2009-02-17

「非正規」雇用を考える 経済再建のために処遇改善を

:::引用:::
 □前経済産業事務次官・北畑●生

 自動車、電機など輸出関連産業を中心に連日、減産、雇用調整が報道され、深刻な不況が進行している。日本企業は、極力在庫を持たない効率経営をすすめてきた。家電はもちろん、自動車ですら売れ筋商品は短サイクル化している。作りだめをしても将来売れる保証がないし、現実問題として倉庫がない。直ちに減産を決断するのが賢明な判断だ。

 迅速な不況対応はこれまでにないことで、深手を負うことなく退却し、景気が回復すれば直ちに増産に向かうと期待してよい。

 迅速対応が可能なのは期間工、派遣、請負など製造業の雇用の約3割を占める非正規雇用の存在による。集中的に失職し、誠に気の毒だが、他方、大規模なレイオフが進む米国と異なり、正社員の雇用に着手する製造業は今のところわずかだ。

 ◆不況だけの理由で解雇は違法

 正社員というが、実は明確な定義がない。民法627条の「期間の定めのない労働契約」をした労働者がこれに当たる。解雇権濫用(らんよう)法理の適用を受け、不況だけを理由に解雇するのは違法との判例が確立している。

 年功賃金とあいまって日本独特の終身雇用制度が確立し、モラルの高い労働者、雇用と長期的経営を重視する経営の基となった。カイゼン運動、従業員提案制度、OJTによる技能伝承が機能する背景には終身雇用があり、日本の競争力の原点だ。

 解雇できない正社員を中核としつつ、需要の変動に対応するには、非正規社員が必要で、短サイクル化した製品ほど非正規の比率が高い。人件費の節約だけが目的ではない。

 ◆正社員の働き方に批判も

 他方、会社と人生が運命共同体のようになる正社員の働き方には批判もある。「社畜」と言った評論家もいた。非正規を選ぶ理由の半分は「仕事の内容を選ぶことができ、責任が明確で忠誠心を求められない」からである。他の半分は「正社員になりたいが就職先が見つからず、つなぎとして」という理由で、このような人たちをどう救うかが課題だ。

 製造業への派遣を禁止しても解決にならない。外国企業が指摘する対日投資の障害は、(1)高率の法人税(2)日本語文化の障壁(3)厳格な労働規制-である。グローバル展開をする日本企業にとっても(1)、(3)は同じで、景気回復後の増産は海外で行う、となっては元も子もない。短サイクル化した新製品は日本で作らない、となれば、高付加価値なものが日本に残らない。

 ◆再就職への道を拡大

 私の解決策は次の3点。

 まず、再就職の道の拡大である。増産の際には優先的に再雇用することを義務付けるべきである。正社員への登用の道も開いておくべきだ。

 転職には、職歴、訓練歴など詳細な情報をIT化し、転職を繰り返す人の再就職とキャリアアップを容易にする目的で導入されたジョブカードを活用すべきだ。

 第2に、失業中の生活保障は、雇用保険の出番だ。適用対象となる雇用見込み期間を6カ月に短縮したのは前進だが、それでも救えない人には個別認定を検討すべきだ。給付期間(原則6カ月)も業種や職種を指定して1年、18カ月と延長した前例がある。財源が不足するなら、失業を免れた正社員から割り増し保険料を徴収してはどうか。

 第3に、同一労働、同一賃金を基本に待遇改善をすべきだ。それでも賃金以外の労務費の節約にはなる。ただし、同一労働は生産性の差を考慮すべきで、ある工場では、正社員チームの生産目標500台に対し非正規チームは350台だった。責任の重さにも差がある。これらの差を無視しては正社員から不満が出る。

 非正規社員の処遇を改善し、日本の雇用慣行の中にきちんと位置づけることは、日本経済再建のためにも急務である。

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【プロフィル】北畑●生

 きたばた・たかお 東大法卒。1972年通商産業省(現経済産業省)入省。官房長、経済産業政策局長を経て2006年事務次官。08年退官。現在、日本ニュービジネス協議会連合会および日本生命保険特別顧問。58歳。兵庫県出身。
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