日本企業がグローバル競争を勝ち抜くには、ITを使いこなす必要がある。そのためには、日本のIT業界がもっと強くならなければならない。今のままでは、企業の要請に応えることはできないだろう。
というのも、昨今のIT業界のトレンドを示す、気になるデータがあるからだ。各種調査で、「2000年のITバブルをピークに主要IT企業の就職人気ラ ンキングが低下している」「学生の理工系離れを背景にIT業界を支える理系人間が減少している」「IT業界の将来性に対するイメージがダウンしている」と いうような結果が公表されている。
理系離れは日本だけでなく、IT先進国である米国でも深刻化している。STEM(科学・技術・エンジニアリング・数学)の人材が不足し、米国の学 生の数学レベルのランキングは世界24位(日本は6位)というデータもある。そこで、米国政府ではSTEMを2012年までに40万人に倍増する計画を立 て、国家予算の7%を基礎科学や物理の教育に割り当てる方針を打ち出している。
キャリアパスを明確にし「ITの見える化」を促進
IT関連の仕事に対する日本の学生のイメージを調査した興味深いデータがある。情報処理推進機構(IPA)の調査結果によれば、文系・理系・情報 系の全学生(1000人)のうち、ITに関する仕事に興味があるが49.7%、興味がないが50.3%となっている。興味がない理由として、一般的に言わ れる「仕事内容への理解の低さ」に加え、調査結果では「労働時間が長そう」「ストレスが多そう」「一生続けられる仕事と思わない」が上位を占める。
つまり、労働の過酷さやキャリアパスの見えづらさが、IT関連の仕事への興味の低さにつながっているのではないか。こうしたIT業界のイメージを変え、魅力ある業界にするために何をすべきか、真剣に考える必要がある。
そこで、企業のIT部門を含め、IT関連企業に提案したいのが「ITの見える化」だ。具体的には、「キャリアパスの見える化」「意思決定の見える化」「成果の見える化」である。
企業のIT部門を例にキャリアパスを考えてみよう。IT部門は、システム構築や運用・保守のスキルを強化し、システム構築・管理の中心的な役割を 担い、各部門をリードして業務改革を支援する、システム構築技術を生かした外販事業など新規事業を立ち上げる、ITの知見から経営者へ経営戦略を提言する など、意思決定に重要な役割を果たす。こうしたキャリアパスを、IT業界を志す人材に提示する必要があるのではないか。
一方、ITサービス側のキャリアパス検討時のポイントとしては、ITの技術革新にキャッチアップできるよう、早い段階から専門性に特化することが大事だ。また、キャリアパスを尊重した異動・昇進を行い、社員の納得感、仕事へのコミットメントを高める必要もある。
これらに加え、社会におけるキャリアパスの仕組みが重要になる。専門性を生かして一般企業や大学・研究機関に移った場合、再びIT業界に戻ったと きに企業や大学で培ったノウハウ・経験を生かせるに違いない。こうした人材の流動化により、IT業界のイメージは変わるだろう。
IT業界の活性化に向けて業界全体の取り組みが必要
「成果の見える化」では、まず、本人が成果を実感できる小規模開発の機会を創出する。ITが業務改革に役立ったなど、IT活用の成果へのコミットを増やすこともポイントとなる。
成果のみならず、「成功報酬の見える化」も必要だ。例えば、若手に対しては、IT部門の人材として必要な知識があるかだけでなく、成果と関連した 行動をとっているかを評価し、能力を重視する。また、ベテランに対しては、会社の戦略達成のために成果を出しているかを評価するなど、業績重視の報酬の仕 組みが考えられるだろう。
「意思決定の見える化」では、取り組む案件の「決定プロセスの見える化」と個人の要望を聞き入れることが重要になる。当社の場合、プロジェクト終了後、各人にこれからどんな仕事を手がけたいか要望を聞き、社員の満足度を定期的にチェックしている。
IT業界の活性化に向け、業界全体で取り組むべき課題は様々ある。ICTを活用した在宅勤務や女性の登用、ワークライフバランスへの絶え間ない対 応をはじめ、ピラミッド型の業界構造の改革、人材流動化の歓迎、顧客とのパートナーシップの再定義などはその一例だ。さらに、グローバル展開とシステムは 不可分であることを企業経営者に啓蒙したりする。企業で働くエンジニアの国籍が多様化する今日、内なるグローバル化も重要になる。
そして、最大のポイントは、IT業界の一人ひとりが輝いていることだ。自分のキャリアが誇れ、スキルアップを実感できる。また、システムで環境問 題など社会に貢献できる技術を開発する。こうした視点で業界全体が取り組み、魅力あるIT業界へと再び「日が昇る」ことを期待している。
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