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資本主義経済始まって以来の国際的な経済危機のなかで、資本主義の土台が揺らいでいる。その弊害は経済の分野にとどまらない。
ロシアの新興富裕層から常に貧困にあえぐサハラ砂漠以南のアフリカに至るまで、社会的緊張によって既存の政治体制が脅かされ、一部の国では存続すら危ぶまれる事態に陥っている。
◆世界の安全危機
EU(欧州連合)開発支援総局のルイス・ミシェル委員(61)は、世界的なリセッション(景気後退)への失望感やその影響は「世界中に存在する紛争を誘発しテロ行為をあおるだけではなく、地球規模での安全保障を脅かす公算が大きい」と警告する。
国際外交問題が山積するオバマ米大統領にとっても、予期せぬ試練が潜んでいる。たとえば、パキスタンの政情不安、経済制裁の強化によるイランの経済悪 化、ソマリアの国家崩壊、銅依存の高いザンビアでの騒乱、コロンビアの麻薬資金に依存した反乱激化、北朝鮮の軍事的脅威の高まりなどだ。
世界銀行の試算によると、世界の貿易額は25年以上ぶりに初めて減少する見込みだ。昨年は食料や燃料価格の高騰で消費者の負担が6800億ドル(約60兆6760億円)増え、1億5500万人相当が飢餓状態にある発展途上国では財政難が深刻化している。
パン騒動が契機となったフランス革命や、失業者急増によるナチスの台頭など歴史的に景気悪化と政変の結びつきは深い。
サルコジ仏大統領は世界の経済格差拡大が「過激主義や暴力の温床となった」と指摘。「われわれはグローバリゼーションに競争(による利益)と豊かさを求めたが、最後に残されたのは資本不足、負債、投機、そして不当廉売だった」と語った。
だが歴史家たちは、1989年の旧共産圏崩壊以降、培われてきた国際経済の結びつきの終焉(しゅうえん)を宣言するには、時期尚早だと主張する。現在の資本主義経済の下で先進各国の担う役割はまだ大きいというのが理由の一つ。
昨年、世界の株式市場で29兆ドル規模の資産が失われたにもかかわらず、米国のダウ平均株価は2003年当時の水準に戻った。ギリシャでは 1970年代以降で最悪といわれる暴動が起こり、フランスでは大みそかの自動車放火件数が31%増加、米国の大手小売店の84%で万引被害が発生するな ど、西欧社会で混乱が生じている。ただ、最終的にこれらの国では、社会の根底を揺るがすまでには至らないだろう。
◆深刻なアフリカ
米コロンビア大学経営学大学院のレイモンド・フィスマン教授は、壊滅的な打撃を被るのは、破綻(はたん)してしまった国か、破綻しかけている国 だと語った。米カリフォルニア大学バークリー校のエドワード・ミゲル教授らの調査によると、アフリカ諸国で国家の歳入が5%低下すれば、翌年内戦が勃発 (ぼっぱつ)するリスクは30%に高まる。最も国家基盤の脆弱(ぜいじゃく)な国々は、サハラ砂漠以南に集中しており、独裁や紛争、疫病や経済的不運が多 くの場合、同時に起こっている。
アフリカ最大の化石燃料の埋蔵量を誇るナイジェリアは、原油価格の暴落で予算に50億ドルの穴があいてしまった。同国は英蘭系ロイヤル・ダッ チ・シェルや米シェブロンなど外資石油会社を魅了する産油地帯のニジェール川デルタ地帯南部で勢いを増すゲリラに立ち向かっている。
同国を「破綻した国」の18位にランキングした民間研究団体ファンド・フォー・ピースのポーリーン・ベイカー代表は「先行きは楽観できない。ナイジェリアの政情が落ち着かなければ原油価格下落で極めて不安定な状態に陥るだろう」と語った。
先進国経済への脱皮を目指す資源輸出国ロシアは、2002年から08年までに原油価格が8倍に値上がりした機をとらえ、旧ソ連並みの大国に返り咲いた。
大統領から首相に転じたプーチン首相の下で行われた昨年のグルジア侵攻や今月の欧州への天然ガス供給停止によって、ロシアは国際的影響力の大き さを見せつけた。だが、これらの行動には、1988年のロシアのデフォルト(債務不履行)以降で初めて経験する同国の景気後退から国内の関心をそらす狙い が込められている。
ロシアが周辺諸国と衝突する中、中国は国内勢力の抑圧に向かう可能性がある。世界銀行は中国の今年の成長率を天安門事件翌年の90年以降で最も 低い7.5%と予測。政治的な反対意見を抑える役割を果たした20年間の経済成長路線は節目を迎え、従来型の閉鎖的な政治体制を維持しながら開放経済を推 進するという政策は難しくなる。
米国の情報機関が警戒する最悪のシナリオとは、世界経済と自国経済の調和を図ってきた中国共産党が開放政策を後退させるというものだ。
CIA(米中央情報局)などで構成するNIC(米国家情報会議)は昨年11月、中国の現状について「長引く経済不況が深刻な政治的脅威を引き起 こす可能性があるものの、中国共産党は国内問題を外国による介入のせいだと非難することで国民からの批判をかわし、敵意に満ちたナショナリズム感情をかき 立てている」と結論した。(James G. Neuger)
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