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新教育の森:少子化と不況、学生確保に私大あの手この手
◇新校舎や名称変更、受験料優遇に広告
少子化で18歳人口が減り続ける中、私立大学が学生確保に躍起になっている。今年度の入試でも、新校舎建築や大学名変更でアピールしたり、受験料を優遇したりする大学も現れ、激しい学生争奪戦が展開された。【山本紀子】
◆イメージチェンジ
志願者数が昨年度の178・7%に達した千葉工業大。ここ数年、理系離れと工学離れで志願者が減り気味だったというが、なぜなのか。
「キャンパスに20階建て100メートル級の新校舎を建てたのが一つの要因。駅前の立地なのでインパクトがあったのかもしれません」。入試広報課は分析する。金融危機のさなかに新設された金融・経営リスク科学科も、タイミングのよさからか最大約19・8倍となる人気だった。さらに、複数の学科を受験しても、1学科分の受験料しか取らない優遇制度を始めたことも背景にあるという。
千葉工大は「受験料収入が減るのは事実だが、10万人単位の受験生が集まるマンモス大学と違い、大きな額ではない。うちに来たいという意欲ある受験生を大切にしたい」と話す。
大学の名称を変え、志願者数が昨年度の124・4%となったのは東京都市大(旧武蔵工業大)だ。同じ学校法人が運営する東横学園女子短大を統合し、文系の2学部も新設した。「工業という冠がそぐわなくなったので、名称を変更した。イメージが変わった効果なのか、去年まで苦戦していた工学系の学科も伸びた」と大学側は分析する。
東京女子大も昨年度より2000人近く志願者を増やした。「専門性と学際性が出るよう」約20年ぶりに学部を大改編。東京や横浜、新宿といったターミナル駅に大きなポスターを張り、首都圏を走る電車につり広告を出した。「主要駅でメッセージを発信したのは初めて」といい、広告効果もあったようだ。
◆併願でも試験1回
受験生を集める入試改革として、最近広まっているのは「全学部統一入試」と呼ばれるスタイル。1回の試験で複数の学部学科を併願できるシステムで、関西の私大が数年前から始め、関東にも広まった。
今年度入試から取り入れた中央大は、受験生が約3100人増えた。一方、07年度から始めた法政大は、08年度入試で受験者が過去最高の9万5000人を記録したが、今年度は一転して約1万1300人も減った。法政大は「倍率が高くなりすぎて受験控えが起きた」と分析する。
今年度は、有名難関私大が受験者を軒並み減らしたといわれている。法政大とほぼ同じ志願者数減となった立命館大は「不況の影響が大きい。国立大を第1志望とする人が、第2志望で合格確実な私大に出願する傾向があり、余波を受けたようだ」と分析している。
◇「公設民営」が注目する定員割れ対策 公立大に転換、授業料安く
◆苦境に立つ地方私大
ネームバリューの乏しい地方の私大は苦戦を強いられている。
日本私立学校振興・共済事業団私学情報室の堀敏明室長は「規模が大きくブランド力もある有名私立20大学に大学生の4割が集まり、残る6割の学生を500大学で分け合っているのが現状。地方の大学は知名度を上げることが容易ではなく、不況の影響で国立大を選ぶ人も多いため、現状は苦しい」と話す。共済事業団の08年度調査では、学生が定員に満たない大学は47・1%に上る。
昨春、入学者が定員の半分以下となった鳥取環境大。今年は定員を48人減らしたが、6年連続で定員割れした。「地方の人は都会にあこがれ、都会の人は不況で家から通える大学に通う。地方は大都市圏に比べて経済環境が厳しく、就職先も多くないことが苦しい理由」。大学側は説明する。
定員割れする大学は地方に集中している。共済事業団の調査では、東京の大学の入学定員充足率は116%だが、中国地方は89%、四国は83%と地域で著しい差がある。
鳥取環境大は鳥取県と鳥取市が出資し、民間が経営する。こうした「公設民営」型の大学はどこも、学生集めに苦労しているのが実情だ。しかし今春、公設民営から公立大学法人となることを決め、爆発的に志願者数を伸ばした大学がある。
◆高知工科大の奇跡
「高知に工学系の大学を」と県が出資して97年に設立した高知工科大。07年度には約18%、08年度には6%の定員割れをした。今春、公立大学法人の制度を利用して私大から公立大に転換したところ、志願者数は前年度の10倍以上にもなった。授業料が年124万円から50万円台まで安くなることが、激増の背景とみられている。
高知の奇跡に続こうと、定員割れに悩む公設民営の名桜大(沖縄県名護市)も、公立法人化の検討を始めた。「沖縄は高校や大学への進学率が全国で最も低く、所得格差が進学格差を生み出している。公立になれば、最大年120万円の学費が半分以下になり、教育の機会均等が実現できる」と大学側は期待する。
静岡県と浜松市が設置した民営の静岡文化芸術大も「国公立志向が強い地方で、質の高い学生に来てもらえる」と来年度から県立大を目指す方針を決めている。
大手予備校、代々木ゼミナールの坂口幸世・入試情報センター本部長は「公設民営の大学は、思い切った改革か公立化を図らないと難しい」と指摘。私大については「首都圏の有名大は定員割れとは無縁だが、地の利の悪い地方は苦しい。手に職がつく実学系の学部を、他大学に先駆けて設置するのが生き残る方法の一つ」と話す。
◆学費下げ高校訪問
自助努力で定員割れを解消した私大もある。
一時は、学生数が定員の半分にまで落ち込んだ九州ルーテル学院大(熊本市)。全員参加だった留学を希望者だけに絞り、テレビ広告をやめるなどして、年100万円超の学費を60万円程度に下げた。さらに、県立高の校長をリクルートして「進学アドバイザー」とし、県内の高校をくまなく回る作戦を始めた。
県立高校長OBの鋤崎勝也副学長は「全高校を年5回ずつ訪問する。PRより、その高校を出た卒業生の情報提供が中心。成績や就職先のほか、不登校で休学中といった悪い話も打ち明ける。とにかく直接話すこと」と秘訣(ひけつ)を語る。20人を1クラスにして、1人の教員が4年間担任を務め、少人数授業にも取り組む。「全180人のこぢんまりした大学なので目が行き届く。大きい大学は宣伝すればわっと集まるでしょうが、地道にやるしかありません」
共済事業団の堀室長は「地方の大学には、地方の産業が求める人材を輩出する使命があり、存在意義は十分ある」と話す。事業団の調査では、18歳人口は減少傾向なのに、この20年間で私大の数は約360校から570校に増えた。堀室長は「需要に対し大学が多すぎる。いずれ再編が必要だろう」と見ている。
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■志願者増加数の上位20大学■
大学名 志願者数 志願者増加数 倍率 昨年度比(%)
東洋 69157 9519 12.7 116.0
千葉工業 17653 7776 14.2 178.7
青山学院 54930 7720 21.4 116.4
芝浦工業 28858 4893 22.2 120.4
高知工科 4888 4436 19.6 1081.4
日本 90273 4331 12.9 105.0
京都産業 29887 3648 20.4 113.9
中央 85092 3111 23.1 103.8
国学院 18280 2968 15.7 119.4
松山 8668 2963 10.0 151.9
東京都市 14448 2833 14.4 124.4
東京農業 25422 2702 14.5 111.9
西南学院 19578 2641 16.8 115.6
成城 18891 2304 15.9 113.9
関西学院 52180 2203 17.1 104.4
東京女子 11571 1987 13.8 120.7
独協 16473 1912 13.8 113.1
玉川 9850 1814 11.2 122.6
亜細亜 9263 1708 10.6 122.6
福岡 39436 1644 14.1 104.4
※代々木ゼミナール3月31日調べ。
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2009-04-06
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