「日本の企業はちっとも投資してくれない」――。
5月末に横浜で開催された第4回アフリカ開発会議「TICAD4」で来日した、アフリカ各国の関係者から事あるごとに繰り返された言葉だ。だが、先進国のなかで距離的にいちばん遠い地理上の要因に加え、旧宗主国の欧州勢のようなきめ細やかな情報網もない日本勢。出遅れは無理からぬところもある。
加えて、アフリカならではの問題も少なくない。まずは基礎学力の不足。アフリカの中年以上の年代には、きちんとした教育を受けていない人も多い。そのため「生産性を上げるのには時間がかかる」(米倉弘昌・住友化学社長)ことを前提にしなければならない。
宇田川僚一・生活の木常務もそこで苦労した一人である。日本貿易振興機構(ジェトロ)の開発途上国育成プログラムに参加した宇田川常務は、現地で食用油として売られていた植物脂シアバターが、保湿成分抜群で万能薬としても利用されていることに着目。天然素材由来の石鹸として商品化に成功した。だが、そこに至るまでは、ハプニングの連続だった。
定規の使い方がわからない。ハサミも使えない。完成した石鹸も数えられない。そのため指導は手取り足取り。まさに山本五十六元帥の「やってみせ 言って聞かせて させて見せ ほめてやらねば人は動かじ、を体験することになった」(宇田川常務)という。
新興国が持つ一般的なイメージに反して、アフリカの人件費は決して安くはない。「スキルを持っている人が少ないため、人材は引っ張りだこ。採用しても賃金の高いところにすぐ動く」(酒井敬士・トヨタ自動車アフリカ部長)からだ。中間管理職を任せられる人材は、さらに少ない。下表のとおり、ヨハネスブルク(南アフリカ共和国)の月2442ドルを筆頭に、アフリカの賃金は軒並み、自動車産業が発達したバンコク(タイ)を上回っている。
カネはあれども進まぬ
感染症対策
貴重な人材を襲う、マラリアやエイズ/HIVなど感染症の影響も深刻だ。「公的援助に加え、私的援助機関からもふんだんに資金が投入されるようになったが、クスリを保管する冷蔵庫などの設備や、医療を提供する医師・薬剤師などのシステムができていない」(援助機関関係者)。クスリを与えても、ちょっと症状が改善すると転売して悪化する、という問題も頻発している。
疾患についての教育をしている国も少ないため、「企業は病気の教育から始めなければならず、それもコストになる」(永松康宏・ジェトロ海外調査部中東アフリカ課課長)のである。経済が立ち上がるにつれ、インフラ不足も目立ち始めた。欧州の植民地時代が終わって以降、支援は食料や医療などのいわゆる“人道援助”が優先されてきた。そのため、経済発展を支えるインフラが、ほとんど整備されてこなかった。インフラ不足は深刻さの度合いを年々増しており、「自動車産業が発達している南アフリカでは、物流網や港湾のキャパシティが限界に達している。電力も逼迫気味で、しばしば1時間程度の計画停電も行なわれている」(五辺和茂・国際協力銀行国際金融第二部第二班課長代理)ほどだという。
「アジアと違い、昔から支配という概念がなかった地域」(高橋基樹・神戸大学大学院国際協力研究科長)とあって、官僚機構や法制度も未整備だ。「駐在員を一人転勤させるにも、やたら時間がかかる」(南アフリカ進出企業)くらいは、かわいいもの。
法律があっても担当者によって運用が異なるから、トラブルが頻発する。ある日本企業のアフリカ担当者は、進出する際、政府高官から「英語で書類を提出すれば、10日で手続きする」と言われて書類を出した。ところが一転、窓口から「全部ポルトガル語にしろ」と言われたり、追加資料を求められたりと、とにかく時間がかかった。この手の話は、通関手続きなど、日常的な業務の現場でも頻繁に起こるという。
改善しない治安
組織犯罪も急増
紛争や政情問題もさることながら、治安もいっこうに改善する気配がない。しかも、組織犯罪も増えている。ある商社のアフリカの元駐在員は、外出中、使用人の一人が手引きした強盗団に自宅に押し入られた。幸い脱出に成功した別の使用人からの電話連絡を受け、強盗が待ち伏せする自宅にのこのこ帰ることは間一髪、避けられたという。
別の企業のアフリカ担当者は出張に際し、「入国カードに書く、泊まるホテル名は偽の名前を書け」と南アフリカの政府関係者に耳打ちされた。滞在先のホテルで強盗に待ち伏せされるのを防ぐためだが、この国では入国管理の役人まで犯罪に関与していることを意味している。ナイジェリアではプラント建設現場に向かうのに、装甲車に乗せられ、軍の護衛がついたケースもある。
資源以外は無い無い尽くしのアフリカ。日本企業の進出に際しては、インフラから従業員教育に至るまで、「全部やってくれ」が現地政府の本音だから「中小企業が進出するには非常に難しい地域」(平野克己・ジェトロアジア経済研究所地域研究センター長)といえるだろう。日本の大企業にとっても、一筋縄ではいかない地域だけに、「社会貢献とビジネスの中間を狙う」(黒川恒男・国際協力機構アフリカ部部長)余裕が必要かもしれない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 佐藤寛久)
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