2008-09-30

「話上手」なだけでは、面接には受からない

:::引用:::

「話すのは得意」の落とし穴

 「自分は話すのが得意なので、面接には自信があります」という人がいます。この人は、本当に面接に強い(合格しやすい)のでしょうか?

 人は2歳くらいになると言葉を話し始め、それ以来、何十年にわたって周りの人とのコミュニケーションを続けます。その結果として、コミュニケーションの方法には個人個人の特色が表れます。

 表情豊かに楽しそうに話す人、表情を変えずに淡々と話す人、圧倒されるくらいのマシンガントークの人、伏し目がちにボソボソと話す人、必要以上に虚勢を張って話す人、さまざまな話し方の人とお会いします。

 自然に引きこまれるような話であったり、言葉は少ないが簡潔で分かりやすい話であったり、ダラダラと長いだけでまとまりのない話であったり、話の組み立て方も人それぞれです。

 こういった「話し方」や「話の組み立て」はコミュニケーションを取るうえで重要な要素です。しかし、いくら話し方や話の組み立てがうまくても、それだけでは単なる「話上手」にすぎません。

面接という場で求められるもの

 面接で求められるのは、話の上手さではなく、コミュニケーション能力です。

  面接担当者は「いったい、この応募者はどういう人なのか?」「うちで採用するに値する人物なのか?」「技術スキル、コミュニケーションスキルは十分か?」 を探るため、さまざまな切り口で巧みに質問してきます。それに対していかにうまく答えていくかが、面接の合否を大きく左右します。

 ここでいう「うまく」答える能力が、コミュニケーション能力ということになります。

 スラスラと立て板に水のように話すことが、うまく答えるということなのでしょうか? 違います。面接で求められるコミュニケーション能力とは、相手のいわんとすることを理解して、それに対して自らの意見をしっかりと伝えることのできる意思疎通能力です。

 日常会話でも面接でも、求められるコミュニケーション能力は基本的には同じです。しかしよりシビアに決定が下される面接という場だからこそ、ちょっとしたことが合否を左右してしまいます。

 「自分は話すのが得意だ」と思っている人の多くは、「自分にはしっかりとしたコミュニケーション能力がある」と思っています。が、実際はそうではないことも結構多いのです。

 今回は、話すのが得意だからこそ陥る、面接の失敗事例について書きたいと思います。

自信に満ちあふれ、冗舌な田中さん

  田中さん(仮名)は34歳、大手システムインテグレータで中堅企業向けのERP導入コンサルタントとして活躍していました。バイタリティにあふれる、技術 的にも優れたコンサルタントです。今後はコンサルティングファームで業務コンサルタントになることを希望し、転職活動をしていました。

 顧客への提案活動でプレゼンテーションする機会も多く、人前で話すことには慣れているため、緊張することはなく冗舌に話す人です。ご自身でもコミュニケーション能力に自信を持っていました。

  初めて私が会ったときも、田中さんは自信に満ちあふれた表情で話し、内容にもその雰囲気が表れていました。しかし、冗舌であるが故に多くを語りすぎる傾向 がありました。そのため、こちらの質問に対する回答の論点がずれていることや、話が脱線することが多かったのでした。そこで私は「面談時にこの点だけは注 意が必要ですよ」と助言したのでした。

 田中さんはある企業に応募し、面接に進みましたが、採用は見送りという結果に なってしまいました。理由を企業に確認したところ、「コミュニケーション能力に難あり。よく話をされる方ですが、コミュニケーション能力という点において 疑問を持ちました」ということでした。人事担当者によくよく聞いてみると、田中さんは面接官の質問に対して、的確な回答を簡潔に話すことができなかったと のことでした。

 しかし、面接直後に田中さんに聞いた感想は、「うまくいきました。いいたいことはすべて伝えることができました。会話も弾みまして、面接時間も1時間半はあったので感触は良かったです」ということでした。

 企業と田中さんでは、感じ方がまったく違うな……ということで、私は再度田中さんと会い、今後の軌道修正について話し合いをすることとなりました。

「うまく話せたのに、どうしてですか?」

 あらためて田中さんに見送り理由をお伝えしたところ、「うまく話せたのに、どうしてでしょうかね」と納得できない様子でした。こういうことはよくあります。面接における、双方のすれ違いといいますか……。

辻(筆者) 面接がうまくいかなかった原因は、どこにあったと思いますか?

田中 コミュニケーション力不足という理由は納得いかないですね。面接のときは話が盛り上がりましたし、面接官もしっかりと聞いてくれたのです。それがどうして見送りになるのでしょうか? 確かに、私が少し一方的に話しすぎたところはありましたが……(うんぬん)。

 面接で、質問の意図を理解して回答しましたか?

田中  いろいろと話すことで、自分をアピールしようとしました。その結果、多少脱線することもあったと思いますが、そこが駄目だったのかもしれません。私は自分 のことをよく知ってもらいたかったので、できる限りのことを伝えたいと思って一生懸命に話をしたのですが、それが伝わらなかったのですね。

 質問に対して簡潔に回答ができたと思いますか?

田中 自分を理解してもらおうと考えると、頭の中にあれもこれもと伝えたいことがいろいろ思い浮かびまして、すべてを話しているうちに、私が長々と1人で話すことになっていました。残念です。アピールの仕方が悪かったのかもしれません。

 この会話からして、うまく話がかみ合っていなかったのでした。私の質問に対して的確で簡潔な回答ができないようでは、実際の面接でうまくいくはずもありません。

 田中さんは、私が聞きたいことではなく、自分が伝えたいことを長々と話していました。もちろん、本人にはそんな自覚はありません。「自分がどう考えたか、感じたかを熱心に伝えることで、相手は理解してくれる」と考えていたのです。

 そこで私は、田中さんに以下の3点をアドバイスしました。

  • 「自分の話したいこと」を話すのではなく、「相手の聞きたいこと」を話す


  • 回答する前にひと呼吸置き、頭の中で整理してから話す


  • まずは簡潔に回答して、理由などは後から付け加える

 この3点に納得した田中さんは、次の企業での面接ではうまく受け答えができ、内定を勝ち取ることができました。田中さんにとっては、自分の話した内容がかなり物足りないものに感じられたようですが、企業にとってはそれで十分だったようです。

コミュニケーションは、相手の意図を理解することから

 面接での受け答えにおいて一番重要なことは、「面接官がどういうことを意図した質問なのか」を理解することです。理解して初めて、質問に対する適切な回答をすることができるのです。

 せっかく意図を理解しても、焦ってまとまりのない回答になることがあります。ひと呼吸置いて気持ちを落ち着け、頭の中で整理することで、簡潔な分かりやすい回答になります。

 回答の前置きがダラダラと長くなると、結局何がいいたいのかが分からなくなります。まずは結論をはっきりと述べてから、その結論にいたる理由や考え方を述べるようにしなければなりません。

  今回の田中さんの例は、話すのが得意だと思っている人が陥りやすい、典型的な失敗パターンです。「自分は話すのが得意だ。緊張もしない。立て板に水のよう に話せる。だから面接は大丈夫!」と過信していると、面接官の期待と異なる内容を延々と話し、コミュニケーション能力の低い人物と思われてしまう結果にも なりかねません。

 繰り返しになりますが、コミュニケーション能力とは「相手の考えや気持ちを理解し、それに対して自らの意見を適切に伝えることのできる意思疎通能力」です。

 面接の前に、ご自身のコミュニケーション能力について思い返してみてください。相手の考えを理解しているか? 適切に自分の意見を伝えられるか? 常にこの気持ちを持って、面接に臨むことが大切です。

 自分がしっかりとコミュニケーションを取れているかはなかなか気付かないので、面接前に第三者にチェックしてもらうのもよいと思います。

 コミュニケーションは相手があってこそ成立するものです。独り善がりの話し過ぎには、くれぐれも注意しましょう。


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