2008-09-08

外国人の活用に向けて何が必要なのか

:::引用:::

最近、日本国内で「外国人人材の活用」が話題に上ることが多くなった。これまでと違うのは、活用の仕方が多岐にわたってきたことだ。例えば、中国な ど海外にある現地法人で現地の社員を活用するだけではなく、日本の本社で活用する、日本国内で急増している外国人観光客などに対応する、より多くの優秀な 留学生を呼び込み活用する、などである。留学生受け入れという点では、今年7月末に、2020年をめどに留学生受け入れを30万人にすることを目標とした 「留学生30万人計画」の骨子が発表された。

こうした話を聞く際に、明確にすべきだと感じるのは以下の3点である。1つは、「なぜ外国人の人材が必要なのか」ということ。2つめは「どういう分 野の人材を求めているのか」。3つめは「よく言われる“優秀な人材”が欲しいという時の“優秀”とは何か」ということだ。これらの点をすこし掘り下げて考 えてみたい。

外国人人材へのニーズを明確に

なぜ外国人を採用するかという点では、大きくわけて以下の4つがある。

まず、国籍を問わず優秀な人材が欲しいということだ。これは日本人と同じように国内で勤務し、その後も同様な処遇やキャリアをたどることが前提にあろう。

次に、海外展開用のブリッジ要員としてである。最近は、中国を始めとするBRICsやそれ以外の新興国向けのビジネスが増える傾向にあるため、それ ら国々の事情に精通した人材の必要性が増している。また、デパートやホテルなどサービス業では、最近増加している外国人観光客の販売・接客対応人材とし て、特に来日数が多い韓国や中国の人材活用のニーズが出てきている。

第3に、理工系の高度な技術を持つ人材の必要性だ。これには、日本国内での理工系人材不足が背景にある。文部科学省によると、日本の工学部の志願者 数は2008年度の入試で24万人程度と、ピークだった1992年の半分以下となっている。さらに理工系学部に進学した学生が途中で経済学部など文系に転 部したり、卒業後も製造業ではなく、金融など従来にはあまり見られなかった方面に就職する傾向にあるのも技術者不足に拍車をかけている。また、中国など海 外取引増加に伴い、アジアで技術系人材を大量採用するという企業も増えている。

第4に、最近話題となっているダイバーシティによる組織活性化である。異なる価値観を持つ人材が組織に入ることでこれまでとは違う発想が生まれるなどのメリットが考えられる。

留学生と海外人材を併せた採用・活用が必要

このように外国人の活用には色々な背景がある。2つ目のどういう人材に対するニーズがあるかを考えるにあたって、外国人の人材がどの程度いて、どういう職種についているかみてみたい。

法務省入国管理局によると、日本で就職した留学生数を表す留学生等の在留資格変更許可数は平成19年に1万262人だった。この数は5年前に比べて 3倍強に増加しており、過去最高を記録している。国籍別に見ると中国が断トツの1位で全体の74%を占め、2位の韓国(11%)を大きく引き離している。 これらの人材がどういう職業についているかを見てみると、翻訳・通訳(34%)、販売・営業(15%)、海外業務などが半数以上、情報処理・技術・設計な どの技術系は2割程度に過ぎない。つまり過半数が日本語または母国語を生かす職業についており、技術系の人材は少ないという傾向にある。

2006年の留学生の卒業生数は3万5000人とされており、約3割の外国人留学生が日本国内で就職していることになる。しかし、後の7割はどうし ているのか?進学などもあるが、企業側が求めている人材と留学生の間でミスマッチが起こっている可能性がある。留学生の8割は日本で就職したいという調査 統計もあり、留学生としては就職したいがその方法がわからなかったり、または企業が求める能力にマッチしていないなどの理由が考えられる。このギャップを 埋めるため大学などが留学生の就職を支援し、企業と留学生の間のパイプを太くすることが求められている。

具体的に、企業側のニーズとしては、ビジネス文書、ビジネス会話など高い日本語能力に加え、日本企業の中での電話応対などのビジネスマナーや商習慣 への理解を求める傾向がある。そこで、留学生を抱える大学側の対応としては、留学生向けの就職情報の提供、エントリーシートの書き方、面接対策、SPIな ど筆記試験対策など日本人学生なら当然行っているような就職活動に向けた準備をサポートすることが必要だ。また、在学中から授業でビジネス日本語やビジネ ス英語などの授業を開き、敬語や電話応対、見積書などビジネス文書やビジネスメールの書き方を実践的に指導してもよいのではないか。

一方、海外から日本への直接就労者を見ると、様相が異なっている。まず、平成19年に2万2792人がいて、5年前の1万942人から倍増してい る。これは先に述べた留学生の就職数の倍である。国籍・出身地別にみると、留学生の場合よりも多様性に富んでいる。中国(32%)、韓国(14%)、米国 (12%)、インド(9%)、英国(5%)となっている。職務別にみると、技術系が半数を占め、また教育が2割を占めるなど留学生の職務とはかなり異なっ ている。つまり、留学生には少ない理工系人材を直接海外から受け入れる状況だということだ。米国・英国などは英語の教師など教育分野に勤めていると思われ る。

また、共に共通しているのは、中小・中堅企業(従業員100名未満)で働く人材が過半数を占めるということだ。つまり、こうした企業では人材不足の状況にあり、技術系人材を海外から受け入れ、通訳や海外業務などを留学生が担当するという構図になっているのではないか。

また、これらの人材を合わせても3万人強にしかならないということは、現時点では外国人人材の数はかなり限られているということだ。その数をこれか ら増やし、日本における外国人活用を促進するには、1つに日本で学ぶ外国人の数を増やすことが必要だ。そのためには、日本の大学を国際的に魅力的にする必 要がある。外国語で行うクラスや留学生向けに日本語を教えるクラスももっと充実させる必要があるだろう。次に日本で就職する外国人の数を増やすこと、最後 に企業と外国人人材のミスマッチをなるべく少なくすることが必要だ。

企業は外国人人材を求めるのであれば、ある程度海外にいる人材も視野に入れ、留学生採用と両面で対応する必要があるということだ。海外の大学でのリ クルート活動も積極的に展開する必要があるだろう。なぜなら、日本語が話せてスキルも高い人材は限られているのである。これから留学生が増えるに従って人 材の母数は増加するだろうが、それでも限りがある。

これ以外に、外国人を採用する際に候補として考えられるのは中途採用の人材である。このメリットとしては、海外から直接採用する場合と異なって、在 留資格の変更に時間がかかるなどのリスクが少ないということだ。こうした人材プールを総合的に活用していくということになるだろう。

ただ、ここで気をつける必要があるのは、技術者を含め人材不足だから外国人を採用する、または人件費が安いから外国人を採用する、という発想で採用 した人材は中長期的には企業に残らない可能性が高いことだ。人材定着に向けた施策が必要である。例えば、外国人の場合、キャリアに対する時間の流れが日本 人と比べて早いため、自分がこの企業で3年先、5年先にどういうポジションでどういった業務についているかというキャリアの見通しを明確に伝えることは重 要だ。また、日本企業によくあるOJTのみならず、ビジネス日本語や専門分野などに関する研修を充実させ、自分自身の成長を実感させるというような施策も ある。こうした点については、再度機会を改めて詳しく触れてみたい。

自社にとって「優秀な人材」とは?

最後に、「優秀な人材」とはどういう人材なのか?

例えば、こういう話を以前日本企業にいた中国人の方から聞いたことがある。その企業ではマイクロソフトなどからも声がかかるような中国のトップクラ スの人材をインターン生として1年間採用した。彼は非常に多くの特許を申請するなど成果を残したが、結局中国に戻って米国の大手投資銀行にグローバル採用 で入社し、日本法人に駐在員として派遣されたという。

この人材が非常に優秀であることは間違いないが、自社がこういう人材を必要としているのかまたこういう人材が活躍できる場があるかを見極める必要が あるだろう。必要なのであれば、そうした人材が活躍できる職場や人事制度を用意する必要がある。人事制度も一度に全てを統一するのは難しいため、移行期間 としてこれら外国人人材に対する制度を現行制度と両建てで考えるような方策も必要かもしれない。

また、自社がどういう人材を必要としているかを再確認することも不可欠だ。自社にとって「優秀な人材」とは、自社が求める業務を遂行できる能力があ り、かつ自社の企業理念にあっているということではないか。客観的に見て優秀であっても自社の企業理念に合致しないのであれば、採用しないというのはGE などが謳っているGEバリューにも共通する点である。そうしたケースでは、学歴は一流大学卒業にこだわる必要はないかも知れない。採用活動をする対象もそ れに応じて変わってくる。

スキルや専門性を重視するのか、日本語を重視するのか、両方絶対に不可欠なのかという点も考慮すべきだ。先ほど挙げた例とは逆のケースもある。中国 にある日系メーカーから欧米の大手IT企業に転職した人で、給与は倍程度になったものの、あまりの自己主張の激しさや個人間の競争心の強さが合わずに、結 局給与が下がったが元の日系企業に戻った、という例も聞いたことがある。

こうした人材は日本企業の良さも客観的に理解しているため、貴重な人材である。その企業では、優秀な社員は転職して職場が変わったとしても引き続きコンタクトをとれるようにしていたという。


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