2009-04-09

東京棄民 漂う高齢者

:::引用:::
東京では、特別養護老人ホーム(特養)などの入所施設は、どこも飽和状態だ。特に低所得者は、費用が高い有料老人ホームは選べず、行き場を失っている。今住む地域で「ついのすみか」を見つけるのは、至難の業だ。 (山本哲正)
◆待機400人

 「特養に入所を申し込み、もう一年半。音さたがない」

 東京都台東区で食品販売店を営む男性(86)は、あきらめ顔だ。同区の特養入所待機者は約四百人いる。

 二年前に妻(87)が階段から落ち骨折した。病院は二カ月ほどで退院させられた。以後車いす生活が続き、昨夏、老人保健施設へ。そこも半年で「別の施設を探して」と言われた。昨年暮れ、八王子市のグループホームに入る機会はあったが、「私も高齢。妻に会えなくなる」と断った。

 要介護度は四まで進んだ。自宅は狭く、ベッドは置けず、車いすで移動できない。年金は二人で月五万円ほど。「生活保護の一歩手前で、体にむち打って店を続けている」

 同区内の在宅ホスピスケア施設が妻を受け入れてくれたが、待機は続けている。

 「静養ホームたまゆら」に生活保護受給者を入所させていた墨田区の特養入所待機者は六百五十二人(昨年十一月時点)。「入所優先度が低い百五十四人は待っていても入れるかどうか」と同区高齢者福祉課の高村弘晃課長は言う。

 地域を離れたくない高齢者は多い。ある区で生活保護を担当する査察指導員によると、要介護なのに無料低額宿泊所に暮らす元ホームレスの受給者男性(81)は「地元の公園に友人がいて、離れたくない」と言い張るという。

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 低所得者が利用料を払える施設は満杯、一方空きがある施設は高額利用料が入所を阻む。

 高齢者住宅コンサルタントの田村明孝さんによると、都内の特養定員は約三万四千七百人と各種施設では最も多い。月額利用料(全国平均)は約五万六千円、都内はさらに高い傾向だ。

 だが、入所希望者は都内で約三万八千人。入所施設増は、医療費削減のため在宅介護へシフトさせる国の医療制度改革で抑えられている。約十万-十八万円のグループホームも施設数は増えない。老人保健施設も約八万円だが、長期入所が難しい。約八万九千円の介護型の療養病床は、二〇一二年度に全廃の予定だ。
◆空きあり

 一方、「不況で入居率は下がり、二十三区内の稼働率は85-90%」(田村さん)と、空きがあるのが介護付き有料老人ホームだ。都内定員は特養に次いで多いが、月額利用料(都内平均)は二十一万六千円。さらに平均約五百万円の入居一時金が必要になる。

 田村さんは「要介護度が重くなると施設に頼りたいのに、その施設が足りない。特に低所得者層にしわ寄せがいく」と指摘する。

 〇三年から、必要性の高い順に優先入居となり、一部の人は待機がさらに長期化した。生活保護受給者も同様で、要介護度や家族の有無などに左右される。「目黒認知症高齢者と家族の会たけのこ」の竹内弘道幹事は「そこそこ歩けて家族がいると、徘徊(はいかい)に苦労しても優先的に見てもらえない」と嘆く。

 目黒区の特養「清徳苑(えん)」の松井比呂美施設長は「人材不足でショート(ステイ)をたたんだ施設の話も聞く」と介護サービスが逆に縮小している現実を指摘。その上で、施設増と併せ「現場の処遇も改善しないと、受け皿は広がらない」と指摘する。

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