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年明けから、日本の景気悪化は危機的な水域に踏み込みつつある。2009年1月30日に厚生労働省が発表した集計によれば、今年3月までに失職する非正規社員は12万4800人にのぼるとされるが、この数字さえもまだ低めに見積もられているという指摘もある。この落下するジェットコースターのような景気後退は、地域社会を構成するあらゆるコミュニティにも深刻な影を落としている。その一端が、日本に定住する外国人に及ぼす影響である。
定住外国人子弟の教育問題を見過ごしてはいけない
1月30日午前、内閣府は「定住外国人支援に関する当面の対策」を発表した。年明け6日、内閣府内に設置された「定住外国人施策支援室」(担当は小渕優子少子化担当相)が立案作業を行なっていたものだ。日本の製造業においては、派遣や請負による外国人労働者も多数働いており、今回の急激な景気悪化が彼らの雇用や生活を大きく脅かすことを想定したうえでの対策である。
雇用面における具体策としては、ハローワークにおける通訳の増員や定住外国人専門の就職支援のための相談・援助センターの設置、就労準備研修における定住外国人の日本語能力等に配慮した職業訓練の推進等を掲げている。
また、「派遣切り」などによって住居を失った人のために、公的賃貸住宅への外国人の入居を推進したり、外国人世帯の入居を受入れる賃貸住宅における滞納家賃の債務保証を国が造成した基金によって支援するといった住宅対策なども省庁横断で進めることになった。ほとんどは、日本人の失職者対策の延長であるが、外国人特有の事情を考慮した内容にも踏み込んでいる。
ちなみに2007年段階で、日本国内における外国人登録者数は過去最高の約21万5000人にのぼる。これは総人口の1.69%にあたり、国別で見ると製造業での勤務が多い日系ブラジル人の比率が急速に高まっている。例えば、ホンダやヤマハなどの工場を数多く誘致している静岡・浜松市では、約1万 4000人のブラジル人が外国人登録しており、これは他の外国人登録者の数に比べて1ケタも多い。
彼らが直面している課題といえば、先に述べた雇用や住宅確保に関するものが中心となるのはもちろんだが、一方で、同じくらいに重大な問題を見逃すわけにはいかない。それが「教育」にかかわる問題である。定住外国人子弟の通う学校の多くは「私塾」扱い
日本で働く日系ブラジル人は、配偶者や子どもといった家族も共に日本に来ているケースが多い。その子どもたちの多くは、言葉の壁などの理由でブラジル人学校などに通っている。だが、実はそうした学校の多くは日本の文科省による認可を受けておらず、仮にブラジル国の認可を得ていたとしても「私塾」扱いとなっている。当然、公立校に比べて授業料が高額で、親が失業して学費が払えなくなり、退学を余儀なくされる子どもたちが急増している。
ちなみに、対人口比において全国で最も外国人労働者が多い岐阜県では、県内に7校の外国人学校があるが、公的な認可を受けているのはわずか1校に限られる。そして、これら7校に通う生徒約1000人のうち、わずか1年足らずのうちに400人以上が退学していたという調査結果も明らかになった。
こうした事態を受け、先に内閣府が示した「当面の対策」においても、教育対策がトップに掲げられている。その概要は「教育上の問題から外国人学校での就学が困難になった児童・生徒の公立学校への円滑な転入を確保するとともに、子どもたちの居場所づくり等を推進」というものである。
具体的に「公立学校への転入を支援する」施策としては、(1)教育委員会に相談員等を配置する、(2)初期指導教室(プレクラス)を開設する、(3)転入先に外国語が使える支援員等を配置する、などの事業をさらに推し進めるとしている。さらに、現在も外国人学校に通っている児童・生徒に対しては、地方単独事業において「授業料軽減のための助成」を行なっている場合には、特別交付税によって支援するなどの施策を行なうというものだ。
ともすると、今回の景気悪化において「教育」の課題は後回しにされてしまいがちだが、各自治体にとっては極めて深刻という認識がある。2009年 1月6日に施策支援室が立ち上がった際、岐阜県知事が即日小渕担当相に電話で要望を伝えたというが、そうした現場感覚を真摯にくみ取ったという点で、今回の施策は評価できるものといえるだろう。政治的貧困が学費の支給すら危うくしている現状
だが、国とお膝元である自治体が完全に一枚岩であるかといえば、微妙な温度差もまた存在する。その一端を示すのが、岐阜県と国の施策間で持ち上がったトラブルである。
岐阜県によれば、先の退学者急増という調査結果を受け、3分の2を補助する形での「学費の支給」という県独自の施策を打ち出した。子ども1人につき月額数万円規模になるが、これ自体は先の国が示したスキームからは逸脱していない。
ところが、学費が出せない困窮世帯に直接給付を行なった場合、「そのお金が学費に回らず、生活費に消えてしまう恐れがある」という問題が浮上した。そこで、各世帯に支給するのではなく、県内の7校に対して直接支給するという施策に切り替えたのである。
ここで国から「待った」がかかった。7校のうち6校が無認可の私塾である以上、「公金その他の公の財産は、公の支配に属しない慈善、教育の事業に支出してはならない」という憲法89条に触れてしまうというのだ。
岐阜県としては、施策を振り出しに戻さざるをえなくなった。現在、「生活費に消えることなく、何とか教育給付金として活用してもらえる方策が考えられないかを模索しているところ」(国際課)だという。事態が急速に悪化する中で、政策スピードを上げることができないジレンマが同県を覆っている。外国人受入れのあり方には長期的なビジョンが不可欠
以上はあくまでも一例ではあるが、こうしたズレを見るとき、憲法云々の問題以前に、なぜ外国人の子どもたちのための学校が整備されていないのかという現実に目を向けざるを得ない。
先の日系ブラジル人の場合、1990年の出入国管理法の改正により、3世までの日系人を無制限で受入れることになった。これにより多くの日系ブラジル人が日本に出稼ぎに来ることになったが、言葉の壁などがあるため、製造現場などの単純労働に派遣や請負という形で就業する人が多い。つまり、景気が一端落ち込んでしまえば、こうした人々が就業機会を著しく奪われる構造にあったわけだ。
その点を考えたとき、教育はまさに重要なセーフティネットであり、日本の公教育をしっかりと受けた人材が地域の支え役となっていくことを考えれば、国としても教育資源を重視する必要性は高いはずだ。こうした受け皿を整備せずに、入管法だけを改正して「あとは自治体任せ」という姿勢をとり続けてきたとするなら、結局は「安い労働力を確保する」という目先の経済施策だけが優先されていたと指摘されても仕方あるまい。
そのあたりの長期的ビジョンについては、むしろ現場に近い自治体の方がよほど真剣に考えている。現在、岐阜県、愛知県など定住外国人が多い7つの県と名古屋市が「多文化共生推進協議会」を設立しているが、同会では昨年7月に、「多文化社会の推進に関する要望」なるものを国に提出している。
その中の一つに、「多文化共生社会を推進する国の体制の整備について」という項目がある。そこでは「総務省が地方自治体に対して多文化共生施策推進の方向性を提示しているが、国としての役割や地方自治体等との連携のあり方を示す明確な方針が依然として存在しない」という手厳しい言葉が記されている。当事者的な立場にある自治体としては、「国は外国人との共生をどんなビジョンで進めていくのか」について明確な答えを求め始めている。
今回のような施策だけでなく、長期的なビジョンに沿った外国人受入れのあり方について国が本腰を入れる姿勢を示さなければ、国と自治体との間の温度差は、今後もますます広がっていくだろう。
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2009-02-24
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