◇救済阻む故郷の借金 弁護士「返済するまで手出せぬ」
「越年カンパのお願い」--。中国人女性4人が12月上旬、熊本市の県労連事務所で支援を訴えるチラシを、丁寧に封筒に入れていた。彼女たちは外 国人研修・技能実習制度で熊本県天草市の縫製会社や同県阿蘇市の農家で働いた。だが、あまりの過酷な環境に逃げ出したという。現在、研修先などに損害賠償 を求める訴訟を起こしており、アパートで身を寄せ合って暮らす。
就労資格がないため、生活費は支援者のカンパが頼り。ゆとりのある生活はできないが「今はやさしい日本人に囲まれてうれしい。以前は人間扱いされなかったから……」。
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06年4月に来日した谷美娟さん(21)は天草市の縫製会社で働いた。時給250円ほどで、残業が午前3時に及ぶこともあった。一部屋に12人が 暮らし、シャワーは一つだけ。交代で浴びるため、寝るのはいつも未明だった。家族には国際電話で「元気だよ」とうそをつき、ベッドで一人涙を流す日々が続 いた。昨年9月、強制的に帰国させられそうになり、知人の中国人女性の携帯電話に助けを求めた。
〓慧玲さん(22)は阿蘇市に「農業研修」を目的にやって来たが、加工場での鶏の解体作業に送り込まれた。農業とは関係なかった。「中国人を見下し、物のように扱われた」
「借金を抱えたまま、帰国させられるのが一番怖かった」(谷さん)。4人がすぐ逃げ出さなかった背景には「借金」と「違約金」がある。来日するた めに中国の派遣会社に支払った登録料は約70万円。月給1万~2万円の彼女たちは親類らの借金で工面した。さらに、谷さんの契約書には労働組合に加入した り、契約以上の待遇を要求すれば、派遣会社が約150万円の違約金を請求できると書かれていた。
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4人の裁判を担当する熊本市の小野寺信勝弁護士は「相談を受けて最初に確認するのは借金が残っているかどうか。返済するまでは助けたくても手が出 せない」と明かす。拙速に介入すれば、帰国後の人生の破滅を招きかねない。借金を肩代わりできない以上、悲痛な訴えにもすぐに応えられないジレンマに悩ま されている。
小野寺弁護士には、研修先の監視をかいくぐって助けを求める中国人たちが後を絶たない。谷さんたちも不安定な暮らしを強いられながら、仲間の相談に乗り励ましている。「もう同じ経験を誰にもさせたくない。少しでも制度を変える力になりたいんです」
毎日新聞 2009年1月4日 西部朝刊
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