2008-09-01

中国の大学生、就職意識は上昇志向から生活安定志向へ

:::引用:::

北京オリンピックが幕を閉じた。中国と米国との間では、メダル獲得数を紹介するランキングに対して微妙な戦いが展開された。中国はトップ成績を重視 し金メダル獲得数を誇っているのに対し、米国は優秀な選手の層の厚さを重視し金銀銅の全メダル獲得数を誇っていた。いずれの基準も世界一位だ。オリンピッ ク憲章では国別のメダル獲得数を順位付けすることに意味がないことを明記しているが、インターネットでは、このようなランキングを誇る風潮を嘲笑してい た。

メダル獲得ランキングをめぐる水面下での米中格闘が熾烈に繰り広げられていたころ、私は北京オリンピック開催中に明らかになったもう一つのランキン グに関心を奪われていた。フィナンシャル・タイムズの中国語版サイトなどが報じた、調査会社「優興咨詢」が発表したとされる2008年の中国大学生の人気 就職先ランキングだ。優興咨詢は、1988年創立のスウェーデン資本のコンサルティング会社「Universum(ユニバーサム)」の中国語表記。企業の 求人ブランドを高めるためのコンサルタントを主な業務をとしている。ユニバーサム社は2005年からアジアでの調査を開始した。アジア地区では香港、中国 大陸、オーストラリア、インドに拠点を設けており、日本の大学生の就職先ランキングも発表している。

ユニバーサムは、中国における就職先に関する調査においてはもっとも規模があり権威をもつ調査会社として知られ、最新の2008年版ランキングが明 らかになったのは今回が初めてになる。ランキングは中国語によるアンケート調査に基づくもので、中国の国家重点大学に指定されている211の大学をもと に、70の大学を調査対象に選んだ。回収されたアンケート用紙は5万人分以上だが、そのアンケート用紙をすべて厳格にチェックしたうえ、最終的に信頼でき ると判断された1万6815人のアンケート結果からランキングを作成した。発表したランキングは人気就職先総合順位100社と、文系学生のランキング上位 10位、理系学生のランキング上位10位、商科系学生のランキング上位10位の4種類のリスト。



総合順位で上位50社の中に中国企業が23社も占めた。中国企業は、外資系企業とほぼ渡り合えるほどの魅力をもつようになったと見ていいだろう。残 念ながら、そこに日系企業の名前は一社も見当たらない。上位100社に拡大してみると、中国企業もさらに12社増える。日系企業としてはソニーが56位 に、トヨタ自動車が63位にランキングされている。中国に進出した日系企業の規模を考えると、100位中2社ではちょっと寂しい思いがする。

一方、公表された文系、理系、商科系大学生の人気上位10社ランキングをみると、中国企業の比率は、それぞれ6割、5割、2割と差がつく。商科系の学生では外資系企業を選ぶ者が大半を占めているのが印象的だ。

ユニバーサム社の分析によると、就職先を選ぶときの判断基準として「仕事と生活のバランス」を第1位に考えていることがわかったという。ちなみに、 これまでの調査の中では昨年初めて「仕事と生活のバランス」が判断基準の第1位となり、今年も引き続き1位となったことで、「仕事と生活のバランス」は最 近の傾向として受け止めてもいいのではないかと思う。

ちなみに、2003年9月27日付朝日新聞に掲載した私のコラムの中で、当時の中国の大学生就職意識を紹介した。日本の文部科学省に当たる中国教育 部の95年と96年の調査では、大学生が就職先を選ぶ基準としては収入が1位だった。しかし、2001年末にはそれが(1)将来性、(2)自分の才能を生 かしてくれるかどうか、(3)収入――の順となった。そこに、就職に対する大学生の強い上昇志向をうかがうことができると思った。

しかし、ユニバーサム社の昨年と今年の調査を見ると、かつて強く持っていた上昇志向が弱まり、生活の安定感を求め生活の楽しさを享受しようとする意向が逆に高まっているのがわかる。

「仕事は生活のすべてではない」といった考えや、就職に対する「安全感と安定感」を求める現象、そして就職してからも生活を楽しもうとする大学生たちの意識を浮き彫りにしている。

中国人大学生の心をつかむために、企業の新しい魅力を出す工夫と努力がこれまで以上に求められる。中国に進出している日系企業にとっても大きな課題だと思う。



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