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日本では、政府予算や多くの企業会計の年度末が3月末で、4月から新年度が始まる。ちょうど新年度に入ったこの時期に、昨年度の日本の対外イメージを締めてみたい。昨年度、中国で最も話題になった日本の地方自治体が二つあった。北海道と山梨県である。対外イメージを利益にたとえれば、北海道は大儲けしたが、山梨県は大損を被った。
大儲けをした北海道は、もともと中国で認知度が高い。理由は30年前にさかのぼる。1978年、中国で初めての日本映画週間で「キタキツネ物語」という映画がテレビで放映された。当時の中国では西側の映画を見る機会がまったくなかったため熱狂的に迎えられ、数億人が見たことになると思う。雄大な北海道の大自然が現在の40代以上の中国人の心に刻み込まれた。
心のフイルムが色あせ始めたこのごろ、新たな北海道のイメージを色鮮やかに刷り込む話題があった。馮小剛監督の新作である正月映画『非誠勿擾(if you are the one)』が中国でヒットを飛ばし、興行収入は『赤壁(レッドクリフ)Part I』と肩を並べた。
この映画の一部は北海道をロケ地にしていた。北海道の大自然は中国の若者たちをとりこにした。映画が話題となってからというもの、中国の旅行社には北海道を旅したいという電話が急増し、旅行社はうれしい悲鳴を上げた。その情報をキャッチした日本の観光業界はすかさず中国のメディア関係者を北海道に招待し、中国で北海道を宣伝する広告攻勢を仕掛けた。この5年で中国人観光客が5倍に増えた北海道は、今年さらに多くの中国人観光客を迎えることだろう。
一方、大赤字に見舞われた山梨県は、もともと中国ではあまり認知されていないが、昨年一挙に有名になった。このコラムで取り上げたことがある山梨県中国人女性実習生事件だ。中国だけではない。昨年9月に、私が「山梨県中国人研修生が残酷に搾取された。自らの権利を守るが故に暴行を受けた」と報じたこの事件は世界的に報じられた。そして昨年12月下旬、28の国・地域の144の中国語メディアが共同で「2008年全世界海外中華人社会10大ニュース」を発表したときに、再び山梨県での事件が世界各地で報道され注目を浴びた。山梨県での実習生事件が10位にランクインしたからだ(表)。選出に関わった中国語メディアは、米、日、仏、英、独、露など欧米・アジアの主要国だけでなく、南米のアルゼンチン、ベネズエラから、アフリカの南アフリカまで含まれ、中華人・華僑社会が全世界に広がっているように、山梨事件の問題も世界各地で認識されてしまった。
ここでもう一つ強調しておきたいのは、この10大ニュースのなかに、海外中華人の人権や権利保護関連の事件が山梨事件を含めて五つもあったことだ。さらに驚くことに、五つの事件の発生国を見ると、日本を除いた他の4カ国、赤道ギニア、スーダン、ソマリア、南アフリカはいずれも人権問題で注目されているアフリカ諸国であったことだ。10大ニュース選考委員の「形を変えて単純労働力を導入する日本の研修・実習制度はすでに社会のガンとなっている」という意見が、日本の外国人研修制度の核心を鋭くえぐり出していると思う。
最近、出版された『外国人研修生 時給300円の労働者 2』(明石書店)のあとがきの執筆を頼まれた私は、次のようにこの問題を指摘した。「偶然、発展途上国と見られるこれらのアフリカの国々と日本が同列になったのかもしれない。それなら問題はない。しかし、ひょっとしたら、これは案外と日本の今日の真実、つまり外国人研修制度が抱えこむ日本の遅れた社会制度をあぶり出しているかもしれない。そうとなると、この事実を重く受け止めないといけない」
米国国務省が発表している「人身売買報告書」は毎年欠かさず日本の外国人研修・実習制度の問題を取り上げ、批判している。以前、このコラムでも取り上げたことがあるが、「2008年人身売買報告書」(抜粋)でも次のように指摘している。「3年間の研修・実習プログラムの1年目の参加者は労働関連法で保護されておらず、人身売買の対象とされやすかった。さらに、そのような搾取は、研修・実習プログラムの1年目の参加者だけに限らなかった。2006年だけでも労働基準監督署が1209件を超える労働関連法違反を認定したにもかかわらず、過去2年間で労働目的の人身売買で有罪となったのはわずか2件であった。このことは、日本政府にこれらの法を執行しようとする意志がかなり欠けていることを示している。」
国連の自由権規約委員会が、市民的および政治的権利に関する国際規約に基づき、日本政府の対応を審査している。2008年10月に日本政府の報告書の審査を経た総括所見においても、「外国人研修生の就労条件に関し、国内の労働法の対象とし、また搾取した企業にペナルティーを科すことを勧告する」と外国人研修生問題に触れた。 欠陥制度と呼ばれる外国人研修・実習制度の問題点を数えればいろいろあるが、その中で特に問題とされているのが、三年間の研修・実習期間のうち、最初の1年間の研修期間中、研修生たちは労働者と見なされていない点だ。さらに実習期間中でも、雨水を飲まされたり、勤務中にトイレに行くことを制限されたりするなど、実質奴隷労働と変わらぬ状況のもとで働かされている、という問題もある。
この点について最近、初めての司法判断が三重県で下された。中国人研修・実習生を雇っている企業(三和サービス)が、勤務を拒否した研修・実習生ら5人に対し約2700万円の損害賠償を請求した事件である。研修生・実習生側は、会社が一方的に労働条件を切り下げようとしたため勤務を拒否していたと反論し、逆に会社側に対して研修期間中の残業代を請求していた。3月18日、津地方裁判所四日市支部は、外国人研修・実習生に対する研修用件を満たしておらず長時間の残業を行わせていたなどの事情を考慮し、労働基準法・最低賃金法等が適用される労働者であると認めた。
研修生を労働者と判断したその判決は、以下のことを判決理由とした。
(1)本来は1年間の研修期間であるのに、非実務修習(研修)が3日間しか行なわれておらず、外国人研修制度の要件を満たしていなかった。それに加え、(2-1)実務研修の内容が他の技能実習生に行なった作業と同じであった、(2-2)時間外研修の名目で長時間の作業を行なっていた、(2-3)訴状に1年目から雇用契約を結んでいたとの記載があり、会社側は研修生が労働者と区別される存在であるとの認識がなかった、という。
判決はこうした研修生の労働と残業に対して、法的に守られている最低限の労働対価、つまり最低賃金の支払いを三和サービスに命じた。
研修・実習生側弁護団の主任の指宿昭一氏(外国人研修生問題弁護士連絡会共同代表)は「初めて、外国人研修生が労働者であり、労働基準法・最低賃金法等が適用される場合があることを認めた意義は大きい」と高く評価している。 さらに、外国人研修・実習制度に関する制度や法律を改正するという動きも活発になってきた。三重県での判決が下される少し前、東京の参議院会館で行われた、社民党、労働組合、外国人労働者団体主催の外国人研修・実習制度改正に関する中央省庁との交渉では、行政側も現在の制度や法律は問題があることを認めている。
「一部の受け入れ機関で不正行為等の問題が発生していることを承知している。平成18年の『規制改革の推進に関する第三次答申』でも研修生が事実上の低賃金労働者として扱われていることが指摘されている」(外務省)
「特に研修生の法的保護の強化について実務研修中の研修生に対し、労働関係法令の適応を閣議決定の指示に沿って検討していく。来年の通常国会に提出する」(法務省)
「研修生の法的保護についてはこれからも検討を進めたい」(厚生労働省)
「事実上の低賃金労働者として扱われたり、あるいは人権侵害が行われるといったことがあってはならない。研修生への労働法の適用をはじめとして、3カ年計画の指摘をもとに適切に対応していきたい」(経済産業省)
経産省が指摘した3カ年計画とは、2007年6月に閣議決定し2008年3月に改定された「規制改革推進3か年計画」のことで、外国人研修・技能実習制度については、実務研修中の研修生に対する労働関係法令の適用、技能実習生に係る在留資格の整備、法令以外の規定に基づく規制等の見直し、の三つの大きな柱が打ち出されている。さらに、研修生・技能実習生の保護、受入れ機関の適正化、送出国政府に対する適正化要請等、などの早急に講ずべき措置を掲げている。
このように関係する行政側は、制度や法令を改正するという方向で一致を見ている。今まで1年目は研修生で労働者と見なされず、労基法には適用されなかったのを、最初の年から研修生の労働性を認め、最初の年から3年間に渡って労基法の適用を認めることになるのは間違いない。問題を起こした受け入れ団体への罰則も今よりはもう少し踏み込んだ形で行われるだろうと思う。
法整備が進むとともに、それに基づいた悪質な事例の摘発も増えている。これまで外国人研修生の人権保護と労働者としての権利保護に対して反応が鈍かった各地の労働基準監督署は最近、活発な動きを見せ始めている。労基法違反として、悪質な研修生の受け入れ先である会社や経営者が相次いで書類送検されている。
●●コメント●●
2009-04-06
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1 件のコメント:
偶然にヒットされたのですが、たまに、研修生の相談が寄せられてきたので、大変参考になりました。
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