近年、ASP・SaaSがかなり注目されて来ています。大手ソフトウェア・ベンダーもぞくぞくと参入を表明し、様々な新しいサービスが発表されています。それと同時期にオフショア開発という言葉も広く認識されるようになりました。従来のオフショア開発と言えば、インドと中国でしたが、インドの開発単価高騰や中国の一極集中リストを回避するオフショア開発国としてベトナムが台頭してきました。
本連載では、ASP・SaaS業界の特徴を元に、それらサービスの開発に対してのオフショア開発の有効性について、またベトナムオフショア開発の現場という側面から言及していきます。
連載の第1回目はASP・SaaS事業者における自社開発とオフショア開発の相違点について考えていきたいと思います。
(1)IT業界では低いオフショア開発比率のASP・SaaS
ASP・SaaS分野におけるオフショア開発比率がまだ低いことは、本サイトの読者でもあるASP・SaaS事業者の関係者なら感じていることでしょう。筆者がこれまでオフショア開発を行ってきた経験やお付き合いしている同業他社の話でもASP・SaaS分野の案件が非常に少なく、一割も満たないのが現状です。オフショア開発は主にパッケージソフト、業務アプリケーション、Webシステムなどが主流の案件内容となっています。
また、ASP・SaaS関係の案件でも、ASP・SaaSサービスを提供するまでの一連業務のわずかの一部分にすぎません。あるASP事業者が自社提供サービスのエンジンの一部をオフショア開発に出して、成功したもののそれ以上に発展しないという例があります。小規模の案件はリスクが少ないため出せたのに、もう少し規模が大きくなると、体制とノウハウがないため躊躇するケースが多いことが見受けられます。
(2)オフショア開発の導入を考える上でのASP・SaaSサービスの特徴を再理解する
なぜ、ASP・SaaSではオフショア開発の比率が低いのか?、それにはまずASP・SaaSサービスの特徴を捉える必要があります。そして、それぞれの特徴を再認識し、オフショア開発の優位性を理解していただければと思います。
■ コスト削減
ユーザにとっては、パッケージソフトと違ってライセンス料金や導入費用を削減できるほか、サーバーなどのハードウェアを購入する必要もなく、月額料金を支払うことでコスト面でのメリットは大きいという認識があります。従って、ASP・SaaS事業者にとっては、低価格を売りにして利用者を大量に獲得する必要性が出てきます。
コスト競争の優位性を保つためにオフショア開発を導入することを選択肢に入るのは自然の流れと言えるでしょう。日本人のエンジニアの単価の1/3というベトナムも最近オフショア開発の「アツい」国になっている要因のひとつです。ただ、単価という意味のコストだけでなく、品質も含めたコスト対パフォーマンスの優れたオフショア開発会社を選ぶことが成功へのカギだと思います。この辺の話は第2回以降で詳しくお伝えします。
■ 運用作業削減
サーバーの構築、運用やソフトウェアのバージョンアップ作業はASP・SaaS事業者が実施するため、ユーザは運用作業のために人員を確保する必要がなくなります。ユーザにとっては大きなメリットですが、ASP・SaaS事業者にとっては、堅牢性と高セキュリティが必須条件のデータセンターやアプリケーションソフトのバッチ当てなどのソフトウェアのメンテナンスを行う要因を確保しなければなりません。
従来のASPと違って、ひとつのシステム(サーバー)で複数のユーザが共有するシングルシステム・マルチテナント方式で、より低コストでサービスを提供できるASP・SaaS事業者ですが、顧客が要求する仕様に応じてカスタマイズしながら、システム全体のバージョンアップを行っていくにはそれなりの工数が必要です。ここでも実はオフショア開発が優位性を発揮する場面が登場します。ソフトウェア開発だけでなく、サーバ管理などの業務も委託できればもっとメリットがあるでしょう。
■ サービスの継続性、拡張性
「24時間365日サービスを提供します」というのが常識になったASP・SaaS業界でサービスの稼働率が重要なポイントになっています。障害対策を常に検討し、障害対応にスピードが求められるASP・SaaS事業者にとって、オフショア開発の導入を躊躇させる大きな要因になっています。ただし、一般的なオフショア開発における注意点に加えてASP・SaaS特徴を踏まえた工夫を施せば、十分に可能性があると筆者は考えます。
もうひとつの特徴として、ソフトウェアの問題対応、機能追加によるバージョンアップが頻発するため、継続的な改修作業を実施する必要があります。緊急性が要するもの、そうでないもの、様々な改修作業が予想されますが、ラボ契約でオフショアにも専属部隊を構築してしまえば、顧客の要求に対応できる作業フローを確保できるでしょう。
■ セキュリティ
エンドユーザにとってのメリットではありませんが、顧客のデータを預かるASP・SaaS事業者はユーザの信頼を得るためにデータセンターなどに高度なセキュリティシステムの導入が求められます。それゆえ、オフショア開発を導入する際にも十分にセキュリティの面で考慮する必要がある場合が出てきます。
極力顧客情報を渡さないことが一番ですが、必要な場合は業務守秘契約を締結の上、環境の面でセキュリティが確保できるか確認し、継続的にフォローしていくことが重要です。
(3)オフショア開発の導入形態
オフショア開発に取り組む日本企業は様々な形で導入していますが、大きく以下の3つのケースに分けられます。
- ・現地に法人を持つ場合
- 日本企業が現地で法人を作り、現地スタッフを採用して開発を行う場合です。一般にある程度投資が必要な上、現地調査、現地法人の運営ノウハウがないと失敗に終わるケースがあります。従って、大手企業でないと難しいとされます。
- ・現地企業に直接発注する場合
- 現地企業とは資本関係がありませんが、日本企業が直接発注する場合です。一番多いケースと思われますが、現地企業にも特定の分野に強いがある分野には弱いといった開発経験や品質を確保できる開発プロセスなどを考慮して現地企業を選ぶことが必要になります。
ここで、日本企業と現地企業との間に開発コーディネートを担うブリッジSEの役割が非常に重要になり、プロジェクトの成功のカギを握っていると言っても過言ではありません。 - ・日本国内パートナー経由で現地企業に発注する場合
- 国内パートナーを通して現地企業発注する場合です。国内パートナーとの資本関係有無で開発の進め方も変わってきます。上記の直接発注とほぼ同じ場合もありますが、直接現地の状況が見えないなど異なる場合もあります。
(4)自社開発の限界
日本のASP・SaaS事業者は、主力製品のソフトウェア開発に注力するためデータセンターはアウトソーシングするケースがほとんどですが、それでもソフトウェア開発の人材確保に加えて各種サーバーの管理者、システムの運用管理者の確保が必要です。大手ソフトウェア企業の参入もあって、今後ますます価格競争が激しくなると予想されます。
その状況の中で、全て自社開発でサービス展開するには相当なコスト削減の努力が必要です。それより豊富な人材と安い単価のオフショア開発できちんとASP・SaaSの特徴に合った品質を満たす開発フローを確保する方が自社開発の限界を回避する近道であるかもしれません。特にベトナムオフショア開発に関しては、開発分野によって差があって単純比較できませんが、日本の約半分のコストで同じ品質を確保できると言われています。比較的にサーバー監視など簡単な業務ならそれ以上のコストメリットが期待できそうです。
(5)ASP・SaaS企業はオフショア開発を導入すべきか
日本では、今後ますます労働力の不足が予想されます。IT分野でもエンジニア不足が叫ばれて久しい昨今です。多くの分野において、かつて製造業がたどったような、よりコストの安いアジア地域にその活路を見出さなければならない状況になっています。ASP・SaaS企業も例外ではありません。むしろ積極的にオフショア開発を導入して競争の優位性を確保した企業が、生き残りをかけた激しい競争を勝ち抜く結果になるかもしれません。
パートナー企業の選定、プロジェクトを進める上に必要な体制とノウハウの蓄積などの課題がありますが、筆者がよくお客様にアドバイスしていることがひとつあります。大手企業ではオフショア開発専任の部署が設置されているところもありますが、中小企業でもオフショア開発専任のエンジニアを設置するぐらいの意気込みで取り組むことが大切です。長いスパンで考えて確実にオフショア開発を進めることが今後の企業発展に功を奏でると、筆者は考えます。
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