本連載は今回で6年目を迎える。
「ITの進化とグローバリゼーション、それに伴う仕事と所得の平準化に対して、自分戦略として個人の高付加価値化は必須である」という考えのも と2003年11月にスタートした第1回「海外のエンジニアは脅威か」では冒頭で以下のように述べた。
「おそらく、読者が本文を読んでいるこの瞬間に、現在の仕事を『真正面から』奪われることはないだろう。しかし、3カ月後、半年後に、いまと同じ就労環境が続くとは、誰が確信を持っていえるだろうか。」
2003年の文章である。それからすでに5年たったが、ITとグローバリゼーションの影響を皆さんはどう受けただろうか。変化を乗りこなし自らの力とすることができただろうか。それとも飲み込まれそうになっているだろうか。
2005年に新卒学生の就職氷河期が終わり、2006~2007年は企業にとって採用が難しい採用氷河期といわれた。現在は、アメリカのサブプライムロー ンに端を発した世界的同時不況の影響で、就職活動を始めた2010年入社の大学3年生は、厳しい就職難に見舞われている。国内だけをみても、わずかこれだ けの期間で、なんという目まぐるしい変化だろう。
同じく連載第1回では以下をお伝えした。
「例えば、日本向けのオフショア開発のため、来日している海外ITエンジニアの数は氷山のほんの一角にすぎない。中国を中心とした、現地にいるITエンジ ニアが労働力の物理的な移動を伴わず(つまり来日せず、あなたの職場に来て隣の席に座らなくても)、現地にいたまま(つまりは現地の雇用システムに組み込 まれていながら)、専用線を経由して日本の業務を支えることにより、実質的に日本の雇用市場に影響を与えているのである。」
当時は一部の人たちにしかピンとこない話であったが、いまや中国のBPO(Business Process Outsourcing)要員が来日して研修を受けるというテーマが「OLにっぽん」というテレビドラマになり目に見えるところまで一般化してきた。この ように、経済・社会的外部環境だけでなく、就職・転職活動でも、普段の職場での勤務においても、大きなうねりを避けて通れない。自分の人生を生きるのであ れば、誰であろうと、どのポジションにいようと、自分で責任を持って行動しなければならない。さもなくば、ITエンジニアは「ニッポ二アニッポン(日本を 象徴する鳥のトキ)」のように絶滅寸前まで激減してしまう恐れさえある。連載が6年目を迎える現在、筆者はあえて連載第1回と同じ言葉をいい続けようと思 う。「ITの進化とグローバリゼーション、それに伴う仕事と所得の平準化に対して、自分戦略として個人の高付加価値化は必須である」と。
■アジアのエンジニアたちが持つ日本企業へのイメージは「良い」
海の(回線の)向こうのアジアのエンジニアたちは日本企業をどう考え、キャリア形成で何を重視しているか――ここにインドネシア、マレーシア、シンガ ポール、フィリピン、タイ、ベトナム、インドの人材を対象とした調査結果があるので紹介しよう。皆さんも一緒に仕事をする機会があるかもしれない。
図1 日系企業に対すイメージ 居住国別ランキング(N=2万8649人) 出所:ジョブストリート/エーオンコンサルティングジャパン
図1の 日系企業に対するイメージ居住国別ランキングを見てほしい。最も日本に好意的なのは、インドであり、「非常に良い」「良い」の合計が83.8%にも達す る。次にフィリピン(77.9%)、タイ(75.3%)、インドネシア(72.4%)、ベトナム(68.8%)、マレーシア(65.7%)、シンガポール (51.9%)と続く。地理的にも、文化的にも遠いと思われるインドが1位にきているのは不思議な気がするが、実際には日本の情報がほとんど入らないた め、自動車や家電など日本製品のブランドの人気と考えてもいいかもしれない。いずれにしても7カ国すべてにおいて半数以上が日本に好意的な回答を寄せてい る。日系企業のイメージは悪くなく、むしろ好意を持たれているようだ。
上記の日系企業に対する好意的なイメージを裏付けるように、日系企業に就職を希望する人も全体の74%と多い(図2)。
図2 日系企業への就職希望(N=2万8649人) 出所:ジョブストリート/エーオンコンサルティングジャパン
第32回 “エンジニアにっぽん”にアジアのエンジニアが思うこと
小平達也
2008/12/24
アジアのエンジニアが日系企業に就職を希望する理由としては、
・規律正しいから
・マネジメントがしっかりしているから
・良いキャリアになるから
・高い技術が身に付けられるから
・チームワークを重視した働き方がされているから
などが挙げられている。規律やチームワークといった日本企業の仕事の進め方自体が評価されている。一方で、同調査では、実際に日系企業での勤務経験者のうち今後日系企業への就職を希望しない理由として以下のようなコメントが挙がっている。
・昇進が能力よりも勤続・年数によって決まること
・規則が多い、仕事量に対して給与が低い
・マネジメント層がローカルスタッフを尊重しない
・マネジメントの役職が日本人のみであること
・日本人はいつも日本式のやり方・文化に固執する
・職場におけるプレッシャーを感じることが多く、仕事量が多い
・時間管理が厳しく、少しのミスも許されず、非寛容であること
・残業、長時間労働が良しとされ、効率的な働き方が評価されていない
・米系や欧系企業に比較して、福利厚生(休暇、特別ボーナスなども含む)が整備されていない
給与、福利厚生などに対する不満と併せて、日系企業のマネジメントのスタイルについては厳しいコメントがある。
■現地の人材にとって日系企業で就職する際の障害は?
さらに同調査では「現地の人材にとって日系企業に就職する際の障害となっているもの」、という項目があるのだが、多い順に以下の結果が出ている(※回答人数2万8679人 )。
1.言葉(2万2752人)
2.昇進の機会が少ない(7421人)
3.閉鎖的な雰囲気(6072人)
4.給与が低い(5772人)
5.研修機会が少ない(3639人)
今回対象とした、インド、フィリピン、タイ、ベトナム、インドネシア、シンガポール、マレーシアの人材にとって、日系企業で働く難しさとしては言葉=日本 語の壁が群を抜いている。実は、日本企業も同様の難しさを感じているようだ。経済産業省が発表した平成18年度「日本企業における外国人留学生の就業促進 に関する調査研究」報告書では企業が日本で留学生を採用する際に重視するポイントが回答されているが、ここでも第1位は日本語であった。やはり日本語とい う壁は本社、海外現地法人問わず共通の壁になっているようだ。
連載第30回「会社が海外進出したら? ITエンジニア、5つの備え」では情報システム部のグローバル化について紹介したが、アジアもしくは現地拠点で仕事をする日本人エンジニアは、日本企業のどの点が評価されているか、逆にどの点が不評なのかよく認識したうえで仕事を進めた方がよいだろう。
本稿で引用した調査について | |
調査機関 | ジョブストリート/エーオンコンサルティング |
調査方法 | Webリサーチ |
調査期間 | 2008年9月9~16日 |
標本数および有効回収数 | メール開封人数: 20万7819人 回答数(率): 2万8679人(13.8%) |
調査対象者 | アジア最大のインターネット求人サイト「Jobstreet.com」(本社マレーシア、登録者数500万人超)の登録者のうち、下記の条件を満たす高度専門職の現職者 |
抽出条件 | ・居住国:東南アジア6カ国(インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、タイ、ベトナム)+インド |
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