成都市金牛区撫琴西北街のマージャン店で、王秀芹さんはお年寄りにお茶を入れながら、「券の給付はとてもよかったが、現金だったらもっとよかった」と話した。王さんの言葉に周りの人も同調した。
金牛区には王秀芹さんのような最低生活保障対象者が8903人、高齢の復員軍人・身障軍人など軍関係の重点優遇対象者が1298人住んでいる。彼らはいずれも成都市が発給した買い物券(消費券)の恩恵を真っ先に受けた人たちだ。
王秀芹さんは「紅旗スーパーですぐに米と油を買った人もいたし、ひとまず家へ持ち帰った人もいた。家には米と油が足りている人もいたから、もし、お金でもらっていたら他の出費に回せたのに」とその時の様子を語った。
実は、多くの住民が考えているのと異なり、成都市政府のこの措置は単なる「生活救済」ではない。今回の「新政策」は、買い物券の給付を通して、低所得層の所得を引き上げ、社会の分配格差を縮小し、需要増を促すという試験的な意味合いがある。
成都市民政局の王氷副局長は「住民の生活にかかわる政策は直接効果を上げやすいので、他部門に先駆けて実施した」と率直に述べた。
買い物券を発給した動機
買い物券とは、民間消費を促進するための時限的な補助通貨システムであり、日本では1999年に「地域振興券」という名で発給された。台湾でも2000年に、それにならって実施し始めた。
王氷副局長は、買い物券は一連の政策の一部にすぎないと言う。衛生、教育、文化、観光などの部門も内需促進政策を検討中だが、買い物券のような形になるだろうという。
「内需拡大は、主に投資と産業の発展によらなければならない。しかし、われわれは今回の措置の内需促進効果にも期待している」と王氷副局長は説明する。
買い物券の発給を担当する成都市民政局最低生活保障処の閔処長は「今週中に、すべての買い物券の発給が完了する」と言った。
買い物券の発給プロセスは、「民政部門がマーケット・商店から買い物券を購入→各拠点に配分(各世帯に配布)→条件に合致する住民が指定の商店に行き、買い物券で買い物→1月31日以降に市政府が財政決算を行う」というものだ。
買い物券発給に要する資金3791万元は、市と県の価格調節基金が共同で負担する。具体的には、高新区(ハイテク区)は自前で解決。竜泉駅区、青 白江区、新都区、温江区、双流県、ヒ(ヒは「卑+おおざと」)県が必要とする資金は市と県の価格調節基金が折半で負担。その他の区、県級市、県が必要とす る資金はいずれも市の価格調節基金が負担する。
条件に合致する住民とは、2008年12月1日から20日までに登録を済ませた成都市戸籍を有する(1)都市・農村部の最低生活保障対象者 (2)農村の「五保」対象者(訳注:「五保」とは、働く能力がなく身寄りのない人に対して衣・食・住・医療・葬儀を保障すること)(3)都市・農村部の軍 関係の重点優遇対象者など3つのカテゴリーの人たちを指す。人数は37万9100人で、成都市人口の4%を占める。これらの人たちは1人当たり50元券2 枚を受け取ることができる。
しかし、これに対する成都市の社会各界の反応はさまざまだ。
四川省経済発展研究院の王小剛院長は「発給と決算の流れからみて、買い物券は政府の住民サービスにしかすぎず、消費の刺激作用はそれほど期待できないだろう」と指摘する。
買い物券の乗数効果に期待
成都市では11月初め、早々に「内需拡大と経済の安定発展に関する意見書」を発表し、その中で、都市・農村部住民、特に低所得者層の所得水準を引き上げ、住民の消費環境を改善しなければならないと提起していた。
「われわれは『意見書』に基づき、市党委員会の同意を得て、(買い物券と職業訓練券発給の)二大政策措置を打ち出した。2005年以来、成都市で は最低生活保障対象者など3つのカテゴリーの住民に50元の祝祭日手当を支給してきた。今年は経済情勢を考慮し、手直しした」。王氷副局長はこう語る。
成都市のこの措置は単なる試験的試みだ。買い物券の発給に伴い、同市の貧困層が単に最初に恩恵を受けるグループとなっただけ、ということになるかもしれない。
成都市の財政収入データによれば、08年1~11月の財政収入額実績は1013億4000万元で、10.3%増だったが、11月の伸び率は前月を 2.4ポイント下回った。そのうち地方財政一般予算の収入額実績は308億5000万元。伸び率は19.8%だったが、前月を2.5ポイント下回った。
ある評論家は次のように言う。政府財政が間違いなく黒字で、しかも税収の大幅増が見込まれるなら、買い物券の発給は住民への富の分配となる。しかし、政府財政がひっ迫している場合、買い物券の本質は将来の富の先食いであり、一種の赤字政策である。
「成都市は全国と同じく輸出が減少し、投資効果も顕著でない。今やらねばならないのは最終消費を喚起することであり、それには買い物券が最も効果 的だ。この措置には、必ず将来得るところがある。この観点から、財政の先食いだと言い切ることはできないと思う」。政策の策定に直接かかわった成都市経済 研究院の専門家、王軍氏はこう述べた。
経済学者のロバート・マンデル氏の処方箋はより強烈だ。12月19日に広州で開かれた第1回浙江企業サミットフォーラムで、ノーベル経済学賞受賞 者で“ユーロの父”として知られるマンデル氏は「中国政府は全国に向け1兆元の買い物券を発給し、3カ月以内と期限を切って消費させるべきだ。そうするこ とで中国が直面する経済危機を効果的に解決することができる」と発言した。
これに対し王軍氏は「マンデル氏が言うのは、経済学でいう“乗数効果”に期待するということだが、私は一概にそうは言えないと思う。なぜなら、ま ずこの概念は投資の面で提起されたもので、消費の効果を考察する場面に適用するのはあまり適切ではないし、その上、効果を確認するにはある一定期間見なけ ればならないからだ」
乗数効果(Multiplier Effect)をさらに説明すると、「支出と収入の乗数効果」である。マクロ経済学の概念であり、支出の変化は経済総需要の変化をもたらすが、その変化は 支出の変化と比例しないことを指す。政府の投資あるいは公共投資が拡大し、税収が減少するとき、国民所得に対し乗数(掛け算的)拡大作用を及ぼし、そこか らマクロ経済の拡張効果を生むというものだ。
買い物券あるいは職業訓練券の乗数効果はいつ現れるのか? それについては、市政府の関係者や学者も、切実に待ち望むしかないと言う。
「買い物券の使用期限は09年1月末までだ。したがって、乗数効果があるとすれば、おそらくまず春節の一部の小売商品の売り上げに具体的に現れるだろう。われわれはさらに追跡調査を行い、この政策の実際の効果を確認したい」と王軍氏は言う。
より効果的な職業訓練券
乗数効果をさておくとすれば、成都市政府が直面する難問題で最も緊迫するのは、実は大量の農民工(出稼ぎ労働者)の帰郷だ。
人的資源・社会保障部が12月初めにまとめた「金融危機が雇用に与える影響の最新データ調査報告」によると、四川省では11月末までに故郷に帰っ た農民工は75万1000人で、農民工全体に占める割合は5.8%。この“労務輸出大省”から出稼ぎに出かけた農民工の総数は、08年9月末現在で 1295万人に達していた。
成都市は買い物券のほかに、職業訓練券も発給する。政策の背景には厳しい雇用情勢がある。
成都市就業局労務開放処の説明によると、成都市から他の地区へ出稼ぎに出た農民工は58万人近いが、そのうち帰郷した者はすでに9万人を超える。 これに加え、2008年とそれ以前の年度の大学・専門学校卒業生でまだ就業できていない者が2万人、企業の操業停止やリストラで失業した者が3万人おり、 情勢は楽観を許さない。
四川省経済発展研究院の王小剛院長によると「職業訓練券の効果はおそらくさらに大きい」という。
職業訓練券の発給対象は、帰郷した農民工、2008年とそれ以前の年度の大学・専門学校卒業生でまだ就業できていない者、および企業からリストラされた失業者だ。
「発給プロセスは買い物券とほぼ同じだが、資格審査がかなり煩雑だ。もう印刷は終わっている」と、成都市就業局職業訓練処の李大陽処長は言う。
王小剛院長は「券の使用方法と最低生活保障対象者など3つのカテゴリーの住民自身の暮らし向きを見ると、買い物券は社会的意義が、より顕著だ。一方、職業訓練券そのものは金融危機がもたらした一連の雇用圧力の解決だ」と指摘する。
李大陽処長は次のように言った。「われわれは今回の職業訓練券の発給対象者を15万人と予測するが、その中心は帰郷した農民で約10万人だ。したがって、われわれは職業訓練機関に対し、これら対象者の就業率が半年以内に60%以上に達することを求めている」
また「今回の職業訓練券が模索する一つの方向は、効果的な労務の需給システムを構築することだ。職業訓練券を持つ人は各種の職業技能訓練機関や訓 練を受ける専門業種を自分で選ぶことができる。一方、訓練業種の設定で、われわれは市場の求人情報と随時リンクさせ、可能な限り“受注”式の職業訓練を実 施する」
(記者:宋超=21世紀経済報道、成都発)
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