2009-02-10

記者の目:超高齢化進む日本での外国人介護労働者

:::引用:::
日本とインドネシアとの経済連携協定(EPA)に基づき日本語研修を受けていたインドネシア人介護福祉士候補者101人が、1月末から全国各地の介 護施設で働き始めた。昨年春に協定が国会で承認されて以来取材を続けてきたが、中途半端な形での受け入れという印象がぬぐいきれない。世界で最速級に高齢 化が進むなか、介護人材の確保策として外国人労働者をどう受け入れるのか、国としての立ち位置が定まっていないからだ。

 06年3月、当時外相だった麻生太郎首相は、日本記者クラブでのスピーチでEPAを「互恵互助の仲間づくり」と述べ、2国間の人材交流も含めた経 済関係進展の意義を強調した。インドネシア人看護師、介護福祉士候補者受け入れは、外務、経済産業の両省が先導する形で、日本語研修費用の大半を政府開発 援助(ODA)で負担した。これに対し、看護師や介護福祉士を所管する厚生労働省は「人手が不足しているから受け入れるのではない。特例的なものだ」との 立場で、インドネシア人候補者が働き始めてからの研修や相談体制などは基本的に施設側に委ねる姿勢だ。「働くことで利益を受けるのは特定の施設に限られて いる」というのがその理由だ。

 今回の受け入れは外国人労働者への市場開放とは異なる。形式上は「研修」と「資格取得」となっているが、就労できる枠組みでもあり、外国人研修制 度に似ていると指摘される。外国人研修制度もEPAも、人材が不足している分野での「就労」が主目的なのに、別の衣を着せられている。外国人労働者の受け 入れの是非を正面から論じることを避けているように思えてならない。

 インドネシア人の候補者は今後、働きながら3年後の介護福祉士試験に向けた勉強をしなければならない。合格率は日本人で5割前後と厳しい。にもか かわらずインドネシア人の国家試験受験チャンスは一度だけで、受からなければ帰国を余儀なくされる。合格までの教育プログラムも整備しないまま「(結果 は)やってみないとわからない」というのでは、候補者たちに失礼ではないだろうか。

 外国人介護労働者の受け入れはいまだに賛否両論があり、「まずは国内の介護労働者の労働環境と待遇改善が先だ」という意見がある。異論はない。人 手が足りず「お年寄りと会話もできないほど忙しい」「夜勤を月4~5回しても手取り15万円」などという話は残念ながらざらにある。こうした厳しい現状を 放置することはできない。

 今年4月からは、待遇改善のため介護報酬が3%上がる。日本の介護労働者の待遇は、介護報酬である程度政策的に決められる。国民から負担の合意が得られ、20~30%引き上げられるのなら、国内の人材だけで当面の需要を十分に賄えるのかもしれない。

 だが、長期的にみれば25年には75歳以上が現在の1300万人から2200万人に増え、高齢化のピークを迎える。この時、高齢者を支える労働力は数百万人減るとみられている。

 外国人介護労働者問題に詳しい安里和晃(あさとわこう)・京都大大学院特定准教授は「外国人の受け入れで解決するわけではない。大事なのは地域の 事情に応じてどういう選択肢がとれるかだ。政策のパッケージは多くあっていい」と指摘する。介護人材の確保策として外国人労働者の受け入れを、選択肢の一 つにはっきり位置付けるべきだとの考えだ。

 その通りだと思う。外国人介護労働者の受け入れについて、早急なコンセンサス作りを始めるべきだ。

 日本以外の国に目を転じれば、高齢化に伴い介護労働者の国際移動が活発化している。介護現場のグローバル化の流れで、外国人からケアを受けること は特別なことではなくなっている。日本も実態として多くの外国人と暮らし、外国人からケアを受けることだけを特別視する人はそう多くないのではないか。外 国人を受け入れると「安かろう悪かろう」になるのではないかという懸念を抱く人もいるだろうが、そうなるかどうかは、私たちの受け入れ方次第だと思う。

 インドネシア人に続き今春からはフィリピン人の看護師・介護福祉士候補者も来日する。言葉やコミュニケーションなど、介護の現場で働くためにはさまざまな課題があるが、他国の「ケアの文化」を知るいい機会にもなるはずだ。

 横浜市の特別養護老人ホームで働くインドネシア人の女性介護福祉士候補者(27)は「日本で働く経験はチャンス」と目を輝かせていた。

 日本人と外国人--。まず介護スタッフとして助け合い、互恵的な仲間になれるのかが試されている。(有田浩子・生活報道センター)


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