:::引用:::
□りそな総合研究所 主任研究員・荒木秀之
■関西から成功事例発信を
わが国の人口はすでに2005年から減少が始まっており、国立社会保障・人口問題研究所によると55年には8993万人まで減少が進むと予想されている。これによる経済成長率の低下や社会保障制度の崩壊、医療や教育を含む公共サービスのレベルの低下は、単なる好不況の枠を超えた問題であり、抜本的な対応は喫緊の課題といえる。そのなかにあって、関西は3大都市圏で人口減少が最も早く進む地域とされている。一般に都市部は地方に比べて減少が進みにくいとされるものの、関西圏の中核を占める大阪、兵庫、京都ですら全国平均を上回る速度で減少が進むことから、関西にとって人口減少は他地域以上に深刻な問題といってよい。
◆優秀な人材奪い合い
人口減少への対応策としてはさまざまなものが挙げられるが、やはり、国民の関心が最も高いのは海外からの移民受け入れであろう。人口の減少が非常に早く、かつ大規模に進むことを考えれば、選択肢として無視できないとの見方が一般的には少なくない。ただし、客観的に考えれば必ずしも勝算の高くない方法であることが分かる。07年3月に発表された国連人口推計によれば、東アジア全体でも30年には人口減少に転じる。そのころには、アジアの国同士で優秀な人材を取り合う状況になるのは目に見えており、それに伴って人材獲得コストも上昇することが予想される。特に、技術開発分野や医療・介護分野など、各国が求める人材は似通ってくる可能性が高いため、場合によっては日本人社員を上回るコストが必要になることもありうる。
さらに、移民受け入れに伴って発生するデメリットや、インフラ整備を含めた社会的コストについても、現時点では十分に検証されているとは言い難い。これらの点を踏まえても、移民の受け入れに過度な期待をかけるのは危険といえるだろう。
そういったなかで、ICT(情報通信技術)やロボットの活用による人口減少への対応は、その実効性の高さから重要性が徐々に増してこよう。何よりも、移民受け入れと違い、対策そのものがコントローラブル(管理可能)であり、かつ導入による影響が予測可能である点が大きい。ICTについてはテレワークなどによる埋もれた労働力の活用が期待されるほか、遠隔医療や遠隔教育、電子自治体などの取り組みによって、特に人手不足が懸念される業界には大きな助けになるものとみられる。
◆用途多彩なロボット
もう一方のロボットについては、それにも増して大きな期待が寄せられる。生産ラインで使用する産業ロボットをはじめ、医療・介護や清掃・警備、家事などをサポートするサービスロボット、さらに話し相手やペットにもなるホビーロボットなど、その用途は非常に多岐にわたる。ある業界団体の試算によれば、サービスロボットを中心とした次世代ロボットが25年に担う業務量は、労働力換算で352.5万人分に上る。一般的にわれわれがイメージするよりも、人手不足に対する代替効果は高いといえよう。
それに加えて、ロボットについては産業のすそ野が広いことから、経済成長の新たな芽としての期待も大きい。
実はこのロボットについては、関西は高い技術を持つ企業や研究機関の集積が進んでおり、全国的にみて非常に高い優位性を持っている。電機や電子部品大手を中心とした大企業、大学を中心とした研究機関が核となった産業クラスターが形成されているほか、オンリーワン技術を持つ中小企業、大学発ベンチャー企業なども研究開発にあたって重要な役割を担っている。さらに、今開発中のJR大阪駅北側では、次世代ロボット産業の連携拠点として「ロボットラボラトリー」の設置も予定されている。すでに述べたとおり、関西は人口の減少速度も速いことから、まさに「技術シーズ」と「対応の必要性(ニーズ)」を併せ持った稀有(けう)な地域といってよい。シーズとニーズの近接性は商品・サービスの開発に有利に働くことは間違いないため、関西にとっては人口の減少をチャンスに変える千載一遇の機会ともいえるだろう。
◆官民一体で取り組み
人口減少はこれから加速度的に進んでいくため、官民一体となった取り組みをできるだけ早く進めていくことがカギとなる。関西に期待されるのは、特区制度などもフル活用しながら先駆的な動きを進め、一つでも多くの成功事例を生み出すことである。それが全国的な動きにつながれば、おのずと人口減少への対応の糸口となっていくに違いない。
さらに、ビジネスという視点に置き換えれば、これから「人口減少ビジネス」をいかに地域や企業の成長につなげていけるかが重要になる。特に関西については、アジアとの結びつきが強いという大きな利点を生かし、成功事例をアジアへ売り込んでいくことが重要になるであろう。日本に遅れて人口減少社会に突入するアジアは、まさにニーズには事欠かないはずである。
人口減少問題は、ともすれば克服すべき課題というイメージが先行しがちであるが、環境ビジネスと同様に、大きな先行者メリットを獲得するチャンスともいえる。世界に先駆けて取り組むことで、「人口減少ビジネス」が日本経済の成長を支える新たな柱となる可能性も秘めているのである。
●●コメント●●
0 件のコメント:
コメントを投稿