2009-04-20

グローバル・アイ:金融危機 中国に助けられた日本=西川恵

:::引用:::
日本と中国、西欧と東中欧--。ユーラシアを挟んだこの東と西の両地域は、相似形の関係をこの20年、保持してきた。日本と中国の経済依存関係が日中両国に恩恵をもたらしたように、西欧と東中欧も同様に緊密な互恵関係を発展させてきた。

 それがここにきて両地域の歩みに違いが出てきた。国際通貨基金(IMF)は16日、西欧が東中欧の新興国に過剰融資をし、金融危機で一斉に資金を引き揚げたことが、東中欧の危機を深刻化させたと分析した。これは西欧に大量の不良債権や輸出激減などの形で跳ね返っている。西欧と東中欧の関係が逆回転し始めているのだ。

 一方の中国。4兆元(58兆円)の緊急景気刺激策などが打ち出され、景気下げ止まりの指標が幾つか出始めている。日本の対中輸出も分野によっては回復がみられ、日中は少なくとも逆回転の関係にはない。

 かつて共に共産主義体制だった中国と東中欧。興味深いのは、時に相手に学び、時に相手を反面教師にしながら、改革路線を歩んできたことだ。中国の改革・開放政策は78年。東中欧は遅れて80年代半ばから経済改革に着手した。

 双方が異なる道を歩き始めた転機は89年6月の天安門事件。この時、東中欧の改革派は「政治改革なき経済改革は民主化を挫折させる」と、政治改革にカジを切る。これが同年末の東中欧における共産主義体制の崩壊につながった。一方の中国は「和平演変」(平和的手段による体制転覆)への警戒を強めていく。

 金融危機の影響が東中欧諸国で深刻なのは、民主化以降の経済政策とも無縁でない。例えば西欧が累進課税なのに対し、東中欧は米国をまねたフラットレートを採用して企業活動にインセンティブを与えた。共産主義時代の反動で、東中欧はより自由主義的な経済政策を志向したからだ。

 パリ政治学院のジャック・リュプニク教授はかつて私のインタビューに「東中欧の自由主義的政策は長期的には欧州連合(EU)全体に間接的影響があるだろう」(05年4月26日号エコノミスト誌)と語ったが、見通し通りになった。

 現在のところ中国は共産主義体制を維持していたことで危機の影響を緩和することができている。これは同国の金融システムが国際金融体制から切り離されていること一つとっても明らかだ。

 逆説的ながら日本もそうした中国に助けられている。日本と西欧を比べた時、中長期的には危機の影響は西欧の方が深刻だと思うのはそのためである。(専門編集委員)
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