2009-02-16

日本の電子政府は次期IT戦略で変われるか?

:::引用:::
 政府が次期国家IT戦略「デジタルジャパン」(仮称)の策定を開始した。2010年度までの目標を掲げて現在進行中のIT戦略「新IT改革戦略」の後を受け、2015年までを見通す戦略となる。
 戦略を策定するのは、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が設置した「IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会」。専門調査会では、現在の経済危機を克服するための今後3カ年の緊急プランの案を2009年3月末までに、2015年までを見通した次期政府IT戦略案を同6月にまとめる(関連記事)。

 専門調査会は2月6日に第1回の会合を行い、週明けの2月9日にパブリックコメントの募集を開始した(関連記事)。一般に政府が募集するパブリックコメントは、「ナントカ法の一部改正案」や「××指針案」など、既にほぼ決定している案件について意見を募集するものが大半だ。しかし、今回は戦略案を策定するために、検討の初期段階から広く意見募集を開始した。

 専門調査会の会合では「ユーザー目線」を強調する意見が目立っていた。パブコメ募集はこの姿勢に合致する前向きな取り組みといえる。今後、どのように意見のフィードバックを行うかに注目していきたい。

省庁の現場を変える仕組みを埋め込めるか

 以下では、筆者の意見を述べてみたいと思う。

 専門調査会の資料には、「デジタルジャパン」の2つの目標が次のように示されている

・D(デジタル)パワーであらゆる無駄を撲滅するデジタル・エコ社会
・Dパワーですべての市民・企業が元気になり、夢を実現できるデジタル成長社会

 この2つの目標については、個人的にはおおむね賛同できる。ただし、「電子政府」の分野について言えば、省庁のIT人材育成と情報化推進体制の改革がなければ目標達成は困難だと筆者は考えている。

 今回の意見募集の資料を見ると、「デジタル時代の人材育成」という言葉があるが、これでは漠然としすぎている。もっと限定した形で「省庁におけるデジタル時代の人材育成」を掲げるべきではないだろうか。

 各省庁が動かなければ、いくらすばらしい戦略が出来上がっても画に描いた餅にしかならない。2月6日の専門調査会会合の冒頭あいさつで、野田聖子IT担当大臣は「(省庁の)CIOは形骸化している」「霞が関が大きく変わらなければ、国民に(ITの恩恵は)行き届かない」と危機感を表明した(関連記事)。

 では、どうすべきか。ここでは識者の意見を2つほど紹介する。東京大学公共政策大学院の奥村裕一教授は「日本の省庁の場合、IT人材の昇進の道が極めて少ない」と指摘する。そして「人事施策そのものを変えないとIT人材が少ないという問題は解決しない。IT人材は当面、省庁間で自由に異動できるようにして、そのうえで全省庁で計画的に人材を育成し、昇進の道を考えていくべきだ」と提言した。2月9日に都内で開催された「仮想政府セミナー」での発言である。

 一方、産業技術大学院大学の南波幸雄教授は、2007年秋に国際CIO学会で発表した論文「情報システムに係る政府調達の課題」において、省庁内部での IT人材育成の現状を分析。研修環境は整いつつあるとはいえ、「人事ローテーションを前提とした現行制度のもとでは難しい」と指摘する。「中長期的には、米国の政府機関で実施しているように、官民連携で人材育成を計画的に行い、有機的に民間との人事交流ができるような制度を確立し、フレキシブルキャリアパスを実現する」と提案している。

 また、CIO補佐官制度については「現在の身分と権限では、CIOアドバイザーとして実効的に役に立つかどうかは、受け入れ側の対応と本人の力量に依存する」とし、CIO補佐官に責任と権限を与えることを同論文で提案している。

 両氏が一致しているのは、「人事制度を変えなければ省庁のIT人材は育成できない」という認識だ。難しい課題だが「現状のままでよい」と考えている電子政府関係者は少ないはずだ。

 さらに、新たな組織の設置を提言しているのが日本経済団体連合会(経団連)だ。経団連では、行政機関横断的で、かつトップダウンの推進組織を設置することを提案している(「実効的な電子行政の実現に向けた推進体制と法制度のあり方について」、2008年11月)。総理大臣を議長とする行政機関横断的な推進組織を作り、電子行政推進を指揮する「行政CIO」と実務担当機関を設置する、というものだ。

 省庁のIT人材育成と情報化推進体制については、戦略の目標達成のための重要施策として、もっと強調すべきではないだろうか。省庁IT人材を育成するための制度、組織、体制を作っていく“種”を次期IT戦略にどう埋め込むか。そして、埋め込んだ種をどう育てて開花させるのか。次期IT戦略の中で新たな提案がなされることを期待したい。

 もちろん、IT部門の人事施策を変えたからといって、各業務の現場がすぐに変わるわけではない。「政府職員が国民のニーズを意識して業務を進めるようになれば、仕事のやり方が変わる。そうなれば省庁横断の情報システムを必要とする声は現場から上がってくるはずだ。そして、そのように組織が変わるためには、トップや幹部からの強いメッセージが必要だ」(東大の奥村教授)。次期IT戦略に沿って、政府自身の業務にITをどう活用していくのか。その姿勢、本気度が問われることになるだろう。
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