2009-02-05

「日本企業はもっと決断を早く」――太公網・慕社長

:::引用:::

 全世界を巻き込んだ景気停滞によって、企業は待ったなしのコスト削減を迫られている。「実はアウトソーシング先の企業にとっては追い風」と北京太 公網科技発展有限公司の慕紅雲社長は意気込む。中国のコールセンターの現状、日本企業が中国でビジネスを成功させる秘けつを聞いた。


――北京太公網科技発展有限公司の概要を教えてください。

 中国に進出する日系企業の業務のアウトソーシング先として、コールセンターを中心としたサービスを提供して います。拠点は北京と延吉(吉林省)の2カ所で、北京ではコールセンター業務のほか、システム構築やコンサルティングなどを手掛けています。延吉では主に 日本語のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービスを提供しています。顧客はキヤノンやエプソンをはじめとする製造業、自動車会社、IT企業な どです。


――コールセンター運営に必要なSP(サービスプロバイダー)ライセンスの保有を強みにしています。中国でライセンスを取得するのは難しいのですか。

北京太公網科技発展有限公司の慕紅雲社長

 中国でコールセンターを運営するには政府からの許認可が必要です。ライセンスには、省内限定のライセンスと 全国ライセンスの2種類があります。後者は省を越えた中国全土での呼転送が可能で、「95」という特番が付与されます。中国の電話番号は8桁で、当社は 95177を取得しており、その後ろにつく3桁の番号は自由に数字を割り当てることが可能です。従って、最大1000社まで電話番号を提供できるわけで す。番号が変わらないためどの地域にコールセンターをつくってもいいですし、ユーザーは市内料金で電話をかけることができます。

 資本金1000万円以上、全国15都市以上に拠点を持つ会社だけがライセンスを申請する権利があります。ただし、審査が厳しく申請してもほとんど 認可されないのが現状です。ご存じのように中国では人脈が重要で、大手企業や航空会社など政府とつながりのある企業が強いのです。当社はベンチャー企業で あり全国各地に拠点を構えていないのですが、人脈を生かし、日系企業向けにコールセンターを運営したいとアピールしたことで認可が下りました。

日中のサービスの違いにショック

――2001年に太公網を設立する以前は、日本でNECに勤務していました。独立した理由は何ですか。

 わたしは1988年に日本に留学し、その後NECに就職しました。当時の中国はサービスという観念がまった くなかったので、日本に来て「なぜこんなに違うのか」とショックを受けました。元来中国人は客をもてなすことが好きなのに、それがサービスには結び付いて いませんでした。もっと中国のサービスを良くしようという思いをずっと抱いていました。NECでは通信サービス関係の仕事に携わっていたので、そこでの経 験も役に立ちました。


――コールセンターのオペレーターに対する日本語教育はどのように行っているのですか。

 延吉は朝鮮族が多く住んでおり、実は日本語教育が盛んな地域です。留学する人も多く、延吉市内には3000 もの語学学校があります。中学校から第一外国語は日本語ですし、朝鮮語と日本語は文法が同じなので習得が早いです。大卒だと最低で10年間は日本語を勉強 していることになるため、3カ月も教育すれば業務に支障のない日本語を話せるようになります。

 教育方法は、NHKニュースやドラマを観て日常で使われる言葉を習得するほか、日本語検定や現場のクレーム事例集などを教材にしています。日本語を学ぶとともに日本人の感性も知ることができます

日本語に長けた中国人を現地採用

――日本には独特の文化や言い回し、サービス精神などがあります。それに対する教育はいかがですか。

 言葉のニュアンスを教えることは難しいです。幸いなことに当社は、顧客に対して即座に応答する必要のないE メール業務も多いので、少しずつ日本のやり方を体験し学ぶことができます。そのほか、1、2カ月間のコールセンター業務を音声録音し、それをすべてテキス トに起こす仕事もあります。それを繰り返すことで日本人特有の言い回しなどに慣れていきます。


――オフショア先として大連や成都を選ぶ日本企業は多いです。ほかの地域と比べて延吉が勝っている点は何ですか。

 やはりコストでしょうか。大連では日本語を話せる人材が少ないので、コールセンターを離職して別のコールセ ンターで働くという人が多いです。その過程で給料が上がっていくため、平均的な人件費も高くなっています。それに伴い、人材の確保も難しくなっています。 コールセンターのマネジャークラスであれば大卒でも就職しますが、オペレーターの仕事はまずやりたがりません。

 延吉では、コールセンターは「きれいな会社でパソコンを使える」という高級な仕事なので大卒の優秀な人材を確保することも可能です。さらに地元志向が強いため、離職率が低いのです。


――組織の中で中国人社員を管理していくのは難しいという声を聞きます。社長として部下をマネジメントする上での苦労はありますか。

 当社では業務をマニュアル化して、厳しく管理しています。オペレーターの管理は比較的容易で、この方法でうまくいっています。中国のコールセンターの離職率は30%だと言われていますが、当社は20%程度です。

 マネジメントが難しいのは技術部門や営業部門の社員です。中国人は米国人と似ていて上昇志向が強く、給料の高い会社に行きたがります。優秀な人材を引き止めるために、会社のビジョンに共感してもらったり、魅力的なキャリアパスを示してあげるといった工夫が必要です。

決断のスピードを早くするべき

――「小皇帝」と呼ばれる一人っ子政策以後に生まれた世代が台頭してきています。企業組織の中でも変化はありますか。

 昔の中国人は公私にわたって付き合いがありましたが、今の若者は仕事は仕事、プライベートはプライベートと 割り切っています。今中国は就職難なので、たとえ給料が低くても仕事があれば働きたいという人は多いです。一人っ子世代の若い社員もやる気はありますが、 苦労した経験がないので、ちょっとした問題にぶつかるとすぐに投げ出してしまいます。わたしたちの若いころと比べて辛抱強さに欠けています。


――日本企業が中国企業あるいは中国人とうまくビジネスを進めていくための秘けつはありますか。

 郷に入れば郷に従えで、中国人の習慣や考え方を理解するのは大前提です。日本は資金力、管理品質のノウハウ があるので、いかに中国現地のリソースとうまく組み合わせていくかが重要です。日本企業はもっと決断のスピードを早くしなければなりません。1、2年もか けて案件を検討するのはもはや時代遅れです。


――GDP(国内総生産)成長率が鈍化するなど、このたびの経済危機は中国にとっても無視できないほどのインパクトがあります。景気不安による影響は出ていますか。

 既存顧客からはコスト削減の要求が出ている一方で、オフショアのコールセンター業務の新規案件が増えてきて います。経済危機が追い風になっていることも事実です。特に日本企業はコスト削減に対して目の色が変わってきています。以前は「(中国人オペレーターの) 日本語のイントネーションが悪い」という理由でオフショアを敬遠していた企業が、もはやささいな点にはこだわらなくなってきました。


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