「人材育成する時間も資金もない」という壁が,いつもCIOの前に立ちはだかっています。多くの場合,この壁の前で「IT部門のミドルマネジャを育 成したい」という情熱は消沈してしまいます。経営環境が厳しさを増す今だからこそ,有能なミドルの育成は急務のはずです。今回は,リソース(経営資源)が不足している中でもできるミドルの育成について,現実的な視点から解説します。
CIOの意識に潜む「越えがたい誤解の壁」
「人材育成するためのリソースがない」という壁に対して,CIOに必要なのは,まず人材育成に対する誤解を自ら解くことです。例えば,以下のような誤解です。
・予算がないからできない。
・仕組みがないからできない。
・前例がないからできない。
・知識がないからできない。
このような誤解にとらわれると,人材育成の意欲は消え,情報システム部門は一気に衰退します。
たとえ閉塞感の中にあったとしても,CIOとしての役割を再確認することはできるはずです。以下に示した2つのCIOの役割を自分に問いかけてみましょう。
[問いかけ-1]ITを活用してどのような経営革新を行うべきですか?
<あなたの答えは(口に出して言ってください)>
[問いかけ-2]今あるITを最大に活用できる分野と利用方法は何ですか?
<あなたの答えは(口に出して言ってください)>
相談相手がいない場合,このような自問自答は,「越えがたい誤解の壁」を乗り越える意識改革のきっかけを与え,行動への一歩を後押ししてくれるはずです。
ビジョンと「適所」を示せばミドルは育つ
CIOは,経営やビジネスモデルの将来像(ビジョン)をミドルに示すことが第一です。そうすれば,情報システム部門の役割と責任が合理的に導き出されてきます。それが情報システム部門の将来像であり,ビジョンとなります。
次に,CIOは自らの役割において,最も重要な役割と責任を明確にします。自分に要求されていることが何かを再確認することを意味します。
このために必要な上司とのコミュニケーションは,CIOにとって欠かせません。CIOが,上司である社長や上級役員とうまくコミュニケーションできないようでは,ミドルの教育を会社が受け入れてくれる確率は低いといえます。
CIOが,最も重要な自らの役割と責任を明確にしたら,それを成功させるために部下であるミドルの役割と責任を明確にします。この段階で,COBITの RACI(Responsible,Accountable,Consulted,Informed)チャートを参照し,どのITプロセスの役割(統制活 動)に該当するかを検討します。この流れを下図に示します。
CIOがビジョンを示すとは,「CIOとして自分が何をしなければいけないのか」「そのために弱いところはどこか」「ミドルに期待する役割は何か」をミ ドルとのコミュニケーションを通じて,繰返し問いかけることと同じであると考えてください。このとき,ミドルマネジャに現実的な気づきを与えるヒントにな るものが,COBITのRACIチャートです。
ただし,グローバル・スタンダードに,そのまま解決策が書かれているわけではありません。さらに,前回述べたように「ミドルマネジャの役割と責任は,現在のCIOとの関係性で決まる」という点を忘れてはいけません。例えば,「来月は具体的にどのような仕事をするのか」という問いに対する,CIOとミドル一人ひとりが合意した仕事の責任を果たすことが,ミドル人材の育成につながるのです。
CIO川柳コーナー
前回の川柳である「CIO 出世とリスク いくど越え」を説明します。
CIOになるキャリアパスは,一般にプロジェクトマネジャなどを経験し,最低でも10年~15年はかかるといわれています。情報システム部門での 叩き上げでなく,ITプロジェクトのメンバーとして,良い実績を持っている人が経営企画部門を経てCIOになるケースもあります。CIOになるまでのその 人のキャリアは多彩です。
またCIOになった後の業務実績は,リスクとの戦いであるといっても過言ではないでしょう。CIOが対峙(たいじ)するリスクは,ITトラブルが代表的なものですが,そのほかにも「情報漏えい」「財務情報の虚偽報告」など,社会的に注目されている情報事故も含まれます。
一方で,立派にCIOの職責を果たし,副社長に出世する人もいます。このようなことから,CIOはその職に就く前からも後からも,「出世」と「リスク」をどう乗り越えていくかのキャリアパスを行くのです。
次の句は次回に説明します。皆様も,考えてください。
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