッツ州の避暑地ケープコッドに集め、秘密の会合を開いた。それから11年後、10月24~26日に箱根で開催された第11回日米金融シンポジウム の討論は、米国の金融危機に集中した。

 多くの出席者は、米政府が“失われた10年”のときの日本政府よりも迅速に対応したことを歓迎していた。日本の有力な銀行幹部は、不良融資問題を解決するために日本政府がとった10の対策を列挙し、米政府はすでにそのうちの8・5の対策を講じていると数え上げた。

  それにもかかわらず、米政府が最も緊急な問題を解決する対策をとったと信じている人はいなかった。ある著名なウォール街の金融家は、住宅抵当証券に投資を していない健全なGEキャピタルですら、従来どおりの期間と金利でCP(商業手形)を発行できなくなっていると語っていた。ある日本の証券会社の幹部は、 本国の投資家の資金引き揚げに対応する現金を調達するために米国の投資ファンドが日本株を売っており、そのために日本株が下落していると苦言を呈してい た。

 参加者の多くは、パニックを早急に解決しないと深刻なリセッションに陥るとして意見が一致していた。しかし、50名の日本側出席者 のうち誰一人として、今までの対策がパニックを阻止するのに十分であると考えている者はいなかった。米政府が今後1カ月のうちに十分な追加措置を講ずると 思っている者もいなかった。米国側出席者は、もう少し楽観的であった。出席者の4分の1が今までの対策は十分であったと考え、3分の2が米政府は1カ月以 内にさらに対策を講じると予想していた。

 さらに危機の原因と将来、同様の危機が再発しないために何が必要かをめぐって議論が行われた。そして11月15日にワシントンで開かれる金融危機サミットの前に参加国政府に提出する対策の提言が作成された。

企業倫理の対応めぐり価値観の違いが如実に

  議論は極めてテクニカルなものだった。たとえば、多くの人は、リーマン・ブラザーズの破綻やAIGの経営危機に関連するCDS(クレジット・デフォルト・ スワップ)などのデリバティブ商品は、株式と同じように証券取引所で取引されるのであれば、それほどリスキーなものでないと考えていた。公開市場で取引さ れていれば、投資家は取引相手と相対(あいたい)取引をし、その取引相手が破綻したら巨額の損失を被るというリスクにさらされることはなかったかもしれな い。こうした“取引相手の倒産リスク”に対するおそれが、リーマン・ブラザーズとAIG問題の後に金融パニックを引き起こした要因の一つであった。現在の銀行の国際的な資本ルールは危機に際してあまりにも厳格すぎるという点で、参加者の意見は一致していた。資産はリスクで評価されているため危機が発 生すると自動的にリスクが高まることになり、銀行は業務を縮小せざるをえなくなる。それが金融逼迫をさらに悪化させ、悪循環を招くことになる。資本と資産 に関するルールは、バブルと同時にバブル破裂にも対処できるように設定すべきである。

 参加者の多くは、中央銀行が事前にバブルを阻止す るためにできることは極めて限られているというグリーンスパン前FRB議長の意見に同意しなかった。ある参加者は、過剰な金融緩和がなければバブルは発生 しなかっただろうと主張していた。他の参加者は規制政策に焦点を当て、米政府は新しい“ノンバンク”に対し、銀行と同じルールを適用して住宅ローンの頭金 と返済能力の証明書を求めるべきであると主張していた。そうしていれば、住宅バブルはもっと小規模なものにとどまっただろう。

 問題含み の住宅ローンを貸した住宅金融企業や、怪しげな抵当証券を発行した投資銀行が果たした役割も議論された。それぞれの文化の違いを反映して、両国のアプロー チの仕方に基本的な違いが見られた。日本側の出席者は、企業や金融機関の倫理や誠実さを高める必要性があると主張した。これに対して米国側の出席者は、倫 理は法制化できないとし、企業経営者が正しいことをすれば利益を上げることができるというインセンティブを与える必要があると主張する傾向が見られた。

  日本側の出席者の多くは「私が言ったとおりではないか」という態度をとるのを避けていた。しかし、米国の経済システムの威信が低下したことは明らかであ る。改革派で知られるある日本人は、コーポレートガバナンスから金融テクニックに至る多くの問題に関して米国流の対処法を批判する演説を行った。米政府の 担当者は、米国が希望するようなさまざまな金融改革を他の国を説得して実行させるのは難しくなるだろうと内輪の会話の中で言っていた。

 しかし、米国の政策が効果を発揮し、景気後退が懸念されたほど深刻でないことが明らかになれば、人々は再び米国経済の復元力について語り始めるだろう。来年の会議では議論するテーマがたくさんある。

リチャード・カッツ
The  Oriental Economist Report 編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリス ト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで。

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