◇「何でもいい、働きたい」 企業の人材選びも厳しく
厳しさを増す道内景気が、冬季の積雪で働けない建設業などに従事する季節労働者の生活を追い詰めている。業界の低迷で収入は減り、頼みの綱の失業 保険も法改正で減額。労働者と企業の合同面接会も開かれたが、企業側も採用条件や人数を絞り雇用の安定にはほど遠いのが現状だ。面接会で労働者の声を聞い た。【吉井理記】
「家族を食わせなきゃならない。何でもやりますのでよろしく頼みます」
「熱意は分かりますが、この業界はやはり経験がないと厳しいんですよね」
15、16日、札幌市で開かれた合同面接会。運送や食品、人材派遣など道内外の14社がブースを設け、約100人の労働者と面接担当者との間で真 剣なやりとりが続いた。札幌商工会議所など経済団体でつくる協議会の主催。労働者と企業との接点を設け通年雇用につなげる初の試みだ。
だが、各社とも厳しい台所事情は採用人数に反映され、「若干名」というのが大半だ。
「運送業者を3社回ったが反応があったのは1社だけ。そこも『あなたは年齢が高いから厳しい』と言われた」。ブースを回り終えた札幌市の型枠工の男性(45)はため息をついた。
妻と子供2人の4人暮らし。主に4~11月の間、工務店に雇われ道内各地で仕事をする。景気の冷え込みで勤務が減り、年間収入は300万円を下 回った。失業中の冬季は、一日あたりの賃金から算定する失業保険「雇用保険特例一時金」でしのいできたが、07年の雇用保険法改正で支給額は50日分から 40日分に減額。子供の高校入学も控え、「食費を抑えようと、僕も妻もご飯は1杯まで。その分を子供に食べさせるようにしている」という。「年金を支払う 余裕はなく、物価も税金も高くなる一方。老後を考えると夜も眠れない」。会場の一隅で履歴書を書き続けた。
派遣業の面接を受けた鉄筋工の男性(43)も「建築基準法改正(07年)でマンションなどの着工が減り、仕事がなくなった。貯金も底を突き、何でもいいので働きたい」と話す。
採用意欲こそあるものの、企業の人材選びの目線も厳しい。
自動車部品輸送が業務の柱だった中部地方の運送会社は減産で仕事が減少。一般の貨物輸送を増やして穴埋めする考えだが、「運送は経験がなければ即戦力として通用しない。そういう人はなかなかいない」。2日間の面接会で採用を即断できる人はいなかったという。
道内の人材派遣会社の担当者は「企業は人件費を抑えようとアルバイトを自社で雇い、派遣業者を使わなくなっている」と説明。この会社も4月からの 受注が大幅に減る見込みで「『道外勤務のできる20~30代の独身者』が採用条件だが、季節労働者の大半は40代以上で難しい」。別の派遣業者は「目当て の人材が見つかりそうもない」と、面接会中にブースを閉じてしまった。
60代の土木作業員の男性は「医療費も保険料も上がる。消費税も上がりそう。でも失業保険は減る。国はお金を取ることしか考えていないのか」と憤った。
◇道内の季節労働者減り、07年12万6000人
国の労働力調査によると、道内の季節労働者は80年の約30万人がピーク。業界の冷え込みや労働者が人材派遣業などに流入するなどした影響で、 07年は約12万6000人となった。だが、北海道庁経済部は「数字は年間6カ月以上1年未満の雇用期間がある人が対象。この期間に満たない人は統計に入 らず、失業保険の対象からも除外されている」と指摘。こうした人はより賃金の安いアルバイト就労に追いやられている場合もあり、状況は深刻さを増したとの 見方もできるという。
毎日新聞 2009年1月19日 地方版
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