民政に復帰してまだ半年余り、タイの政治が再び混迷している。
サマック首相の退陣を求める反政府勢力「市民民主化同盟(PAD)」がバンコクの首相府を不法占拠して10日が過ぎた。
サマック首相は非常事態宣言を発令し、収拾へ乗り出した。しかし、秩序回復を託された軍は静観の構えを崩さず、占拠が収束に向かう兆しは見えない。
タイの政治的安定に、大きな疑問符が付いたばかりではない。その民主主義がまだまだ
2006年に結成されたPADは、タクシン首相(当時)の不正疑惑追及の活動を展開した。その後一度解散したが、タクシン派のサマック現内閣の打倒を掲げ、今年5月から、公道の占拠など活動を再開した。
2月に政権を発足させたサマック首相は、政治の表舞台から追放されたタクシン氏らの復帰を狙う憲法改正をもくろんでいた。
そのタクシン氏は、在任中の不正疑惑に対する司法当局の追及にたまらず、英国に事実上、亡命した。サマック首相への風当たりはさらに強まった。
首相の失策のひとつは、PAD側との対話を最初から拒んだことだろう。政治解決を求め、話し合いの姿勢を見せてもよかった。
だが、PADの行動は、そうした点を考慮しても、民主主義の観点からは明らかなルール違反だ。首相府を占拠しているだけではない。省庁や空港まで占拠した。
目的が正しければ、手段は正当化されるとでも言わんばかりである。タイでは、政治が混迷するたびに軍がクーデターなどで政治に介入し、民主主義が後退してきた経緯がある。
それとは異なるが、選挙で選ばれた政権を力で倒すやり方は、タイの民主主義を大いに損なう。
PAD指導部は、そのことによってタイに及ぼす損失の大きさを考えるべきだろう。
サマック内閣は、国民投票の実施を決めた。質問事項は明らかではないが、政権の正当性を問う形で国民の支持を勝ち得ようとの構えである。
今回の政情不安を受け、日本からの観光客の半分がキャンセルをしたという。
基幹産業の一つである観光業へのダメージばかりではあるまい。06年の軍事クーデター以降、外国からの新規投資は伸び悩んだ。政権、PAD双方とも対話の道を探る時である。
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