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中国はコーヒーが高い。中国を訪問したことのある日本人ならば、おそらく誰もがそう思うだろう。例えば、北京空港ではコーヒー1杯で88人民元(1人民元は約13円)を払わなければならない。もちろん、おかわり自由というようなこともない。だから、はじめて中国でコーヒーを飲んだ日本人は、きっとびっくりしてしまうだろう。
まずいか、おいしいかという問題以前に、何よりも値段が高い。空港などでは特別に高いが、普通でも25元はする。35元や40元もざらだ。これまで町の喫茶店で私が飲んだ一番高いコーヒーは70元だった。7人分の弁当が買えるほどの金額だ。断っておくが、決して一流ホテルで飲んだものではない。空港のような特殊施設内にある喫茶店でもない。街角にあるごく普通としかいいようのない喫茶店で飲んだものである。70元のときはブルーマウンテンだったが、それもおかわり自由ではなかった。この頃の円高でだいぶ安く感じるようになったとしても、中国では「コーヒーはいかが」という挨拶は安易に口にしてはいけないようだ。
暴利をむさぼるこうしたビジネス行為を、中国では「宰人(発音はザイレン、意味はナイフで消費者を切る)」と表現する。中国でコーヒーを飲むたびにこの言葉を思い出し、体に痛みを感じてしまいそうになり、いうまでもなくコーヒーをおいしく飲めなくなってしまう。
しかも、値段が高い割には決しておいしくない。以前、他のメディアで中国のコーヒー問題を取り上げた時、次のように書いたことがある。「ある日から悟った。どうせおいしくないのだから、一番安いコーヒーを頼むことにしよう。これが中国でコーヒーを頼むときの私の流儀となった。こうして中国でコーヒーを飲みながら、いつも不思議に思う。なぜドトールコーヒーなど日本の喫茶店が中国に進出しないのだろう。なぜすぐそこにある隣国の中国に広がるビジネスチャンスに挑戦しないのだろうか、と」。 しかし、暴利をむさぼるように見えるこうした中国のコーヒービジネスの世界にも徐々に変化が起きた。今年の新年は久しぶりに上海で迎えた。上海の住居としているマンションの下に新しい喫茶店ができた。英国の外食企業がオープンしたイタリア風カフェのCOSTA(珈世家)だ。COSTAは07年に上海に初めて進出し、それから数年の間に中国の主要都市で300店舗の規模を目指すという計画で事業を展開している。コーヒーの味も悪くないし、中クラスのカップなら24元という値段設定はわりと手頃だ。6杯飲んだら1杯サービスという形で単価を下げる努力もしている。しかも店内では無線LANサービスを提供している。静かで快適な環境とかぐわしいいコーヒーの香りに目も心を打たれた私は、コーヒーを飲みつつ、インターネットに接続したまま原稿を書いたりメールをチェックしたりして、毎日のように数時間もこの店でくつろいだ。
ところで、24元の値段設定は手頃といっても、それは収入があるレベル以上の消費者からの感じ方だ。多くの上海市民にとってはそれでも高すぎる。コーヒーの愛好者は増える一方なのに、日常生活の中では簡単に「コーヒーを一杯いかが」とは言えない。こうした矛盾に市場ニーズを見出した台湾企業がある。
08年春に上海に初めて進出した「カフェ85度C」だ。第1号店はフォーシーズンホテルの近くの威海路にあり、開店早々浦東に住む親戚から「フォーシーズンホテルの近くに美味しいパン屋ができて、長蛇の列ができるほどの人気だ」と教えられた。好奇心に駆られて、仕事で上海を訪問した時の夜、無理やり時間を作ってそのうわさの店をのぞいてみた。夜9時半なのに、店は人でいっぱいだった。
のぞいてみて分かったのは、そこはカフェというよりも、コーヒーも飲めるベーカリーのような店であることだった。焼きたてのパンがどんどん棚に運ばれてくる。パンを買って帰る人も多いが、店内でコーヒーを飲みながら、パンをほおばる若いアベックも多い。パンの種類の多さにもびっくりした。見た目も美味しそうだったので、誘惑に勝てず翌朝の朝食用に2個買った。 肝心のコーヒーのメニューをチェックしてみると、アメリカンコーヒーも同店看板のコーヒーも8元だ。「うそ」と思わず叫んだ。一番高いコーヒーでも14元で、日本円に直すと、180円前後である。
深夜にもかかわらず若い男女が溢れるこの人気の秘密は、どうやら美味しさだけではなく、値段の手ごろさもかなりものを言っているようだ。味はスターバックスと同様の品質だが、値段はその約三分の一という含みで事業を展開するカフェ85度Cは大当たりした。その24時間営業のスタイルも上海市民の心をつかんだ。上海に進出してわずか1年で、すでに30店舗を構えるようになった。08年、上海で最もホットな台湾ブランドだと言われている。
08年秋からの金融危機にもまったく影響を受けることなく、計画通り長江デルタ地域に80~90店舗を新規開店しようとしている。品質を守るため、直営店と合弁店だけとするという経営方針を定めた。すでに昆山、蘇州、無錫、杭州に開店している(一部は準備中)。長江デルタ地域の各都市を制覇してから、中国全土を最終目標にする、と台湾のメディアでは報じられている。
そのあまりにも高い人気に、上海のわが家の近くにカフェ85度Cのニセショップもできた。店作りや看板なども本物そっくりで、販売されている商品も同様の内容である。ただ、店名は本物の「85度C」を「85℃」にしただけだ。開店サービスとして一杯のコーヒーが1元とアピールしていた。そこでカフェ85度Cからの通報を受けた警察に踏み込まれた。
ニセショップはもちろん評価できないが、そこまで人気が出たことを考えると、カフェ85度Cの上海進出は大成功だと評価していいだろう。そこで改めて不思議に思う。「なぜ、数年前から噂になっているドトールコーヒーなど日本の喫茶店の中国進出が実現しないのだろうか。なぜすぐそこにある隣国の中国に広がるビジネスチャンスに挑戦しないのだろうか」。コーヒーを飲みながら、いまだに私は日系企業の動きの鈍さを理解できないでいる。
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1 件のコメント:
ロンドンから初めまして。
中国でもコーヒーが高いんですね。
私は台湾事情の方が詳しいのですが、
台湾でもやはりスタバなど1杯のコーヒーが
2食分とか、タイでもカフェでコーヒーを
飲むのは『ステータス』のある人の
贅沢な感じですからね…。
(10代の子がデートでマクドナルドに
連れていくのは、高級なお店に連れていくので逆に羨望の的となるようです)
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