開発の一部を請け負う「オフショア開発」に特化
「中国広しといえど、大連ほど日本語とIT(情報技術)両方の能力を兼ね備えた人材が豊富なところは多くない」。大連市にソフト開発拠点を持つ、NECソリューションズ中国の納富研造社長はこの地の魅力をこう語る。
1996年設立の同社は現在、北京の本社のほか、上海、大連、広州に支社を置き、合計700人弱の社員を抱える。3大都市にある拠点が主に中国国 内にある日系企業向けのシステム開発を手がけているのに対し、2001年に設立した従業員85人の大連支社は日本の拠点と連携して開発の一部を請け負う、 いわゆる「オフショア開発」に特化しているのが特徴だ。
仕様を決める「要件定義」から客先でシステムが稼働するまでのソフト開発の中で、大連支社が受け持つのは「中流工程」に当たる「製造」や「単体テ スト」の部分だ。ソフトの“設計図”は日本の拠点で済ませ、それをどのようにプログラミングするかの指示書が届くところから大連の仕事が始まる。個々のソ フトを完成させ、注文通り動くかを調べてから、ソフトを日本に転送する。日本ではこれらを結合させて全体の動きを確認し、客先システムへの導入を完了す る。
コストは日本の3~4割安
大連でソフト産業に携わる人の給与は、平均で3万2000円程度だ。市全体の平均が約1万6000円で、それと比べれば約2倍の高給取りだが、日 本の人件費と比べればはるかに安い。もちろん、異国に拠点を設け、人材を育成するにはコストがかかるし、開発中も修正や入念なすり合わせなどのロスが増え るが、同じ作業ならおよそ日本より3~4割安くなるという。全工程の約3割を任せるNECの場合、全体では1割前後安くなる計算だ。
日本と中国の間でやり取りをする“公用語”は日本語だ。最終ユーザーは日本企業で、組み込むコンピューターの基本ソフト(OS)も日本語、NECの日本側で上流、下流工程を受け持つのも日本人だからだ。
将来の中国市場にも布石
中国東北部の最南端に位置する大連は歴史的にも日本と関係が深い。大連のある遼寧省と吉林省、黒竜江省の中国東北3省は日本語を話す人が多く、日 本市場をにらみつつ中国有数のIT拠点に育て上げるのは大連市政府の意向である。例えば、大連外国語学院は約9000人のうち、日本語学院の2000人を 含めて合計4000人が日本語を学ぶ。この大学では、昨年からIT学部を新設した。
富山市に本社を置くシステム開発のインテックは、2003年10月、大連にソフト開発拠点を置いた。それまでシステム開発の一部を委託していた遼 寧省の大手ソフト会社、東軟集団の社員25人を借り受ける形でスタート。設立前の1年間、3人を富山の本社に呼び、同社のソフト開発に携わらせながら研修 した。彼らが日中で共同開発をする際の橋渡し役になっている。
インテックは日本の大都市圏に営業部門やシステムの根幹部分を設計する部門を置き、それ以外の作業の大部分を富山本社を中心とした北陸で受け持つ 分業体制を採る。日本の都市圏に比べて、北陸の技術者の給与は10~15%安い。そこからさらに3~4割のコスト削減となる大連との連携を模索している。
「海外への開発発注は韓国やインド、中国で実績があったが、中国に自前の拠点を設けるのは、将来の現地市場を狙っているから。既に、日系企業のシ ステムサポート業務を一部始めており、その実績をテコに中国拠点のシステム開発を請け負いたい」と大連センターの池原啓所長は話す。
重要なのは日本本社の間接業務を軽減すること
異彩を放つのが、大和ハウス工業の中国拠点である大和事務処理中心だ。
社名の通り、2001年の設立時は顧客アンケートの集計など社内の事務処理を低コスト化するための従業員数人で始まった会社だが、その後、CG(コンピューターグラフィックス)など扱える技術を拡充して、請負業務を拡大。現在は120人の社員を抱える。
1つはプレハブ住宅の部材の設計だ。プレハブ住宅は全体を設計した後、必要とする各部材を抽出して、工場用の加工データを作る。こうした部材の抽出は単純作業に近いが作業者に注意力が必要とされる重要な作業だ。
もう1つユニークなのが、マンションのカタログで「完成予想図」として使われているCGの作成である。
大和ハウスの分譲マンションのうち一部を大和事務処理中心が請け負っている。設計図が日本から伝送されてくると、3次元の立体的な図面にして、指 定されたタイルやカーペットなどで装飾を施す。CGは日本の営業部門との数回にわたるやり取りを通じて、完成度を高めていく。「ここに影をつけて」といっ た指示は画面上に日本語の手書き文字。CG作成の担当者はほぼ全員が日本語を使いこなす。
「確かに日本と比べて人件費は安いが、今後も大連で日本語を使えるIT技術者の賃金が格段に安い保証はない。大和ハウスとして最も重要なのは、本 社の間接業務を軽減することだ。同じ社員数でも営業マンを厚くするといった改革を側面から支援する」と、常駐責任者である李仁庚副社長は話す。
新入社員には最低300時間の日本語教育
富士通は2001年に中国の内陸部、陝西省西安市にソフト開発会社、富士通西安システムエンジニアリングを作った。野城保夫社長は、「ソフト技術 者をたくさん集めて規模の効果でコストを安くするつもりはない。技術者を育て、生産性や品質で日本に勝るとも劣らない開発拠点にしたい」と話す。
中国内陸部では指折りの大都市である西安も大連と同様、科学技術の人材養成に力を入れている。高等教育機関と大学は合計で100以上もあり、市の 人口に占める大学生の比率は中国3大都市を上回る。毎年5万~6万人の卒業生が輩出される人材の供給力に富士通は期待をかけている。
現在の社員数は約100人だが、顧客に問題解決策を提案して、ソフト開発チームも指揮できる「上級SE(システムエンジニア)」を早期に300人 に増やそうと野城社長は青写真を描く。新入社員には最低300時間の日本語教育をして、日本との「橋渡し能力」も磨かせる。上級SEは地場ソフト会社に開 発を委託する窓口にもなるので、少数精鋭で多くの仕事を請け負える。
中国オフショア開発の効果は「工程だけなら約3割、ソフト全体では約1割」が平均的だ。ただし、ソフト受託開発で先行するインドなどライバルとの 競争も激しい。中国が日本のソフト産業に欠くことのできないパートナーになるかは、中国国内市場の伸びと、人材育成の成否にかかっている。
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